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■ 確率論的地震動予測地図作成の今後の課題

 「確率論的地震動予測地図」とその作成に用いられている地震ハザード評価手法に関わる課題を挙げ、将来を展望します。

★ 地震活動のモデル化に関する課題

地震活動のモデル化の目的は、将来の地震活動をできるだけ精度良く記述することにあります。現在のモデルでは、主要98断層帯で発生する固有地震海溝型地震については長期評価結果に基づいており、ある程度具体的な地震像がイメージできる個別の地震としてのモデル化が行われていますが、残りの地震の大半は、広域で発生する地震群の特徴を記述する「震源断層を予め特定しにくい地震」としてモデル化されています。今後、地震活動に関する知見の蓄積に伴い、個別の地震としてモデル化できるものを増やしていくことが、地震活動モデルを理解しやすいものにする上でも重要です。また、個別要素に関連する今後の課題としては、

  1. 活断層で発生する固有地震以外の地震のモデル化(現在は震源断層を予め特定しにくい地震の中で扱われています)
  2. 隣接する領域での相互作用を考慮した連動のモデル化
  3. 海溝型地震の活動の前後における内陸の地震活動の変化の考慮
  4. 前震・余震の適切な除去方法の検討、あるいは前震・余震系列を考慮した地震活動のモデル化

などを挙げることができます。

★ 地震動の評価に関する課題

地震動の評価モデルの目的は、特定の地震が発生した場合の着目地点での地震動強さの確率分布をできるだけ精度良く記述することにあります。これを達成するための課題として、

  1. 地震動強さのばらつきの分布形状、特に裾の形状と上限値に関する検討
  2. ばらつきの値そのものに関する検討(振幅規模距離依存性の検討を含む)
  3. 詳細法を援用した震源近傍の地震動評価の高精度化
  4. 表層地盤による地震動の増幅の評価の高精度化と非線形性の考慮
  5. 深部地下構造の影響の反映

などが挙げられます。また、現在用いられている最大速度と計測震度以外のものとして、最大加速度や応答スペクトルを指標とした地震動予測地図の作成に対する要望もあり、これらは短期的な課題として取り組む必要があります。

★ 確率論的地震動予測地図と詳細な強震動評価手法の融合に関する課題

確率論的地震動予測地図と震源断層を特定した地震動予測地図の融合の形態の代表的なものとして

  1. 影響度を介した両者の関連付け
  2. 詳細法による強震動予測結果の確率論的地図への反映

の2つがあり、前者については現時点で実装されています。また、多様な利用形態に応じた様々なレベルでの融合方法が議論され始めており、今後、これらの実現に向けた議論と検討を継続していく必要があります。

★ 不確定性の取扱いに関する課題

確率論的地震動予測地図作成のためのモデル構築には、知識やデータの不足に伴う様々な不確定性が含まれます。これらの不確定性に対して、現在は「最もありえると考えられるケース」を採用することで対応していますが、今後、その取扱いと定量化、および結果の表現方法について検討していく必要があります。


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