4.断層モデルの設定

4.1 断層モデル設定の考え方と方針

 「日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価」(地震調査委員会,2004a,以降「長期評価」と記す)では、日向灘のプレート間地震として最大規模のものはM7.5程度であるとし、M7.5以上のプレート間地震とひとまわり小さいプレート間地震とで分けて評価した。このうちM7.5以上のプレート間地震は、江戸時代以降現在までに1662年(M7.6)、1968年(M7.5)の2回発生している。そして、日向灘のプレート間地震の将来の活動について、今後30年以内にM7.6前後の規模の地震が当該評価対象領域(図4.1-1)のどこかで発生する確率が10%程度と推定している。一方、ひとまわり小さいプレート間地震は、気象庁震源カタログが整備された1923年以降、3回ないし4回(1984年、1961年、1941年、1931)発生したと判断された(ただし、その中で最新である1984年の地震は、プレート内地震である可能性がある)。
 上記長期評価に基づき、本報告においては、地震規模がM7.5程度の地震を対象とし、1968年日向灘地震に対応するものとして、領域内北部に震源域がある場合(ケース1)と、1662年の日向灘の地震に対応するものとして、領域内南部に震源域がある場合(ケース2)を想定した。そして、地震調査委員会(2004b)による「海溝型地震の強震動評価のレシピ」(以降「レシピ」と記す)に基づき、上記のそれぞれのケースについてパラメータの設定を行った。さらに、ケース1については、1968年の地震の際に観測記録が得られており、観測記録との比較により、パラメータの一部を変更したケース(ケース1A)も想定することとした。
 以下、巨視的断層パラメータ、微視的パラメータの設定の考え方について、項目ごとに説明する。

 4.1.1 巨視的断層パラメータ

(1)プレート上面のモデル

 プレート上面に沿った断層モデルを構築するために、プレート上面のモデルを作成した。プレート上面モデルの作成にあたっては、対象とする領域を経度方向で1/16度(約5km)、緯度方向で1/24度(約6km)ごとに区切り、区切られたそれぞれの面について、その深度、走向および傾斜を算出した。その際、「長期評価」のコンター図(図4.1-2)および地震調査委員会(2004b)で用いたグリッドデータを参照した。図4.1-3に作成したプレート上面モデルの深さをカラーコンターで示す。

(2)震源域・断層面積

 ケース1については、1968年日向灘地震の震源過程について詳細に検討した八木ほか(1998)によるすべり量分布を参照して震源域を設定した。その際、断層面積Sは、円形クラックを仮定した式 (4.1-1) およびモーメントマグニチュード の定義式である式 (4.1-2) より求まる が7.5となるように調整した。

(4.1-1)
(4.1-2)

 ここで、 :地震モーメント、 :平均応力降下量、 :モーメントマグニチュードである。

 ケース2で震源のモデル化の対象としている1662年の日向灘地震の震源域については、図4.1-4に示す同地震の震度分布(宇佐美,2003)や図4.1-5に示す羽鳥(1985)による津波の波源域を参照した。また、Wells et al.(2003)は、環太平洋の海溝型プレート間地震の震源過程の解析結果を整理し、広域的に見て低重力異常を示す地域において地震が発生し、またそのすべり量も低重力の地域において相対的に大きい傾向があることを示している。日向灘では、宮崎市から日向市にかけての沖合で顕著な低重力異常となる地域があるので(図4.1-6)、ケース2の震源域はこの低重力異常の地域にかかるように設定した。
 なお、具体的には、(1)で述べたように経度方向で1/16度、緯度方向で1/24度ごとに区切られたプレート上面モデルより、各ケースの震源域に含まれる面を抜き取る形で、震源域を設定した。

(3)震源断層面でのすべりの向き

 震源断層面でのすべりの向きなどを検討するために、防災科学技術研究所のF-net(http://www.fnet.bosai.go.jp/freesia/index-j.html)より日向灘地域におけるプレート間の地震と考える地震を抽出し整理した(図4.1-7)。これと、八木ほか(1998)による震源過程解析の結果や「長期評価」による記述を参考にして、震源断層面でのすべりの向きをN120°Eと設定した。なお、上記震源の走向および傾斜は、区切られた面毎に設定されているので、各面のすべり角をその走向・傾斜にあわせて設定した。

