8.おわりに

 本検討では、1968年十勝沖地震の3地点での観測波形と計算波形、及び、気象台観測点2地点を含む5地点の震度と計測震度が整合するように統計的グリーン関数法に基づくフォワードモデリング(釜江ほか、2002)により震源モデルを設定し、簡便法及び詳細法(統計的グリーン関数法)により、想定三陸沖北部地震の地震動予測地図の作成を行った。
 この震源モデルは、想定宮城県沖地震に対して設定した震源モデルと同じ考え方に基づいて過去の地震観測結果を良く説明するように作られたものであり、いわゆる「強震動評価レシピ」により詳細の震源モデルを設定するだけのものとはやや異なっている。「強震動評価レシピ」との相違点として以下の4点が挙げられる。

  1. 「強震動評価レシピ」ではアスペリティが複数個ある場合にもそれらの応力降下量は等しいが、この改良モデルでは2つのアスペリティの応力降下量を変える必要があった。
  2. 短周期レベル は、想定宮城県沖地震の場合と同様に、「強震動評価レシピ」で用いられる壇ほか(2001) - 関係から計算される の約2.3倍の値を用いている。しかし、これは、東日本太平洋岸沿いの海溝型地震から推定されたデータを用いた - 関係(佐藤ほか, 1994b ; 加藤ほか, 1998 ; 佐藤ほか, 2000 ; 佐藤・巽, 2002)とはほぼ整合している。
  3. 巨視的断層面積に対するアスペリティの面積の比は約9%と想定宮城県沖地震の場合とほぼ同じであるが、「強震動評価レシピ」による面積比より小さい。
  4. 巨視的断層パラメータは、基本的には1968年十勝沖地震の長周期波形インバージョン結果(永井ほか、2001)に基づいたが、八戸での観測波形の再現性を優先するため、破壊伝播速度のみ永井ほか (2001)が用いた1.9km/sでなく2.5km/sを用いた。

 以上のように、過去の地震の情報が得られている海溝型地震である想定三陸沖北部地震の震源モデル設定方法は、主に内陸地震を対象としている「強震動評価レシピ」とはやや異なっている。今後も、海溝性地震の地震動予測地図を精度良く作成するためには、過去の地震の観測記録や震度分布に基づき、個別に震源モデルの設定を行う必要があると考えられる。そして、このような観測記録との比較検討に基づく海溝性地震の震源のモデル化の蓄積結果に基づき、海溝型地震の震源モデルの設定のための「強震動評価レシピ」の一般化を行っていく必要があるものと考えられる。


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