7.4 詳細法によるケース1Aの計算結果

 前節までに示したように、1968年日向灘地震の観測記録との比較検討により、当初「海溝型レシピ」に拠って設定したケース1に対して、微視的断層パラメータを一部変更したケース1Aの方が、より観測記録との調和性が高いとされた。そこで本節では、ケース1Aについて計算結果をまとめて示す。

(1)統計的グリーン関数法による強震動予測

 図7.4-1に統計的グリーン関数法による詳細法工学的基盤面での最大速度分布を示す。

 同図によれば、速度の最も大きい地域は、高知県南西部で20〜40cm/s程度となっており、同地域周辺と愛媛県南端部で10cm/s以上となっている。一方、九州側では、宮崎県の海岸部および一部内陸に向かって10〜15cm/s程度あるいは、15〜20cm/s程度となっており、震源に近い宮崎県北東部のごく一部で20cm/s以上となる地域が点在している。

(2)三次元有限差分法による強震動予測

 予測結果として、ここでは以下の内容についてまとめる。

  1. スナップショット
  2. 最大速度振幅分布
  3. 測線沿いの速度波形表示

1)スナップショット

 図7.4-2 (1)(2) に、差分法による詳細法工学的基盤面での地震動の伝播の様子を、スナップショットにして示す。表示方法は、6.2節で示したケース1およびケース2の場合と同様である。
 これらの図によれば、破壊開始点と各アスペリティを結ぶ方向(北東方向および南西方向)に、ディレクティビティ効果による強い地震動が伝播している。また、宮崎県南部の宮崎平野の沿岸域については、地震基盤が深い(堆積層が厚い)ことによって、振幅の大きい揺れが長時間継続している。この傾向は前述のケース1と同様の傾向を示している。

2)最大速度分布

 図7.4-3 (1)(2) に、差分法による詳細法工学的基盤面での最大速度分布を示す(NS成分およびEW成分それぞれの結果を示す)。これらは、差分法の結果に0.5Hz のハイカットフィルターを施した波形による結果である。
 これらの図によれば、最大速度は、全体的にEW成分の方が大きく、宮崎県の海岸部付近で10〜15cm/s程度となる地域がある。また、大分県から熊本県の阿蘇地域にかけてもやや速度が大きくなっている地域が点在する。一方、四国側については、高知県南西端部で6〜8cm/s程度の地域がわずかに広がっている程度である。

3)測線沿いの速度波形表示

 図7.4-4に断面を設定した測線の位置図を示し、図7.4-5 (1)(4) に、各断面における深部地盤構造と差分法による詳細法工学的基盤面での速度波形を示す。
 これらの図によれば、ケース1と同様、堆積層の厚い宮崎県南部沿岸地域について、深部地盤構造の影響によるものと推測される、振幅の大きい後続波が認められる。これら後続波が多く見られる部分は、ケース1と同様、中間層( =3.5km/s層)までの層厚が厚い部分に相当しているように見える。さらにそれら中間層が凹状(盆状)になった構造の上部に厚く分布している部分で、後続波が顕著に認められるようである。これらの状況は、ケース1と同様、特に北緯31.8°断面で顕著に見られる。
 一方で、北緯32.6°断面では、地震基盤が深い凹状になっているにも関わらず、振幅の大きい後続波は顕著には見られない。この断面での深部地盤構造は、地震基盤までの深さは深いものの、中間層までの層厚は薄くなっており、そのため顕著な後続波が励起されないものと推測され、この特徴もケース1と同様である。

