3.5.2 ボーリングデータを利用した表層地盤のモデル化
A. 基本的な考え方
入手可能な地盤資料を用いて、精度の良い地表の地震動を求めるために、ボーリング柱状図ごとに地盤のモデル化を行うことを基本とする。
解析に必要な物性値については、極力データを収集するが、ボーリング1本ごとにはデータがないことから、土質区分ごとに設定して用いることとする。
B. 表層地盤の増幅特性評価方法について
工学的基盤における時刻歴波形より、ボーリングデータによる詳細なモデルに基づいて1次元地震応答計算を行い、地表の時刻歴波形を計算する。1次元地震応答計算の方法としては、主として、線形解析法(例えば、Haskell,1960)、等価線形解析法(例えば、Shnabel et al., 1972)、逐次非線形解析法(例えば、吉田・東畑,1995)があり、それぞれに以下の特徴を持つ。
- 線形解析法
- 重複反射理論により計算を行うものである。土の非線形性を考慮していないため、大地震による地盤の非線形性を考慮することができない。
- 等価線形解析法
- 重複反射理論を基に土の非線形特性を等価な線形の関係に置き換え、解析の間一定の材料特性を用いる方法である。ひずみレベルが大きくなると、精度は低下する。どの程度のひずみまで適用できるかは、必要とする解析の精度や地盤条件にもよるが、一般的には0.1%〜1%までである。また、強い揺れにより液状化等が生じた場合には、正しい結果は得られない。
- 逐次非線形解析法
- 材料の非線形特性を数学モデルや力学モデルで表現し、材料特性の変化を逐次計算しながら挙動を求めようとする方法である。0.1%〜1%を超える大きなひずみレベルでも適用可能である。その一方で、入力パラメータの設定や算出結果の解釈など、専門的な知識を持って解析に当たることが必要となる。
広域の地震動分布の算出には、今までは等価線形解析法が多く用いられてきた。これは、等価線形解析法がパラメータも少なく利用しやすいこと、求められた地震動分布(震度、加速度)が既往の被害地震の地震動分布を大局的に説明できたこと、等価線形解析結果が逐次非線形解析結果に比べると、たとえば最大加速度が大きくなる傾向があり、防災対策上は安全側の評価ができるなどによることが考えられる。逐次非線形解析は、今までは観測波形の検証や液状化した地盤の過剰間隙水圧の上昇やひずみの増大などをみるために、検討対象地点ごとに利用されてきたことが多く、広域の地震動評価に使われたのはきわめて少ない。また、応力−ひずみ関係の採用式やそれに用いるパラメータの設定方法など、専門的な知識をもって解析を行うことが必要であること、逐次非線形解析結果を用いた地盤や構造物の評価方法の開発など、逐次非線形解析の広域地震動算出への課題は多い。このようなことから、逐次非線形解析を広域の地震動評価に用いることは端緒についたばかりで、今後も検討の必要があると考えられる。
以上のことから、ここではボーリングデータによる地表の地震動評価における計算方法としては、等価線形解析法を採用することとした。用いた解析コードはSHAKEである。図3.5-5に等価線形解析法による応答計算の流れを示す。
C. ボーリングデータの収集・整理
公的機関が収集整理しているボーリングデータを収集し、位置情報もあわせてデータベース化を行った。データの収集は、自治体で実施している地震被害想定調査結果や各種地盤図、深井戸資料、K-NETやKiK-netなどを中心とした。この時、ボーリングデータ以外に土質試験結果やPS検層結果についても収集を行った。
収集できたボーリング資料は、表3.5-5に示すとおりで、図3.5-6に解析対象領域でのボーリング位置図を示す。
D. 物性値の設定
ボーリング1本ごとにPS検層を実施したり、土質試験を実施していることは少ない。そこで県単位または地域ごとに、土質ごとに区分し、それぞれに対して物性値を設定することとした。
土質区分は、表3.5-6のTerzaghi-Peckによる地盤区分を参考に、表3.5-7に示す土質区分を設定し、それぞれの区分に対して物性値を設定した。
1) 単位体積重量
表3.5-8に示す道路橋示方書・同解説X耐震設計編(1990) による土質分類と単位重量の概略値および道路公団の設計要領(1983)の表3.5-9に示す単位体積重量などをもとに設定を行った。表3.5-7に設定した単位体積重量を示す。
2) S波速度
PS検層結果をとりまとめ、N値とS波速度の関係を求めて設定することを前提としているが、今回収集できたPS検層結果はわずかであったため、既往のS波速度とN値の関係式を使って設定することとした。S波速度とN値の関係については、図3.5-7に示すようなImai and Tonouchi(1982)による関係式がある。ただこの関係式を用いるには、土質を沖積層、洪積層、第三紀層の時代の区分に分ける必要がある。一般的にボーリングデータにはそのほとんどが時代区分が入っていない。今回収集したボーリングデータにおいても粘土、砂、礫の区別はできるが、時代区分はできない。このようなことから、ここでは、(3.5-3)の太田・後藤の式を用いてS波速度を設定した。
