D.日本海東縁部で発生する海溝型地震のモデル化
日本海東縁部で発生する海溝型地震の長期評価については現在審議中であり、ここでは暫定的に地震活動のモデル化を行った。図2.3.2-21に日本海東縁部で発生する海溝型地震の評価対象領域を過去の地震の断層面とともに示す。
モデル化に際しては次の方針を設定した。
- 評価対象領域は、北から北海道北西沖(図2.3.2-21のシ)、北海道西方沖(図2.3.2-21のス:1940年積丹半島沖地震)、北海道南西沖(図2.3.2-21のセ:1993年北海道南西沖地震)、青森県西方沖(図2.3.2-21のソ:1983年日本海中部地震)、秋田県沖(図2.3.2-21のタ)、佐渡島北方沖(図2.3.2-21のチ)、山形県沖(図2.3.2-21のツ:1833年庄内沖地震)、新潟県北部沖(図2.3.2-21のテ:1964年新潟地震)である。このうち、( )に地震名を示した北海道西方沖、北海道南西沖、青森県西方沖、山形県沖、新潟県北部沖では過去にM7.5以上の地震が発生したことが知られているが、北海道北西沖、秋田県沖、佐渡島北方沖では過去にM7.5以上の地震は知られていない。
- 地震発生確率の算定において、平均発生間隔あるいは発生間隔のばらつきαが幅をもって示されている場合には、各パラメータの中央値を用いる。平均発生間隔が500年以上とされている秋田県沖、佐渡島北方沖、山形県沖、新潟県北部沖については、平均発生間隔を1,000年と仮定して地震の発生確率を算定する。
- マグニチュードが○○前後あるいは○○程度と記されている場合には、すべてそのマグニチュードの地震であると仮定する。
- 震源域の場所に関して、過去の地震が知られている領域については、その断層モデルを踏襲して断層面を設定する。過去に地震が知られていない領域については、北海道北西沖は長さ140km、幅24km、傾斜角45°、秋田県沖は長さ90km、幅24km、傾斜角45°、佐渡島北方沖は長さ140km、幅34km、傾斜角30°、の矩形の断層面をそれぞれ上端深さ3kmとして設定する。いずれも傾斜の方向については東傾斜、西傾斜が等確率で発生すると仮定する。なお、北海道北西沖、佐渡島北方沖については平面的に領域内でどこでも起こり得るとしてそれぞれ3つの断層を置き、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定する。
以下、各地震の活動モデルの諸元について示す。
(1)北海道北西沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-19に、断層面の位置を図2.3.2-22に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内に長さ140km、幅24km、傾斜角45°、上端深さ3kmの矩形の断層面を南北に3列並べて(それぞれ東傾斜あるいは西傾斜)、そのいずれかで等確率(1/6)で地震が発生すると仮定した。
(2)北海道西方沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-20に示す。断層面の諸元については、1940年積丹半島沖地震の断層モデル(Satake
(1986))を踏襲した(図2.3.2-21)。
(3)北海道南西沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-21に示す。断層面の諸元については、1993年北海道南西沖地震の断層モデル(Tanioka
et al (1995))を踏襲した(図2.3.2-21)。
(4)青森県西方沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-22に示す。断層面の諸元については、1983年日本海中部地震の断層モデル(本震=Sato
(1985) , 余震=阿部 (1987))を踏襲した(図2.3.2-21)。
(5)秋田県沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-23に、断層面の位置を図2.3.2-23に示す。震源域の位置について、ここでは領域内に長さ90km、幅24km、傾斜角45°、上端深さ3kmの矩形の断層面(東傾斜あるいは西傾斜)を置いて、そのいずれかで等確率(1/2)で地震が発生すると仮定した。
(6)佐渡島北方沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-24に、断層面の位置を図2.3.2-24に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内に長さ140km、幅34km、傾斜角30°、上端深さ3kmの矩形の断層面を南北に3列並べて(それぞれ東傾斜あるいは西傾斜)、そのいずれかで等確率(1/6)で地震が発生すると仮定した。
(7)山形県沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-25に示す。断層面の諸元については、1833年庄内沖地震の断層モデル(相田 (1989))を踏襲した(図2.3.2-21)。
(8)新潟県北部沖の地震
地震活動モデルの諸元を表2.3.2-26に示す。断層面の諸元については、1964年新潟地震の断層モデル(Abe (1975))を踏襲した(図2.3.2-21)。
参考文献
- Abe, Ka. (1975) : Re-examination of the Fault Model for the Niigata Earthquake of 1964, Journal of Physics of the Earth, Vol.23, pp.349-366.
- 阿部邦昭(1987):小地震の波源モデルと津波の性質―日本海中部地震の最大余震(1983年6月21日)に伴う津波,地震,第2輯,第40巻 pp.349-363.
- 相田勇(1989):天保四年の庄内沖地震による津波に関する数値実験,続古地震―実像と虚像(萩原尊禮編著),pp.204-213.
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- 石川 裕・奥村俊彦・斎藤知生(2002):複数回の地震発生を考慮した地震ハザード評価,土木学会第57回年次学術講演会, I-737, pp.1473-1474.
- 地震調査委員会(2000)「宮城県沖地震の長期評価」.
- 地震調査委員会(2001)「長期的な地震発生確率の評価手法について」.
- 地震調査委員会(2002)「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」.
- 地震調査委員会(2003)「千島海溝沿いの地震活動の長期評価について」.
- 地震調査委員会長期評価部会(2002)「次の宮城県沖地震の震源断層の形状評価について」.
- 地震調査委員会強震動評価部会(2002)「宮城県沖地震を想定した強震動評価手法について(中間報告)」.
- 菊地正幸・金森博雄(1995)「広帯域地震記録による1994年北海道東方沖地震の震源メカニズム」, 月間地球,Vol.17, No.5, pp.322-328.
- Satake, K. (1986) : Re-examination of the 1940 Shakotan-oki Earthquake and the Fault Parameters of the Earthquakes along the Eastern Margin of the Japan Sea, Physics of the Earth and Planetary Interiors, Vol.43, pp.137-147.
- Sato, T. (1985) : Rupture Characteristics of the 1983 Nihonkai-chubu (Japan Sea) Earthquake as Inferred from Strong Motion Accelerograms, Journal of Physics of the Earth, Vol.33, pp.525-557.
- Tanioka, Y., Satake, K. and Ruff, L.(1995) : Total Analysis of the 1993 Hokkaido Nansei-oki Earthquake Using Seismic Wave, Tsunami, and Geodetic Data, Geophysical Research Letters, Vol.22, No.1, pp.9-12.
- Umino, N., A. Hasegawa, and A. Takagi (1990) : The Relationship between Seismicity Patterns and Fracture Zones beneath Northeastern Japan, Tohoku Geophys. Journ., Vol. 33, No. 2, pp. 149-162.
- 宇佐美龍夫(1996)「新編日本被害地震総覧(増補改訂版)」,東京大学出版会, 493pp.
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