4. 断層モデルの設定

4.1 断層モデル設定の考え方と方針

 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2003)による「活断層で発生する地震の強震動評価のレシピ」に基づき、石狩低地東縁断層帯における断層パラメータの設定を行った。本検討では、このレシピに沿った強震動計算を3ケース(ケース1〜3)行い、さらにレシピに沿った設定とは一部異なった設定による強震動計算を1ケース(ケース4)行った。
 以下、巨視的断層パラメータ、微視的パラメータの設定の考え方について、項目ごとに説明する。

 4.1.1 巨視的断層パラメータ

(1)地震を発生させる断層区間

 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2003)による「石狩低地東縁断層帯の長期評価」(以下“長期評価”と記す)によると、断層帯は断層帯主部(全長約66km)と断層帯南部(全長約23km)の2つの起震断層に区分されている(図4.1-1図4.1-2)。
 断層帯主部は美唄市から早来町に至る長さ約66kmで、全体が一つの活動区間として活動した場合、マグニチュード7.8程度の地震が今後30年以内に0.05〜6%の確率で発生するとされている。
 一方、断層帯南部は、千歳市から苫小牧市に至る長さ約23kmとされているが、美々川河谷に沿って南方のウトナイ湖方面に向かう可能性や、最近の反射法弾性波探査結果によるとさらに南方海域に延びている可能性も指摘され、断層の長さは23kmを大幅に上回る可能性が高いと推定されている。このように未調査段階にあり、将来の活動性も不明確である。
 以上のことから、本検討においては、断層位置や活動性も明らかにされている断層帯主部についてのみ起震断層の対象とする(以下においては、特に明記しない限り“石狩低地東縁断層帯主部”を“石狩低地東縁断層帯”と略称する)。

(2)断層帯主部のセグメント区分

 最近発生した大地震では、震源断層の破壊過程と地表地震断層の変位量分布が詳しく検討されている。それによると、震源断層のすべり量分布と地表地震断層の変位量分布は一致する。また、1つの幾何学的セグメントに1つのアスペリティが対応する可能性が高いことが指摘されている(杉山,2003)。その仮定が正しいとすると、単位変位量や平均変位速度の分布から、セグメント区分やアスペリティの位置が推定できるといえる。
 図4.1-3に段丘面の変位量分布と石狩低地東縁断層帯のセグメント区分を示す。
 M2面に着目すると、データ数は少ないが、断層帯の北半分と南半分(図の北部セグメントと南部セグメント)に2つのピークが推定される。南半分は、中央南寄りに変位量30m以上のピークがある。北半分は中央やや北寄りにピークがある。M面よりもM2面で変位量が小さいとすると、北および南半分ともにその両端に向かって変位量が小さくなる傾向がみられる。段丘面の変位量分布から、石狩低地東縁断層帯は中央付近を境として、北部セグメントと南部セグメントに区分される。

(3)断層長さの設定

 石狩低地東縁断層帯主部について、長期評価による断層帯の位置に概ね対応するように2つのセグメントで近似して設定した。北側のセグメントは長さ約43km、南側のセグメントは長さ約27km、断層の総延長は約70kmとなる。

(4)地震発生層の深さ

 長期評価によれば、断層上端の深さは0kmとされているが、地震発生層の上端に関する記述はない。断層下端の深さは、地震発生層の下限を目安として30kmより深い可能性があるとされている。
 気象庁カタログによる最近の微小地震分布を図4.1-4図4.1-8に示す。石狩低地東縁断層帯付近では、深さ0〜9kmでは地震活動度は低く、深さ9〜24kmまでに高い活動が見られ、深さ24〜35kmにも地震活動が見られる。深さ24kmまでの活動は東傾斜の傾向を示し、深さ24kmより深い活動はそれらとは離れた領域に位置する。ここでは、これら微小地震の分布から、地震発生層の下端を24kmと設定した。
 一方、地震発生層の上端については、地震活動度が高くなる深度を考慮するとともに、地震基盤上面の深さ分布も考慮することにする。
 石狩低地東縁断層帯が分布している地域の地震基盤上面は、凹凸が著しい(図3.4-8(6)参照)。北部セグメントの北部には鳩の巣ドーム(X=-20000〜-40000、Y=-80000〜-100000)と呼ばれる基盤岩類の高まりがあり、地震基盤の深さは標高-2,000〜-4,000mである。その南方では、地震基盤は急激に深くなり、南部では-7,000m程度である。一方、南部セグメントは、地震基盤の深さは標高-6,000〜-7,000mである。
 今回の検討では、以上のような知見に基づき、北部および南部セグメントとも地震発生層上端の深さは同じとし、その深さを7,000m(7km)と設定した。
 なお、上記基盤岩類の高まり(鳩の巣ドーム)については、地震発生層上端の深さが浅くなる可能性があるが、これについては今後の課題とする。

(5)傾斜角の設定

 長期評価によれば、断層面は東傾斜とされ、断層の東側が西側に対して相対的に隆起する逆断層とされている。傾斜角は正確には明らかにされていないが、低角度であるとされている。一方、気象庁による震源分布から、微小地震が東に傾斜する面に並ぶように見えるが、傾斜角を正確に決定できるほどの精度とは言えない。ここでは、一般的な逆断層の傾斜角(30〜60度)の平均的な値、および微小地震の並びを参照して傾斜角は45度と設定した。

