2.3.2 海溝型地震
次に海溝型地震のモデル化について述べる。
海溝型地震のうち、宮城県沖地震(地震調査委員会,2000)、三陸沖から房総沖にかけての地震(地震調査委員会,2002)、千島海溝沿いの地震(地震調査委員会,2003)についてはすでに長期評価が公表されている。ここではこれらの長期評価の結果を踏襲して地震活動のモデル化を行った。図2.3.2-1にこれらの海溝型地震の評価対象領域を示す。
一方、海溝型地震のうち日本海東縁部で発生する地震については長期評価の審議中であり、暫定的にモデル化を行った。
以下、A.宮城県沖地震とそれとの連動の可能性が指摘されている三陸沖南部海溝寄りの地震のモデル化、B.三陸沖から房総沖の海溝型地震のモデル化、C.千島海溝沿いの海溝型地震のモデル化、D.日本海東縁部で発生する海溝型地震のモデル化、の順で各モデルの概要について示す。
A.宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震のモデル化
「宮城県沖地震の長期評価」(地震調査委員会,2000)ならびに「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(地震調査委員会,2002)によれば、宮城県沖地震ならびに三陸沖南部海溝寄りの地震の過去の活動として図2.3.2-2のものが示されている。
宮城県沖地震に関しては、過去6回の活動のうち1回三陸沖南部海溝寄りの地震と連動して発生している。また、三陸沖南部海溝寄りの地震に関しては、過去2回の活動のうち1回が宮城県沖地震と連動して発生している。
このようなデータに基づいて、上記の長期評価の報告書では両地震の活動間隔に関する諸元として表2.3.2-1の値が示されている。
この諸元に基づいて、活動間隔がBPT分布の更新過程を適用して2003年1月より将来30年および50年間での地震発生確率を求めると表2.3.2-2のようになる(三陸沖南部海溝寄りの地震の活動間隔のばらつきαは幅の中央値の0.215を用いる)。なお、宮城県沖地震に関しては平均活動間隔が短いために、将来の30年および50年間を対象とした確率論的地震ハザード評価では地震が2回発生する確率も無視できないので、それを考慮した評価(石川・他(2002))を行っている。
一方、両地震の長期評価では、次の宮城県沖地震と三陸沖南部海溝寄りの地震が、それぞれ単独で発生するのか、両者が連動して発生するのかについては現状では判断できないとしている。
また、「次の宮城県沖地震の震源断層の形状評価について」(地震調査委員会長期評価部会,2002)および「宮城県沖地震を想定した強震動評価手法について(中間報告)」(地震調査委員会強震動評価部会,2002)では、宮城県沖地震の発生が「単独の場合」の震源域として図2.3.2-3に示す領域A1とA2を、「連動した場合」としてA1、A2の領域およびBの領域が震源域となるケースを想定している。
以上のデータを踏まえて、連動を考慮した宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震のモデル化を行う。
ここでは、三陸沖南部海溝寄りの地震が過去に発生した2回のうちの1回宮城県沖地震と連動したという事実に基づき、両地震が連動して発生する条件として次の仮定を設けた。
- 対象とする将来の期間(30年または50年)に宮城県沖地震と三陸沖南部海溝寄りの地震がともに発生する場合に50%の確率(2回に1回)で両地震が連動する。
各地震の震源域とマグニチュードは、「次の宮城県沖地震の震源断層の形状評価について」(地震調査委員会長期評価部会,2002)および「宮城県沖地震を想定した強震動評価手法について(中間報告)」(地震調査委員会強震動評価部会,2002)に従い、それぞれ次のようにモデル化する。
宮城県沖地震の発生が「単独の場合」には、図2.3.2-3のA1とA2のいずれかの震源域で発生するとし、それぞれの震源域で発生する確率は等しい(ともに50%)と仮定する。マグニチュードはA1単独の場合にはMw=7.5、A2単独の場合にはMw=7.4とする。
三陸沖南部海溝寄りの地震が単独で発生する場合には、図2.3.2-3のBの震源域で発生すると仮定する。マグニチュードは設定された断層面の面積から、断層面積とマグニチュードの関係式を介してMw=7.8とする。
また、宮城県沖地震と三陸沖南部海溝寄りの地震が連動して発生する場合の震源域は、図2.3.2-3のA1+B、A2+B、A1+A2+Bの3つのケースを想定する。これらのケースはそれぞれ等確率(確率1/3)で生じると仮定する。マグニチュードはそれぞれの断層面積を参考にA1+Bの場合はMw=8.0、A2+Bの場合はMw=8.0、A1+A2+Bの場合はMw=8.1、とする。
以上の条件下で、宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震の発生パターンは、宮城県沖地震の発生回数、連動の有無、各地震の震源域の違い、を組合せて表2.3.2-3に示す21ケースとなる。将来30年あるいは50年間での各ケースの生起確率は、各地震の発生確率(表2.3.2-2)と上記の仮定に基づく連動確率および震源域の生起確率を用いて、表2.3.2-3のようになる。
なお、表2.3.2-3のケースはそれぞれ排反かつすべての場合を尽くしているので、地震ハザードの計算は各ケースの生起確率と当該ケースに対する地震動強さの超過確率を上記全ケースについて積和することにより求められる。
また、地震ハザード評価結果に及ぼす各地震の影響度(貢献度)は両地震を併せた値として示されることになる。
B.三陸沖から房総沖の海溝型地震のモデル化
三陸沖から房総沖の海溝型地震の地震活動に関しては、「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(地震調査委員会,2002)において論じられている。そこでは、図2.3.2-4に示すような領域ごとに、過去の地震の概況ならびに次の地震の発生時期および規模について整理がなされている。
このうち、宮城県沖地震(図2.3.2-4のア)と三陸沖南部海溝寄りの地震(図2.3.2-4のオ)のモデルの概要については前項で記したので、以下ではそれらを除く領域における地震活動のモデル化について述べる。なお、三陸沖中部の地震(図2.3.2-4のエ)についてはマグニチュードが7クラス以上の地震は想定されていないため、海溝型地震としてはモデル化しない。(震源が予め特定しにくい地震等のうちのグループ3および4の地震はモデル化する。)また、房総半島の沖合いの領域(房総沖)については長期評価が未了であることに加え、今回の北日本の確率論的地震動予測地図(試作版)の対象領域から離れているので、モデル化の対象とはしない。