 4.1.2 微視的断層パラメータ

 ここでは、ケース1、ケース2の微視的断層パラメータの設定について、以下に述べる。なお、ケース1Aについては7章で述べることとする。

(1)アスペリティの数、大きさ

  • Somerville et al.(1999) によると、1地震あたり平均2.6個である。日向灘地震については、ケース1、ケース2ともに2個のアスペリティを設定した。
  • アスペリティの総面積は、断層総面積、地震モーメント、短周期レベルから、理論的および経験的関係式により算定した。
  • 2つのアスペリティの大きい方のアスペリティと小さい方のアスペリティの面積比が2対1(石井ほか,2000)となるように設定した。

(2)アスペリティの位置

  • ケース1については、八木ほか(1998)によるすべり量分布を参照して、そのすべり量の大きいところにそれぞれ第1アスペリティ、第2アスペリティを設定した。
  • ケース2については、4.1.1項で述べたように、低重力異常を示す地域で相対的に地震の滑り量が大きいという研究成果があることより、宮崎市から日向市にかけての沖合にある低重力異常を示す地域に第1アスペリティ(大きい方のアスペリティ)を設定し、震源域の中でその反対側となる南東側に第2アスペリティを設定した。
  • なお、実際の作業としては、4.1.1項で説明したように、抜き取った震源断層の面の集合から、さらにアスペリティの面を抜き出すことによって震源断層中のアスペリティを設定した。

(3)アスペリティのすべり量

 断層全体の平均すべり量の2倍(石井ほか,2000)とし、各アスペリティの平均すべり量は、自己相似則に基づき、アスペリティ面積の 1.5 乗に比例するとして配分した。

(4)アスペリティの実効応力

 アスペリティの実効応力は、アスペリティの平均応力降下量と概ね等しいことを踏まえ、断層全体の地震モーメント、総面積、およびアスペリティの総面積、平均応力降下量の関係式から算定した。

(5)背景領域の地震モーメントもしくは平均すべり量

 背景領域の地震モーメントもしくは平均すべり量は、断層全体の地震モーメントとアスペリティの地震モーメントから算定した。

(6)背景領域の実効応力

 背景領域の実効応力は、アスペリティの実効応力、幅、平均すべり量、および背景領域の幅、平均すべり量から算定した。

 4.1.3 その他の断層パラメータ

(1)破壊開始点

 ケース1については、1968年日向灘地震の震源位置に破壊開始点を設定した。
 ケース2について、1662年の日向灘の地震については、震源(破壊開始点)の情報が無いことより、第1アスペリティと第2アスペリティの中間に破壊開始点を設定した。

(2)破壊伝播様式

 同心円状とした。

(3)破壊伝播速度

 破壊伝播速度は、 Geller (1976) によるせん断波速度との経験的な関係式に基づき設定した。

4.2  断層パラメータの設定

 各ケースに共通な断層パラメータについて、4.1節の考え方に基づき設定した断層モデルの図および断層パラメータ一覧を以下に示す。
 図4.2-1にはケース1の断層モデル図(平面図)、図4.2-2にはその鳥瞰図を示す。
 平面図には、八木ほか(1998)による1968年日向灘地震のすべり量分布のコンター(赤線)およびプレート上面のコンター(青線)を重ねて示す。ケース1の断層モデルの位置およびアスペリティの位置は、主として八木ほか(1998)を参照して設定した。
 図4.2-3にはケース2の断層モデル図(平面図)、図4.2-4にはその鳥瞰図を示す。
 平面図にはプレート上面のコンター(青線)を重ねて示す。
 また、ここで設定した震源断層と、3章で述べた地下構造モデルおよびプレート境界との位置関係を、図4.2-5に示す位置における断面図として図4.2-6に示す。
 表4.2-1には、ケース1およびケース2の断層パラメータ一覧を示す。


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