5.計算に用いた地震動予測手法とパラメータ5.1 簡便法簡便法では、以下の手順で、工学的基盤(S 波速度400m/s相当)での最大加速度と最大速度、地表での計測震度を算出する。 1) 工学的基盤(S 波速度400m/s相当)での最大加速度の算出 司・翠川 (1999) の最大加速度
ここで、
司・翠川 (1999)はJoyner and Boore(1981)に従って岩盤・地盤を分類しているが、S 波速度との対応は不明である。そこで、本検討では、岩盤での値を工学的基盤における最大加速度とみなす。すなわち、(5-1)式から求められる地盤上の最大加速度を、1.4(司・翠川, 1999)で除して岩盤での値に変換し、工学的基盤における最大加速度とする。 2) 司・翠川 (1999)の最大速度
3) 工学的基盤(S 波速度400m/s 相当)での最大速度の算出
ここで、
4) 地表での最大速度の算出 表層地盤による地盤の増幅は、微地形区分ごとに表層30mの平均S波速度を設定し、平均S波速度から増幅度を算定する方法により評価する。 5) 計測震度Iの算出 翠川ほか (1999)の最大速度
5.2 詳細法(ハイブリッド合成法)について詳細法計算(ハイブリット合成法計算)とは、予め求めておいた2つの計算結果を合成する方法である。ここでは、短周期側を統計的グリーン関数法、長周期側として波数積分法または差分法によりもとめた時刻歴波形を川瀬・松島(1998)が用いた手法と同様の手法で合成する。合成はある周期(接続周期)を中心とするマッチングフィルターを用い、時刻歴波形をフィルター処理して行う。 5.2.1 三次元有限差分法1) 手法の概要 有限差分法は有限要素法とならんで解析領域全体を離散化して解く方法(領域法)の代表的なものである。具体的には、対象領域内に配置された離散化された節点(格子点)において、波動場を記述する波動方程式の変数にテイラー展開を適用し微係数を差分近似することで格子点での値に関する連立一次方程式(差分方程式)を作成し、これを逐次解いていく方法である。 2) 地盤および波動伝播特性のモデル化と精度 (1) 格子点の配置 媒質の離散化における格子点(グリッド)の配置方法として、食い違い格子あるいはスタッガードグリッド(staggered grid)と呼ばれるものを用いる。これは、変位(あるいは速度)を評価する格子点と応力を評価する格子点を格子点間隔 の半分だけずらす方法である(例えば、Virieux and Madariaga, 1982)。変位勾配から歪み・応力が決まるという物理的な性質をよく表しており自然であり、数値安定性が向上する利点がある。ただし、変位(あるいは速度)の各成分の格子点が互いに異なる点にあるため、厳密には同一点での値を求めることができない不自由さがある。 (2) 離散化誤差と数値安定性 微分演算の差分近似は、微分点の前後での値の変化が十分に小さいことを仮定してテイラー展開を用いて誘導されるので、離散化誤差を小さくするためには格子点間隔を対象波長に対して小さく選ぶ必要がある。格子点間隔を対象波長の何分の一以下にすべきかは差分方程式の近似度(あるいは精度ともいう)によって決まる。微分法の値は近似度4(4次精度)の場合、その周囲の4つの格子点の値から定まる。三次元波動場の計算に最近よく用いられる差分法は空間に関して近似度4のものが多い(例えば、Frankel and Vidale, 1992; Graves, 1996; Pitarka, 1999)。実際の計算上の精度を確保するための格子点間隔は、空間に関して近似度4の場合、対象波長の5分の1以下にする必要がある(Levander, 1988)。それよりも短い波長の波は減衰させられる(例えば、Buell, 1991; 竹中, 1993)と同時に位相速度の変化(数値分散)が顕著になる。波動方程式を陽解法型の差分方程式に近似して解く場合の差分スキームの安定性を確保するための必要条件は、単位の時間ステップ