(3)ハイブリッド合成法による強震動予測

 図7.4-6 (1)(3) に、ハイブリッド合成法による詳細法工学的基盤面での最大速度分布(水平2成分およびそれらのベクトル合成)を示す。
 これらの図によれば、水平2成分を合成した最大速度は、高知県南西端部が最も速度が大きく、40〜60cm/s程度となる地域があり、高知県南西部から愛媛県南部にかけての地域で10cm/s以上となっている。九州側では、宮崎・大分県境の海岸部から宮崎県全体の海岸部にかけて10cm/s以上となっており、一部の海岸地域では15〜20cm/s程度となっており、特に宮崎県北部の延岡周辺では、20〜40cm/s程度となっている。また、大分県の国東半島から熊本県の阿蘇地域にかけて、10〜15cm/s程度となる地域が点在している。
 図7.4-6 (4) は、図7.4-6 (3) の詳細法工学的基盤面の最大速度に、表層地盤の増幅倍率を乗じて地表の最大速度を求めた結果である。さらに図7.4-7は、地表での最大速度から経験式により計測震度を求めた結果である(図7.3-22のケース1Aの図を再掲)(図7.4-8には1968年日向灘地震の震度分布を併せて示した)。
 ケース1と同様、地表の最大速度は、詳細法工学的基盤面での分布とほぼ同じ傾向を示しているが、平野部については、増幅率が1.0倍以上となっている地域も多く、その影響で、宮崎県の海岸部で15〜20cm/s程度となる地域が、詳細法工学的基盤面での分布地域よりもやや広がっている。
 震度については、前節で1968年日向灘地震の震度分布との比較を示しているが、四国側では、震度4〜6弱であり、高知県沖ノ島周辺で震度6弱となっており、南西部ではやや大きめとなっている。一方、九州側では、ほぼ震度4〜5強であり、宮崎県の海岸の一部地域で震度5強となっており、全体的には、ケース1よりも1968年日向灘地震の震度分布との対応が向上している。
 図7.4-9に距離減衰式との比較を示す(図7.3-23を再掲)。距離減衰式との比較についても前節で示しているが、計算結果は、距離減衰式の平均値±σの範囲にほぼおさまっており、距離減衰式との対応は良好である。
 図7.4-10 (1)(3) には、参考として宮崎県、大分県、高知県内の14地点(ケース1と同一評価地点)における統計的グリーン関数法(SGF)・三次元有限差分法(FD)・ハイブリッド合成法(HYB)による時刻歴波形(速度波形)を示す(表示方法はケース1と同様とした)。
 これらの図によれば、地震基盤までが深く堆積層の厚い宮崎市や日南市では、主要動以降の周期の長い後続波が長時間続いているのが見られる。また、九州側では、2つのアスペリティの破壊に対応した波群が見られるなど、主要動部分の波の継続時間が比較的長くなっているのに比べて、四国側では、主要動部分の継続時間が短いという特徴を示している。

7.5 詳細法による3つのケースの結果比較

 6章および7章前節までに、日向灘の地震を想定した強震動予測について、3つのケースの予測結果を示した。
 4章で述べたように、日向灘のM7.5以上のプレート間地震については、長期評価において震源が特定されておらず、評価領域内のどこかで地震が発生するものとして地震発生確率等が評価されている。このような長期評価の下で、本検討では、過去に発生した地震に着目し、「海溝型レシピ」およびその当時の記録等を参考にして、断層パラメータの設定を行った。
 上述のように、長期評価においては、本領域における地震が空間的にランダムに発生するとされていることから、本領域全体における強震動に関わる平均像や、特定された“次に起こる地震”を想定した強震動評価は困難である。
 そこで、今回検討した3つのケースの詳細法による結果から、宮崎県内におけるケースの違いによる地震動強さの違いを比較してみた。比較に当たっては、宮崎県内の市役所・町村役場に最も近い評価地点のデータを抽出した。
 抽出したデータの一覧を表7.5-1に示す。表中の平均は、3ケースの値の単純平均ではなく(1968年日向灘地震を想定したケースに対する重み付けが多くなるのを避けるため)、“ケース1とケース1Aの平均値”と“ケース2”の平均としている(なお、「小林市」と「えびの市」は、ケース1およびケース1Aの計算領域外のため、ケース2の結果のみ表記)。また、これらのデータを市役所・町村役場の位置について、北から南に向かって並べて表示したものを図7.5-1に示す。
 震源断層の設定位置などから、宮崎県北東部の一部を除く大半の地域では、ケース2の方が最大速度値は大きく、これは、ケース2の震源断層が海岸近傍直下に位置している影響が大きい。各地点のケースによる地震動の大きさの違いは、差が小さい地点もあるが、最大速度で5倍以上も違う地点(例えば北郷町)もある。
 地表の震度については、全体的には震度4〜6弱の範囲となっているが、ほとんどの地域で震度5弱〜5強程度である。ただ、地域によっては、ケースの違いによる計測震度の幅が1.0以上の所(例えば日南市など)もあり、震源断層の設定条件の違いによって震度で2階級程度の違いが生じている。
 さらに、震源断層が限定されていないということは、今回想定した2つの震源断層以外の位置で地震が発生する可能性もあることを示唆しており、例えば両者の中間的な位置で同規模の地震が発生した場合は、宮崎県中北部などでは、今回設定した3つのケースよりもさらに大きな揺れとなる可能性も考えられる。
 いずれにしても、今回のような地震発生領域は特定されているものの、震源断層が限定されていない地震については、限られた設定ケースのみによる比較検討だけで、当該地震の全体評価や平均像を定量的に判断することは困難であり、また、震源断層の設定条件によって、予測される地震動の強さに大きな差が生じる可能性があることにも留意が必要であると考えられる。


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