モデル化に際しては次の方針を設定した。
- 地震発生確率の算定において、平均発生間隔あるいは発生間隔のばらつきαが幅をもって示されている場合には、各パラメータの中央値を用いる。平均発生間隔が○○年以上とされている場合(福島県沖のプレート間地震が該当:発生間隔400年以上)には、○○年を用いて地震の発生確率を算定する。なお、福島県沖の地震に関しては、短期間に複数の地震が続発することが想定されているが、地震発生時系列としては平均発生間隔が400年のポアソン過程とし、続発の影響は地震動強さの超過確率の評価において、同じ断層面で3回地震が発生すると仮定することにより考慮する。
- マグニチュードが幅をもって示されている場合(三陸沖北部の固有地震以外の地震が該当)には、0.1刻みでb=0.9のb値モデルにフィッティングするように発生確率を付与する。なお、マグニチュードが○○前後あるいは○○程度と記されている場合には、すべてそのマグニチュードの地震であると仮定する。
- 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)のマグニチュードについては、1896年の明治三陸地震の宇佐美(1996,
新編日本被害地震総覧)によるマグニチュードを参照してMw6.8とする。
- 震源域の場所に関して、三陸沖北部のプレート間大地震については固有の断層面を設定するが、それ以外の地震に関しては提案されている領域内にプレート境界に沿って複数の断層面を置き、それぞれが等確率で起こると仮定する。ただし、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)については傾斜角45°、上端深さ0kmの正断層としてモデル化する。なお、図2.3.2-4の領域イ、カ、キの西端はUmino, et al (1990)に基づいて設定する。
以下、各地震の活動モデルの諸元について示す。
(1)三陸沖北部のプレート間大地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-4に示す。また、断層面の位置を図2.3.2-5に示す。
(2)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-5に示す。マグニチュードについては1896年の明治三陸地震の宇佐美(1996)によるマグニチュードを参照してMw6.8とした。
震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内にプレート境界に沿って長さ200km、幅50kmの矩形の断層面を南北7列×東西2列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.3.2-6に示す。
(3)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-6に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内に長さ200km、幅100km、傾斜角45°、上端深さ0kmの矩形の断層面を南北に7列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.3.2-7に示す。
(4)三陸沖北部の固有地震以外のプレート間地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-7に示す。マグニチュードに関して、M=7.1〜7.6とされているが、ここではM=7.1〜7.6(0.1刻み)の地震がb=0.9のb値モデルにフィッティングするようにそれぞれ次の割合(相対確率)で発生すると仮定した。
M=7.1:26.3%、M=7.2:21.4%、M=7.3:17.4%、
M=7.4:14.1%、M=7.5:11.5%、M=7.6:9.3%
震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここではMwが7.1〜7.3の地震に関しては領域内にプレート境界に沿って長さ40km、幅40kmの矩形の断層面を南北9×東西6列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.3.2-8に示す。また、Mwが7.4〜7.6の地震に関しては領域内にプレート境界に沿って長さ60km、幅60kmの矩形の断層面を南北7×東西4列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.3.2-9に示す。
(5)福島県沖のプレート間地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-8に示す。長期評価では、平均発生間隔が400年以上とされているが、ここでは400年と仮定した。また、複数の大地震が2日程度の間に続発した例があり、次の地震についても短期間に複数の地震が続発することが想定されているが、時系列としては一つのイベントとして扱う。続発の影響は地震動強さの超過確率の評価において、同じ断層面で3回地震が発生すると仮定することにより考慮する。
震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内にプレート境界に沿って長さ50km、幅50kmの矩形の断層面を南北3×東西5列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.3.2-10に示す。
(6)茨城県沖のプレート間地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-9に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内にプレート境界に沿って長さ25km、幅25kmの矩形の断層面を南北9×東西7列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.3.2-11に示す。
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