(3) 吸収境界条件 計算機の能力に限界があることから、有限差分法でモデル化できる媒質の範囲(計算領域)は限られる。計算領域の境界面に何らの境界条件も与えないとこれらの面は剛体壁(固定端)として振る舞うため、この面に達した波は完全反射して計算領域内に戻ってきてしまう。しかし、実際の地盤にこのような壁は存在しない。この計算上の反射波を防ぐには、十分大きな計算領域を設定し、反射波が着目地点に戻ってくる前に計算を打ち切る必要がある。しかし、この方法では計算する地震波の継続時間が長ければ長いほど計算領域を大きくとらなければならなくなり、記憶容量、計算時間とも膨大になってしまう。そこで、計算領域を必要以上に大きくとらない方法として、境界面に入射した波が吸収される吸収境界条件(absorbing boundary condition)が開発された。この吸収境界条件としてはClayton and Engquist(1977)のものが有名であるが、この吸収境界条件だけでは反射波の抑止が完全ではない。そこで最近では、境界面から20 あるいは30 点の格子点を帯状の波動吸収領域として用い、この中では時間ステップ毎に波の振幅に指数関数を乗じ振幅を徐々に減少させる方法(Cerjan et al., 1985)が用いられている。Graves(1996)、Pitarka (1999)、Aoi and Fujiwara(1999)の有限差分法では、Clayton and Engquist(1977)の吸収境界条件とCerjan et al.(1985)の帯状の吸収領域が併用されている。 (4) 地表面における応力解放条件 直交格子を基本とする有限差分法で地表面における応力解放条件を満足させ、かつ数値安定性を確保することはそう簡単ではない。有限差分法で地表面を扱う方法の一つは自由地表面での応力零の条件を陽に定式化する方法である(Zero - stress formulation)。地表面が水平な場合には場の逆対称性を利用して応力零の条件を満足するために必要な地表面上および地表面より上の空中の格子点の変位や応力の値を容易に計算できる(例えば、Levander, 1988; Graves, 1996; Pitarka, 1999; Aoi and Fujiwara, 1999)。この場合には数値的な安定性が確保され精度もよい。しかし、この方法を凹凸がある地表面に適用することは難しい。 (5) 媒質の一般的な非弾性減衰を考慮するには応力と歪みとのコンボリュ-ションの操作が必要となるため単純な陽解法を維持できなくなり、計算に必要な記憶容量や計算時間が格段に増大する(例えば、Emmerich and Korn, 1987)。そのため、これまでの有限差分法の計算では 3) 震源のモデル化 断層面上の滑り時間関数や破壊時刻といった運動学的パラメターを先験的に与える運動学的断層モデルの場合、有限差分法のような領域法に属する離散化手法で最も問題なのは、一つの格子点にダブルカップルを厳密に作用させるのが簡単ではないことにある。この問題点の解決法として、分布震源を用いる方法とソースボックス法の二通りがある(竹中, 1993)。前者は有限な広さを持つ複数の格子点にそれぞれ異なった向きのシングルフォースを作用させることで分布震源としてダブルカップルを近似的に表現する方法である(Aboudi, 1971)。この方法は簡便なことからよく用いられてきた(例えば、Frankel, 1993)。最近、Graves(1996)はこの方法と食い違い格子(スタッガードグリッド)との取り合わせがよいことに着目し、三次元場の食い違い格子におけるモーメントテンソルの表現式を導いている。Aoi and Fujiwara (1999)でもGraves(1996)と同様の方法でダブルカップルの点震源をモデル化している。 4) 不等間隔格子による有限差分法 本検討では、不連続隔格子を用いたAoi and Fujiwara (1999)の有限差分法により計算を行う。有限差分法による計算を行う際には、計算の対象とする媒体を直方体の格子点に離散化する。この時、計算の安定条件を満たすために、格子間隔は(5-6)式と次の条件を満たす必要がある。
ここで、 5) 三次元有限差分法による計算条件 以下の条件で計算を実施することとした。
