3.4 深部地盤構造モデル

 高山・大原断層帯を震源とする地震動予測地図を作成するため、深部地盤構造モデルを検討した。モデルの検討で使用したデータは、砺波平野層帯・呉羽山層帯で使用したものを基本的に利用し、飛騨地方の南部地域を補完するように新規のデータを収集した。

(1)文献収集

 図3.7に屈折法地震探査、反射法地震探査、微動アレイ、および速度検層の文献位置を示す。
 屈折法地震探査として、吾妻−金沢測線(酒井ほか,1996)と川西−王滝測線(Ikami et al.,1986)がある。これらの測線では、地震基盤相当のP波速度(5.9km/s)が観測されている。
 反射法地震探査として、石油・天然ガス調査(石油公団,198119821983)、活断層調査(富山県,19971999下川ほか,2002)などがある。石油公団による探査は、富山・砺波平野、富山沖、金沢平野、金沢沖の広い範囲で行われている。また、砺波平野と金沢沖では3,000m級の基礎試錐が掘削され、速度検層が行われている(石油公団,19851986)。
 微動アレイ探査は、福井平野と金沢平野で実施されている(福井県,1998神野ほか,2002)。
 速度検層として、KiK-netおよびK-NETのPS検層と基礎試錐「富山」および「金沢沖」の速度検層がある。

(2)速度層区分

 屈折法地震探査、基礎試錐「富山」、「金沢沖」、およびKiK-netのISKH07(深度805.5m)の速度検層結果から、速度層区分を検討した。KiK-netおよびK-NETのPS検層は、ISKH07をのぞいて、ボーリング深度が100〜200m程度と浅い。これらの検層結果は低速度領域にデータが集中し、広い範囲の速度値が観測されていないことから、速度層区分の検討には使用しなかった。
 図3.8に観測されたP波速度と速度層区分を示す。この図から、本地域のP波速度層を次のように区分した。

(速度層区分)  (P波速度)
速度層1  2.3 km/s
速度層2  3.1 km/s
速度層3  4.7 km/s
速度層4  5.9 km/s

 基礎試錐「富山」、「金沢沖」などから、地質とP波速度の関係を推定すると、速度層1は氷見層〜音川層、速度層2は東別所層〜黒瀬谷層上部、速度層3は黒瀬谷層下部〜岩稲層の火山岩類、速度層4は基盤岩類にほぼ相当する。
 なお、物理探査データは、速度境界面が急変している点や速度層が消失する点を主に読み取っているため、測線上を不等間隔で読み取っている。

(3)反射法探査の深度断面の検討

 本地域では、石油・天然ガス調査を目的として平野部や海域で反射法地震探査と基礎試錐が行われている。これらは本地域の深部地盤構造モデルを検討するうえで貴重なデータである。しかし、報告書では反射法地震探査の解釈図は時間断面で示されている。深部地盤構造モデルのデータとするためには、時間断面を深度断面に変換する必要がある。そこで、基礎試錐の速度検層結果から区間速度を求めた。さらに、各測線の地層および反射面を対比し、各測線の反射面間の平均速度を推定することにより、時間断面を深度断面に変換した。
 図3.9に基礎試錐「富山」、「金沢沖」の速度検層結果、図3.10 (1)、(2) に各測線の地層と反射面の対比を示す。図3.10のように基礎試錐「富山」と「金沢沖」では同じ地層でも速度値が異なる。海域は陸域に対して速度値が小さくなっている。そのため、地層と反射面の対比は、陸域と海域で分けて検討した。
 反射法地震探査による深部地盤構造は次のようになる。図3.11 (1)(5) に代表的な測線の時間断面と深度断面を示す。

●砺波平野

 図3.11 (1) にV-4測線の深度断面を示す。基礎試錐「富山」およびV-A、V-B、V-4、V-5測線によると、岩稲層(4.7 km/s)上面深度は、2.500〜3,000mである。地質資料によると、岩稲層の厚さは1,000m前後と推定されており、基盤岩(5.9km/s)上面深度は3,500〜4,000m程度と考えられる。埴生層(2.1km/s以下)の厚さは、最深部で1,000mを越えている。

●富山平野

 V-2およびV-3測線の探査が行われている。図3.11 (2) にV-3測線の深度断面を示す。V-3測線によると、岩稲層(4.7 km/s)上面深度は、山側から富山湾にかけて深くなり、最深部は2,300m程度である。V-2測線は砺波平野から富山平野にかけての東西方向の測線である。岩稲層(4.7 km/s)上面深度は、砺波平野よりも富山平野の方がやや浅くなっている。埴生層(2.1km/s以下)の厚さは、最深部で500m程度である。

