5.2 距離減衰式のばらつきのモデルの違いによる結果の比較

5.2.1 概要

 2.7.1において述べたように、本検討では距離減衰式に含まれるばらつきの評価モデルを新たなものとした。ここでは、主として南海トラフの地震(南海〜東南海〜想定東海地震)の影響を強く受ける西日本地域を対象として、ばらつきのモデルの違いがハザードカーブならびに確率論的地震動予測地図に及ぼす影響について検討した。

5.2.2 ハザードカーブの比較

 まず、下記に示す4地点におけるハザードカーブを対象として、ばらつきのモデルの違いが結果に及ぼす影響を検討した。
 評価条件は次のとおりである。

  • ○対象地点:静岡(1.16)、大阪(1.45)、鳥取(1.45)、高知(1.39)
  •  (各市役所位置、( )は地盤増幅率)
  • ○期間:2005年1月より50年間
  • ○距離減衰式のばらつき:
    • 新モデル:常用対数標準偏差で0.20〜0.15、振幅依存性考慮、μ ± 3 で打切り(今年度のモデル:2.7.1参照)
    • 旧モデル:常用対数標準偏差で0.23、振幅によらず一定、打切りなし(昨年度までのモデル)

 図5.2-1に静岡と大阪のハザードカーブ(上段)ならびに鳥取と高知のハザードカーブ(下段)を示す。静岡と高知においてばらつきのモデルの違いが結果により強く影響している。特に、確率レベルが小さくなるにつれてその差はより顕著となる。
 すなわち、新しいモデルではばらつきの値を小さくしたことに加えて、振幅依存性を考慮しているために、南海トラフの地震の断層面に近い地域ほど距離減衰式のばらつきのモデルの違いの影響を強く受けることが理解できる。

5.2.3 南海トラフの地震による確率論的地震動予測地図の比較

 次に、ばらつきのモデルの違いの影響範囲をより詳しく把握するために、南海トラフの地震(南海〜東南海〜想定東海地震)による確率論的地震動予測地図を対象として、新旧両モデルによる結果を比較した。
 評価条件は次のとおりである。

  • ○対象とした地図: 南海〜東南海〜想定東海地震のみによる震度分布図
  • ○期間と超過確率: 2005年1月より50年間、超過確率39%、10%、5%
  • ○距離減衰式のばらつき:
    • 新モデル:常用対数標準偏差で0.20〜0.15、振幅依存性考慮、μ±3σで打切り
    • 旧モデル:常用対数標準偏差で0.23、振幅によらず一定、打切りなし

 図5.2-25.2-4の(a)に新しいばらつきのモデルによる震度分布図を、(b)にいままでのばらつきのモデルによる震度分布図を示す。50年超過確率が39%(図5.2-2)では双方の地図の差異はほとんど見られないが、超過確率が10%(図5.2-3)、5%(図5.2-4)と小さくなるにつれて、新しいばらつきのモデルの結果ほど等震度の地域が狭くなることが理解できる。とりわけ、震度が6弱以上といった高震度領域ほど、振幅依存性の影響もあいまって、違いが顕著に現れている。


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