(6)各アスペリティの位置の設定

 アスペリティの設置位置は、段丘面の変位量分布で変位がピークになる位置にアスペリティを設置した。

(7)破壊開始点の設定

 破壊開始点はアスペリティの下端付近に設定した。

(8)地震モーメント、平均すべり量、短周期レベル、

  • 地震モーメントは、断層面積と地震モーメントの関係を基に断層面積から推定した。具体的には、Somerville et al.(1999)およびWells and Coppersmith(1994)による断層面積と地震モーメントのデータを整理した入倉・三宅(2001)のグラフに基づき、設定した。
  • 平均すべり量は、断層周辺の地震発生層のS波速度、密度を推定し、地震モーメントより算定した。北海道においては地殻構造探査が行われており、本断層周辺地域における地震発生層付近の深度でP波速度は、5.8〜6.0km/s程度である(岩崎・森谷,2002)。S波速度および密度は、Ludwig et al.(1970)が与えている密度−S波速度−P波速度の関係から読みとり、S波速度は3.5km/sとし、密度は =2.7 とした。
  • 短周期レベルは、壇ほか(2001)による地震モーメントとの平均的な関係に基づき設定した。
  • は、兵庫県南部地震などの内陸地震の を考慮して設定した。

 4.1.2 微視的断層パラメータ

(1)アスペリティの数、位置

 Somerville et al.(1999)によるとアスペリティは1地震あたり平均2.6個とされている。一方、4.1.1項で述べたように、石狩低地東縁断層帯については、段丘面の変位量分布が北部セグメントと南部セグメントそれぞれにピークがあることから、各セグメントにアスペリティを1個設定し、断層全体でアスペリティを2個設定することとした。
 断層走向方向の位置は、上記の変位量が観測されている地点を含む箇所に設置した。深度方向の位置は、他の情報がないため、平均的なものを想定して中央部に設定した。ただし、南部のアスペリティの上面は北部のアスペリティの上面と同じ深さに設定した。

(2)アスペリティの大きさ

 アスペリティの総面積は、断層総面積、地震モーメント、短周期レベルから、理論的および経験的関係式により算定した(ケース1〜3)。この場合アスペリティの面積が断層全体の面積の約44%となり、最近の研究成果に比べてかなり大きめとなっている。そこで、ケース4はアスペリティの面積が震源断層の面積と比例関係にあるという結果(Somerville et al.,1999)をもとに、アスペリティ面積を断層全体の面積の21.5%として設定した。
 2つのアスペリティの大きさの比は、入倉・三宅(2001)を参考にして16:6とし、断層面積の大きい北部セグメントに大きいアスペリティ(第1アスペリティ)を設定した。

(3)アスペリティの長さ・幅

 各アスペリティの長さ、幅は、北部および南部セグメントの形状に合わせて設定した。

(4)アスペリティのすべり量

 断層全体の平均すべり量の2倍(Somerville et al.,1999)とし、各アスペリティの平均すべり量は自己相似則に基づき、アスペリティの総面積、および個々のアスペリティ面積から配分した。

(5)アスペリティの実効応力

 アスペリティの実効応力は、アスペリティの平均応力降下量と概ね等しいことを踏まえ、断層全体の地震モーメント、総面積、およびアスペリティの総面積、平均応力降下量の関係式から算定した。

(6)背景領域の地震モーメントもしくは平均すべり量

 背景領域の地震モーメントもしくは平均すべり量は、断層全体の地震モーメントとアスペリティの地震モーメントから算定した。

(7)背景領域の実効応力

 背景領域の実効応力は、アスペリティの実効応力、幅、平均すべり量、および背景領域の幅、平均すべり量から算定した(ケース1〜3)。ケース4は、入倉ほか(2003)に基づき、アスペリティの実効応力の20%と設定した。

 4.1.3 その他の断層パラメータ

(1)破壊開始点

 破壊開始点は、各ケースによって以下のように設定した。

 ケース1:北部アスペリティの北下端
(破壊が北から南に進んだ場合を想定)
 ケース2:南部アスペリティの南下端
(破壊が南から北に進んだ場合を想定)
 ケース3:北部アスペリティの南下端
(破壊が中央部から南北に進んだ場合を想定)
 ケース4:北部アスペリティの南下端
(破壊が中央部から南北に進んだ場合を想定)

(2)破壊伝播様式

 同心円状とした。

(3)破壊伝播速度

 破壊伝播速度は、Geller(1976)による剪断波速度との経験的な関係式に基づき設定した。

(4)破壊開始時刻差

 連続しない断層区間において、破壊開始時刻差は、断層区間の間の歪み波(S波)の伝播を仮定して算出した。

4.2  断層パラメータの設定

 各ケースのパラメータについて、図4.2-1に巨視的モデルを示し、表4.2-1に前節の考え方に基づき設定した断層パラメータの値を一覧にして示した。


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