3.2 地下構造モデルの構築
3.2.1 対象領域の地質構造
図3.1に対象領域を示す。地震動シミュレーションを行なう計算領域は長辺方向が90
km、短辺方向が60 kmである。
計算領域(金沢市付近)の地下構造を構成する主な地質は、第四紀および新第三紀の堆積岩類(堆積物)と、第三紀の火山性岩石類(火山岩・火砕岩類)および深成岩・変成岩類の3種類に大別することができ、これらを合わせると計算領域の90%以上を占める。この地質区分の代表的な地層名は、おおまかに第四紀(洪積層)に相当する卯辰山層、新第三紀から第四紀の泥岩・砂岩を主体とする大桑層、新第三紀の凝灰岩を主体とする高窪層、新第三紀の流紋岩質火砕岩を主体とする黒瀬谷層、それ以深の中生代の花崗岩類層である。
金沢市周辺の地質平面図を図3.2に、地質断面図を図3.3に、それに対応する地質凡例を図3.4に示す。
北陸地方土木地質図解説書(北陸地方土木地質図編纂委員会、1991)によると、比較的浅部(
= 700 m/sec層に相当する地層より深部かつ地震基盤よりも浅部)の地質構造は堆積層がほぼ一定の割合で堆積している。また、基盤の形状はその後に行なわれた重力探査から推定される基盤形状とよく一致しており、段差構造などの基盤形状の急激な変化も見られない。金沢市付近の地形と森本・富樫断層帯の位置図を図3.5に森本断層と富樫断層の位置図を図3.6に地形と微地形区分図を図3.7に示す。
3.2.2 「活断層で発生する地震の強震動評価のレシピ」による地下構造のモデル化手法
「活断層で発生する地震の強震動評価のレシピ」(地震調査研究推進本部地震調査委員会、2002)とは活断層で発生する地震の強震動評価において、震源特性、地下構造モデル、強震動計算方法、予測結果の検証の手法や設定にあたっての考え方を地震調査委員会がまとめたものである。この内、地下構造モデルの構築、特に深い地盤構造に関する部分についてその概略を示す。
深い地盤構造のデータは地域によってその質、量ともに大きな違いがあり、その状況に応じて設定する方法が異なる。まず、
- データが十分に揃っている場合
- データが一部揃っている場合
- 重力探査データ以外ほとんど揃っていない場合
に大別する。
1. の場合は、複数本の深層ボーリングや反射法、屈折法などの探査結果から複数の2次元断面構造を作成し、この間を微動アレー探査や重力探査の結果を用いて補間し3次元地下構造モデルを構築する。
2. の場合は、過去の堆積環境が概ね一様と想定されるケースと過去の堆積環境が区域によってかなり変化していると想定されるケースに分けられる。前者の場合は、既往の探査データを参照して想定する地域の地震基盤以浅の主要な地層の構成を設定し、「堆積環境が概ね一様なある連続した堆積平野(または堆積盆地)においては、残差重力値と先に設定した各地層の層厚が概ね比例配分の関係にある」との仮定から、各層の3次元的な形状は重力データをもとに、またそれぞれの地層の速度はやボーリング孔を用いたPS検層や微動探査結果などによって与える。後者の場合は、まず既存の地質断面図や屈折法・反射法の探査データを参照して計算領域から複数の平行な2次元断面を抽出し、測定された重力値を満足するような2次元密度構造を試行錯誤的に求める。さらに各断面間の密度層境界面の幾何学的対応関係(連続性、生成消滅関係)に基づき各断面間を補間することによって、その地域の3次元地下構造モデルを作成する。
3. の場合は3次元地下構造モデルの構築は困難であるため、強震動予測は経験的、あるいは半経験的な手法に頼らざるを得ない。
森本・富樫断層帯周辺は速度構造に関するデータが十分に揃っているとは言えないが、その堆積環境はほぼ均一であったと推測される。そこで、当該地域は
2. データが一部揃っている場合で、さらに過去の堆積環境が概ね一様と想定されるケースに相当すると考えられる。
3.2.3 重力データ
重力データは、まず密度を = 2.67 と仮定して地形起伏の影響の補正を行なった。この結果を図3.8に示す。このブーゲー異常補正の結果を見ると、踏査から得られた過去の地形図(図3.9)の形状に近く、重力で作成した速度層面の形状が地質構造を良く捉えるということが分かる。次に地震基盤( =3 km/sec)よりも深い構造(Zhao et al.、1992)によると考えられる長波長成分の除去を行なった。長波長フィルターのカットオフ波長は地震基盤よりも浅部の堆積構造(火砕岩類層:黒瀬谷層)の形状(竃[かせの]、1993;竃[かせの]、2001)が金沢市付近で明確にならないことに留意しながら、50
kmから150 kmまで10 km毎に検討した。その結果、本検討では波長100 kmの長波長フィルターが妥当であると判断した(図3.10)。図3.11にこの各波長での長波長成分を除去した残差ブーゲー異常の分布を示す。求められた残差ブーゲー異常分布からは金沢市中心部を底とするすり鉢状の形状が見られ、特に北に向かって急激に基盤深度が浅くなる傾向が見られる。また、断層が存在するとされている付近に急激な基盤形状の変化は特に見られなかった
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