●富山湾

 図3.11 (3) にT81-1測線の深度断面を示す。T81-1、T81-A測線によると、黒瀬谷層(グリーンタフ)上面標高(海水準からの深度)は-4,500〜-5,000mに達する。北北東−南南西方向にのびる富山湾に沿って、新第三系の堆積盆地が推定される。同じ地層でも、海域は陸域よりも速度値が小さい傾向がある。椎谷層および寺泊層(標準的な層序で氷見層および音川層、図3.11 (2) 参照)は1.8 km/sのP波速度を示しており、速度層1の基底標高は-3,000m付近にある。

●金沢平野

 図3.11 (4) にV-C測線の深度断面を示す。V-6、V-CおよびV-D測線によると、岩稲層および黒瀬谷層下部(4.7km/s)の上面深度は2,000〜2,300mである。火山岩類(岩稲層・黒瀬谷層下部)の厚さを約1,000mとすると、基盤岩上面深度は3,000〜3,300m程度と推定される。
 埴生層と氷見層のP波速度は2.06km/sであり、速度層1(2.1km/s以下)に相当する(図3.10 (1))。反射断面によると、速度層1基底の深度は400〜600m程度である。KiK-net ISKH07のPS検層(深度805.5m)によると、深度90〜160mに2.59km/s層が分布しているが、その下位の深度160〜300mは2.04km/s、深度300〜620mは1.95km/sである(図3.10 (1))。速度層が逆転しているが、深度620mを速度層1の基底とすると、KiK-net ISKH07と反射法探査の結果はほぼ整合している。

●金沢沖

 図3.11 (5) に7測線の深度断面を示す。7、8、C-2,3測線などによると、海岸線から約15kmにかけて基盤岩の高まりがみられる。その沖合は基盤が急に深くなり、岩稲層(4.7km/s)上面標高は、-2,000〜-2,500m付近にある。

(4)物理探査データによるP波速度構造モデル

 図3.12 (1) に地表面の標高を示し、(2)(5) に物理探査データのみによるP波速度構造モデルを示す。石油・天然ガス調査の反射法地震探査結果をモデルに取り込むことで、地質構造にほぼ調和したモデルを作成することができた。
 コンター図のように、5.9km/s層上面標高(地震基盤)は富山湾〜砺波平野にかけて深くなっており、富山湾で-5,000m以上に達する。その南西端はやや西に屈曲し、金沢平野でも深くなっている。南部山間部の飛騨地方にかけては浅くなる。なお、反射法地震探査は4.7km/s上面までの探査であり、5.9km/s層は捉えられていない。ここでは5.9km/s上面を4.7km/s層上面と同じ深度に設定し、コンター図を作成している。

(5)P波速度構造モデルの地質情報による補完

 図3.12に示した速度構造モデルは、物理探査結果やPS検層結果におけるP波速度データだけでモデルを作成したものである。そのため、データが少ない地域では、地質構造を反映した構造に必ずしもなっていないので、地質情報に基づいてデータを補完した。図3.13に地質情報および重力情報によるモデルの補完方法を示す。主な補完内容は次のとおりである。

  1.  地震基盤に相当する5.9 km/s層は、屈折法地震探査の吾妻−金沢測線(酒井ほか,1996)でのみ観測されている。基礎試錐「富山」、「金沢沖」は3,000m級のボーリングであるが、基盤岩に達していない。最下部は岩稲層(いわゆるグリーンタフ)からなり、速度検層によるP波速度は4.2〜4.6 km/sである。反射法地震探査も黒瀬谷層下部〜岩稲層が音響基盤をなし、基盤岩の深度を把握していない。そのため、物理探査データによるP波速度構造モデルでは、大部分の地域で4.7 km/s層と5.9 km/s層を同じ深さになっている。吾妻−金沢測線で観測されている5.9 km/s層は、基盤岩(飛騨変成岩類・花崗岩類)に相当するものと考えられる。その深さは地質学的に推定する必要がある。
     基礎試錐「富山」は深度2,415 mで岩稲層に達している。岩稲層の層厚は500〜1,000m、その下位の楡原層の層厚は約200mである(「日本の地質6 中部地方U」による)。岩稲層上面から約1,000m下に基盤岩が分布するものと想定し、その位置に5.9 km/s層を推定した。
     反射法地震探査測線では、4.7 km/s層に相当するグリーンタフ上面から約1,000m下に5.9 km/s層を推定した。
  1.  基礎試錐「富山」が位置する砺波平野と比べて、富山平野では2.3、3.1、4.7 km/sの各速度層の上面深度が浅くなっている。これは、富山平野における物理探査データが少なく、周辺のデータで平均化された結果である。地質学的には、砺波平野と富山平野の堆積盆地の深さはほぼ同じ、ないし富山平野の方がやや深いと推定される。砺波平野と富山平野ほぼ同じ深さになるよう修正した。
  1.  富山湾では、反射法地震探査によるグリーンタフ上面の時間構造図(往復時間のコンター図)が示されている(石油公団,1981)。これを参考にしてデータを補完した。
  1.  邑知潟の反射法地震探査によると、この地域の基盤岩の深さは約1,000mである(下川ほか,2002)。この地域において5.9 km/s層が約1,000mの深さになるように、データを補完した。