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(3.5-3) |
ここで、 :S波速度 (m/s)、 :N値、 :深度 (m)。 は土質区分係数で、粘土のとき1.000、砂のとき1.073、礫のとき1.199である。
3) せん断剛性比( )および減衰定数( )とせん断ひずみ( )との関係
今回収集できた動的変形特性試験結果はわずかであったため、既往の試験結果を用いることとした。図3.5-8に示した今津・福武(1986a, 1986b)による粘土、砂、砂礫の平均的な 〜 、 〜 の関係を用いた。実際には、この曲線にRamberg-Osgoodモデル(ROモデル)の曲線がフィッティングするように設定した。
E.ボーリングデータを用いた地盤のモデル化
1) モデル化の考え方
地震応答解析を行う場合、各種地盤調査結果および試験結果を用いて、解析プログラムが要求するデータを選択して、地盤のモデル化を行う。一次元解析であれば地層の分割を行い、それぞれの分割した地層ごとに土質定数を設定する。この場合、分割した地層ごとに調査や試験を行い、解析に必要な定数が得られていることが理想ではあるが、現実にはデータがそろっている資料は少ない。解析に利用できる地盤データとしては、地盤図ないしは柱状図集としてまとめられているボーリング柱状図とN値があげられる。ここではボーリング柱状図とN値から地盤モデルを作成することを考える。解析に用いる定数は、土質ごとにN値等との関係を事前に求めておくこととする。
2) 地盤のモデル化
そこで、ここでは下記に示すルールに従って、応答計算用データの作成を行った。
- 応答計算に必要なデータ
応答計算に必要とするパラメータは以下のとおりである。
・層境界深度 ・S波速度 ・密度 ・ , 曲線
- 応答計算を対象とするボーリングデータの選択
まず、以下のルールにより応答計算の対象となるボーリングデータを抽出する。N値があるもの
- 工学的基盤を洪積礫質土(表3.5-7による記号がDg4:洪積礫質土でN値50以上が5回確認できるもの、または洪積礫質土が最下層でN値50以上が3回確認できるもの)および岩盤または風化岩としたときに、工学的基盤を確認できたもの。
- ボーリングデータの地層区分
地層の地質、年代およびN値をもとに表3.5-7の地質区分に分類する。層厚が1m未満の場合(以下、薄層と呼ぶ)には、図3.5-9〜図3.5-11に示す薄層処理を行う。
- 同一地層の層分割
地盤のモデル化に際しては、地震動を正確に再現するという観点から言えば、層分割を小さくしていく方が好ましい。しかし、層分割が小さくなるほどコンピュータへの負荷が増えること、また実用的に非常な高周波数成分の応答まで必要ではないこと、そして小さい層分割にしたときにそれぞれの層に対して定数をどう与えるかなど問題点がある。そこで、要求される振動数の波が通ることを目的として層分割を行う。
地盤のモデル化における層分割については、以下に示す周波数とS波速度の関係式から波長を求め、その波長の5〜6分の1の層厚になるようにする。
ここで、 :波長 (m)、 :S波速度 (m/s)、 :考慮する周波数 (Hz)。
なお、上記のことからS波速度および考慮する周波数と層厚の関係は、表3.5-10に示すような関係となる。
15Hzまでを計算対象周波数とすると、S波速度が100m/s前後では層厚を1m程度、200m/s前後では2m程度、300m/s前後では3m程度の層厚となる。ここでは、15Hzまでを計算対象周波数と考え、波長の1/5の層厚を越えないように地層の細分化を行った。
- 物性値
応答計算には、上述の地層の層区分ごとにS波速度、密度、 , 曲線を与えることが必要である。密度および , 曲線は、表3.5-7および図3.5-8より層区分の地層ごとに与える。S波速度は、式 (3.5-3) によるN値とS波速度の関係式よりS波速度を求める。N値は、地層区分ごとに平均したN値を用いることとした。しかし、地層区分の中にはN値のないものもあり、このような地質区分については表3.5-7で設定したN値をもとに地質ごとの平均的な値を用いることにした。
埋土
沖積腐植土
沖積粘性土
沖積砂質土
沖積礫質土 |
:N=7
:N=1
:N=3
:N=20 :N=20 |
ローム
洪積腐植土
洪積粘性土
洪積砂質土
洪積礫質土 |
:N=4
:N=2
:N=6
:N=20 :N=30 |
工学的基盤となる礫質土層でN値が50以上および岩・風化岩の上面のS波速度については、図3.5-12に示すようにK-NETのPS検層結果の平均S波速度から500m/s程度とした。
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