5.2.2 実地震の震度分布との対比による2種類の地震動予測地図の特徴比較

 確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定−北日本)1)が2003年3月に公表されたのち、東北・北海道地方において複数の被害地震が発生し、多くの地点で震度6弱、6強を観測した。ここでは、これらの地震において震度6弱以上を記録した地点と北日本の確率論的地震動予測地図ならびに代表的なシナリオ型地震動予測地図(震源断層を特定した地震動予測地図)を比較し、双方の地図の意義を考察した。
 ここで対象とした地震は次のとおりであり、そのいずれかで震度6弱以上を記録した地点を各地図上に重ねた。

・2003年5月26日18時24分 : 宮城県沖の地震( = 7.1)
・2003年7月26日0時13分 : 宮城県北部の地震( = 5.6)
・2003年7月26日7時13分 : 宮城県北部の地震( = 6.4)
・2003年7月26日16時56分 : 宮城県北部の地震( = 5.5)
・2003年9月26日4時50分 : 平成15年(2003年)十勝沖地震( = 8.0)
・2003年9月26日6時8分 : 十勝沖の地震( = 7.1)

 図5.2.1(a)は北日本の確率論的地震動予測地図のうち、全地震を考慮したトータルのハザードマップ(2003年から30年間に震度6弱以上を受ける確率)と9月26日の十勝沖地震で震度6弱を記録した地点を比較したものである。この図より震度6弱を記録した地点の大半は今後30年に震度6弱以上を受ける確率が6%以上と高かったことがわかる。すなわち、これらの地点においては、確率論的地震動予測地図はその危険度を適切に指摘していたと評価される。

 しかしながら逆に、確率論的地震動予測地図で震度6弱以上を受ける確率が6%以上の地域がすべて十勝沖地震で震度6弱以上を受けた訳ではないことに注意する必要がある。5.2.1で述べたように、確率論的地震動予測地図は「一度に」発生する地震動の分布を示したものではないためである。十勝沖地震は長期評価で事前に想定されていた地震とほぼ同じであったことが明らかにされており3)、こうしたケースではシナリオ型の地震動予測地図(図5.2.1(b))の方が「一度に」発生する地震動の分布としてより実情に近い震度分布を与えてくれることになる。
 図5.2.2(a)は全地震を考慮したトータルのハザードマップと昨年5月26日の宮城県沖の地震(○印)と昨年7月26日の3つの宮城県北部の地震(□印)で震度6弱以上を記録した地点を比較したものである。この図からも、震度6弱以上を記録した地点の大半は今後30年に震度6弱以上を受ける確率が3%以上であり、多くの地点では6%以上であったことがわかる。確率論的地震動予測地図の有用性を支持する結果である。
 宮城県沖地震の発生確率が高いことから、宮城県周辺では同地震がシナリオ地震として想定されるのが一般的である。しかしながら、昨年5月と7月に実際に発生したのは宮城県沖地震とは異なる地震であった。宮城県沖地震の発生を前提としたシナリオ型地震動予測地図(図5.2.2(b):簡便法に基づく)によれば、昨年5月26日の宮城県沖の地震と7月26日の3つの宮城県北部の地震で震度6弱以上を記録した地点のいくつかでは、宮城県沖地震では震度6弱に至らないことが明らかになっている。したがって、昨年起こった事実は特定のシナリオ地震を想定するのみでは実際に発生する地震動の評価として不十分な場合があることを示している。
 一方、確率論的地震動予測地図では可能性があるすべての地震を考慮しており、特定のシナリオ地震以外の地震による地震動もカバーしている。図5.2.2(a)から明らかなように、昨年の地震で震度6弱以上を記録した地点の多くにおいて相対的にハザード(今後30年に震度6弱以上を受ける確率)が高いことを事前に指摘していた。その意味では、ここで示した事例は、確率論的地震動予測地図がシナリオ型地震動予測地図を補完する役割を十分に果たし得ることを示している。


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