領域内の最小弾性波速度700m/sと最小グリッド間隔0.1kmを用いると(5-6)式により0.86秒までの計算を精度よく行うことが可能である。このような理由から、後述するハイブリッド法によるマッチングフィルターの中心周期1秒としている。 5.2.2 統計的グリーン関数法 壇・佐藤による統計的グリーン関数法 (1998) は、断層面を小断層に分割し、小断層ごとにBooreの統計的震源モデル (1983) を分布させ、Irikuraの方法 (1986) で 1) 統計的グリーン関数(加速度フーリエスペクトル)の作成 断層の食い違い理論 (Aki and Richsrds,1980) によれば、無限媒質のときの遠方場におけるS波の変位波形
と表される。ここに、
今、すべり速度時間関数
以上により地震基盤におけるS波の主要動の統計的グリーン関数をBoore(1983) の統計モデルに準拠して作成した。この統計モデルは、
で表される地震動の加速度フーリエスペクトルのモデルである。
ここに 2) 時刻歴(統計的経時特性)の作成 時刻歴の作成には経時特性もしくは位相特性が必要であるが、地震基盤におけるS波の主要動の経時特性に関しては、現在までに研究があまりされていない。このプログラムでは、最終的に統計的グリーン関数を定義する位置を工学的基盤上と考え、気象庁マグニチュード 経時特性の式は以下の式で表される。
ここで、
である。気象庁マグニチュードは、佐藤(1989)による式で地震モーメント
3) 要素地震波形(種地震)の作成 1) および 2) の結果より要素地震波形(種地震)を作成する。種地震の作成は 1) で作成した加速度フーリエスペクトルにランダムな位相を与え(理論的なスペクトルに[-π,π]の一様な乱数で位相を与える)、ランダムな位相を与えた後の処理は以下の通り。 (1) 与えたフーリエ振幅と乱数位相で、フーリエ逆変換を行って、時刻歴を作成する。 (2) この時刻歴に(時間領域で)統計的経時特性をかける。フーリエ変換をして、位相情報を残す。(振幅の情報は捨てる。) (3) 再度、与えた加速度フーリエ振幅と残しておいた位相で、フーリエ逆変換を行って、時刻歴を作成する。 (4) 位相情報を変化させないようにエンベロープ処理を行う。 図5.2にランダムな位相を与えた種地震(要素地震)波形例を示す。 本検討で用いた種地震作成パラメータを表5.1に示す。 4) 波形合成法(統計的グリーン関数法)アルゴリズム ●壇・佐藤(1998)の方法 壇・佐藤(1998)は、断層の非一様すべり破壊モデルを規定する量のうち、低振動数の地震波の放出量に対応する非一様すべり
ここに、大地震の要素断層の大きさと小地震の大きさは等しいとしている
となる。壇・佐藤(1998)の合成方法によって得られる合成波形のフーリエ変換の低振動数領域および高振動数領域における振幅は、距離補正項を無視すると、
となる。ただし、高振動数領域における振幅はランダム和となることを考慮した。ここで非一様な実効応力
となる。さらに小地震と大地震との間で巨視的断層パラメータの相似則
となる。 壇・佐藤(1998) は、この合成方法を、Wald and Somerville (1995) が測地データと周期4秒以上地震記録から同定した。計算の対象としている周期は0.067秒〜4秒であり、やや短周期帯域の地震動を主体にしている。壇・佐藤(1998) は、これらの合成波形より算定した計測震度は、報告されている気象庁の震度と良く対応した値となって強震動の予測問題という観点から、断層の非一様すべり破壊モデルによる結果を、従来の巨視的断層モデルおよび次式で定義される断層面全体の短周期レベルが非一様すべり破壊モデルと等しくなるような等価一様すべり破壊モデルの2つを考え、3つのモデルによる合成結果を相互比較した。
その結果、計算対象となっている6地点のうち5地点で、非一様すべり破壊モデルによる合成結果と等価一様すべり破壊モデルによる合成結果はほぼ同じとなり、従来の巨視的断層モデルによる合成結果はやや小さくなった。以上より距離補正項を入れたスケールファクター
5.2.3 ハイブリッド合成法 ハイブリッド合成法は、短周期領域と長周期領域においてそれぞれ求めておいた2 つの計算結果を合成して広帯域地震動を評価する方法である(例えば、川瀬・松島, 1998 ; 佐藤ほか, 1998 ;入倉・釜江, 1999)。ここでは、短周期側では統計的グリーン関数法に関しては |
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