5.3 平成15年(2003年)十勝沖地震の前後における結果の比較

5.3.1 概要

 時間の経過とともに地震の発生確率は変化するため、確率論的地震動予測地図は起点とする日時が変わればその影響を受ける。とりわけ、地震発生時系列を更新過程でモデル化している地震については、もしその地震が発生すれば、通常はその後の地震発生確率が大幅に小さくなる(更新過程における経過時間が0にリセットされる)ために、確率論的地震動予測地図もその影響を受ける。
 ここでは、そのような事例として、2003年9月に発生した平成15年(2003年)十勝沖地震を取り上げ、地震発生前後の結果を比較した。

5.3.2 ハザードカーブと影響度の比較

 まず、地震発生前後のハザードカーブと影響度を示し、その違いを検討する。
 評価条件は次のとおりである。地震活動や地震動の評価モデルは第2章で示したとおりである。なお、千島海溝沿いの海溝型地震の地震活動モデルは平成15年(2003年)十勝沖地震の発生を踏まえたものとなっているが、2003年1月時点での評価においても同じ条件とした。

  • ○対象地点: 釧路(1.54)、浦河(1.61)
  •         (市役所または役場の位置、( )は増幅率)
  • ○期間  : 2003年1月より30年、 50年(地震前)
  •         2005年1月より30年、 50年(地震後)
  • ○主な地震の発生確率:
地震 30年
確率
50年
確率
地震 30年
確率
50年
確率
十勝沖 66% 90% 宮城県沖 99% 100%
0.15% 14% 99% 100%
根室沖 29% 69% 三陸沖南部
海溝寄り
78% 94%
33% 72% 79% 94%
色丹島沖 37% 74% 三陸沖北部
固有地震
1.4% 25%
41% 77% 2.2% 29%
択捉島沖 48% 81% (注)上段が2003年1月よりの確率
   下段が2005年1月よりの確率
52% 83%

 図5.3-1に釧路と浦河におけるハザードカーブ(すべての地震を考慮)を示す。上段が釧路、下段が浦河で、それぞれ左図が期間30年の場合、右図が期間50年の場合である。いずれも赤線が2003年を起点とした場合、青線が2005年を起点とした場合である。十勝沖地震の発生前後のハザードカーブを比較すると、いずれの場合にも2005年を起点とした場合の方がハザードが低くなっている。一般に、地震が発生しなければ更新過程でモデル化している地震の発生確率は時間の経過とともに高くなるため、それとともにハザードは高くなる。しかしながら、ここで示した事例では平成15年十勝沖地震の発生に伴ってハザードが低くシフトしている。このことから、両地点ともに十勝沖の地震の影響を強く受けていたことが理解できる。(その影響の度合いは後の影響度の図により定量的に把握できる。)
 期間の違いを見てみると、期間が30年の方がその違いが顕著である。これは地震が起こったすぐ後でも期間が50年となると、十勝沖地震の発生確率が14%(2005年起点)とそれなりに大きくなってくるためである。一方、両地点の違いを見ると、浦河の方が結果の差が大きい。釧路では十勝沖の地震とともに根室沖の地震の影響を強く受けるのに対して、西側に位置する浦河では十勝沖の地震の影響がより強く結果に反映されるためである。
 図5.3-2には十勝沖・根室沖の地震のみを対象とした場合のハザードカーブを示す。上段が釧路、下段が浦河で、それぞれ左図が期間30年の場合、右図が期間50年の場合である。いずれも赤線が2003年を起点とした場合、青線が2005年を起点とした場合である。期間が30年の方が結果の差が大きいこと、釧路より浦河の方が結果の違いが著しいことが具体的に理解できる。浦河の2005年より50年間でのカーブで波打っている形状が見られる。これは期間30年の場合には十勝沖の地震の影響はほぼ0で根室沖の地震の影響のみであったのに対して、期間が50年となると十勝沖地震の影響が相対的に大きくなってくるためで、2本のカーブが足しあわされた形状となっている。
 図5.3-3図5.3-4に両地点における主な地震の影響度について示す。ここでは、十勝沖・根室沖の地震、他の海溝型地震、それ以外の地震(主要98断層帯とその他の地震)の3つに分けて影響度を示している。それぞれ上段が2003年起点、下段が2005年起点で、左図が期間30年、右図が期間50年の場合である。十勝沖地震の発生前(2003年起点)は、両地点とも十勝沖・根室沖の地震の影響が最も大きかったが、地震の発生(2005年起点)によりその影響度は顕著に小さくなっている。釧路で地震発生後(2005年起点)でも十勝沖・根室沖の地震の影響がそれなりに残っているのは主として根室沖の地震の影響である。浦河の期間30年の場合には十勝沖・根室沖の地震の影響度はほぼ0となっている。

5.3.3 確率論的地震動予測地図の比較

 次に、平成15年(2003年)十勝沖地震の発生前後の確率論的地震動予測地図の違いを比較してみる。
 評価条件は次のとおりである。

  • ○対象とした地図: 震度6弱以上となる確率の地図(北海道・東北地方)
  • ○起点と期間  : 2003年1月より30年間と2005年1月より30年間

 図5.3-5に2003年1月より30年間での地図を、図5.3-6に2005年1月より30年間での地図を示す。
 十勝沖地震の発生に伴い、北海道東部の太平洋側の地域、特に日高〜十勝〜釧路地域にかけて、震度6弱以上となる確率が顕著に小さくなったことが理解できる。ただし、これらの地域では他にも震度6弱以上をもたらし得る地震があるために、30年間に震度6弱以上となる確率は依然として6〜26%程度と高く残っていることに注意が必要である。それ以外の地域では双方の地図に大きな違いは見られない。


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