(6)深部地盤構造モデル

 図3.14に使用したボーリングデータと物理探査データの位置を示す。図3.15および図3.16に飛騨地方(解析範囲南部)を補完するための重力データとフィルターで処理したブーゲー異常図を示す。
 図3.17図3.18に地質情報により補完した深部地盤構造モデルを示し、図3.19に代表的な断面を示す。地質情報および重力情報による補完内容は次のとおりである。

  • 2.3 km/s層上面
     存在領域は、解析範囲の北部に位置する、富山・砺波平野から金沢にかけて、データを補完して、平野部の構造を明瞭にした。P波速度構造図は、富山平野で本速度層上面深度が浅くなっているので、砺波平野とほぼ同じ深さとした。邑知潟も反射法地震探査データに基づき、データを補完した。
     富山平野の東部地域には、黒部川などで形成された扇状地が発達している。扇状地堆積物は砂礫層の粗粒な堆積物より成り(竃ほか,1992)、K-NETおよびKiK-netのPS検層では、2.3 km/s層上面深度が浅い。扇状地堆積物は第四系の地質であるが、P波速度がやや大きいものと推定される。
  • 3.1 km/s層上面
     富山湾から平野部にかけて、2.3 km/s層と同様な補完を行った。
  • 4.7 km/s層上面
     石川県南部地域は物理探査データが少ない(図3.12 (3)上図参照)。物理探査データだけでコンター図を作成すると、吾妻−金沢測線(東西方向60,000付近)の影響により、日本海沿岸から山側にかけて本速度層上面が深くなっている。地質的に基盤岩が浅く分布する地域であるので、補完データを与えて修正した。
  • 5.9 km/s層上面
     前述したように、本速度層上面深度の物理探査データは少ない(図3.12 (4)上図参照)。補完方法で述べたように、検討地域全域で4.7 km/s層の厚さを約1,000mとしてデータを補完し、コンター図を修正した。
      4.7 km/s層と同様に、石川県南部から富山県南部にかけての地域で、本速度層上面が深くなっている。補完データを与えて修正した。その他山間部においては重力データ(ブーゲー異常データ図3.16)により補完した。

(8)P波とS波速度の関係

 図3.20に富山県、石川県および岐阜県飛騨地方と周辺地域を含むデータによるP波速度とS波速度の関係図を示す。県別にみると、富山県よりも石川県の方が、P波速度に対してS波速度がやや大きい。周辺地域を含むデータは、両県の中間的な相関図になっている。
 深部地盤構造モデルにおける各層のS波速度を、図3.20に示したP波速度とS波速度の関係図から求めた。図3.20で示したように、石川県ならびに富山県において地震基盤層に相当するP波速度・S波速度が検層結果から求まっていない。また岐阜県飛騨地方を中心とする周辺地域を含むデータによるP波速度とS波速度の関係が、富山・石川県の関係の中間的な傾向を示している。これらの状況から、図3.20における周辺地域を含むデータから求めたP波速度とS波速度の関係式により各層のS波速度を決定した。なお、表層のP波速度とS波速度は、K-NET地点においてN値50以上となる礫・礫質土におけるPS検層結果により、それぞれ1.8km/s、0.46km/sとした(図3.21)。また、各層の密度に関しては、Ludwig et al. (1970) の関係を参考にP波速度より求めた(図3.22)。表3.3に深部地盤構造モデルにおける各層のP波速度とS波速度を示す。


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