3.4.3 重力データ解析

 地質データから地質断面図を作成し、重力データ解析を行った。図3.4-4に検討断面位置を示す。本地域は南北性の地質構造を示すことから、検討断面は東西方向とした。

(1) 重力データ解析で設定した密度

 石油・天然ガス調査および資源調査では、岩石の密度測定や重力探査および重力モデル計算が行われている(石油公団,1994新エネルギー総合開発機構,1983通商産業省・資源エネルギー庁,1982など)。これらのデータから各地層の密度を設定した。各地層の密度は次のとおりである。

四系(Q) 1.8
新第三系(N)
堆積岩類(N1) 1.8
流紋岩類・安山岩類(N2) 2.1
青沢玄武岩(A) 2.4
基盤岩(B)
風化帯(BW) 2.4
新鮮部(B) 2.67
高密度岩体 2.74

新第三系で堆積岩類(N1)と流紋岩類・安山岩類(N2)の境界は明瞭でない。重力データ解析では、N1とN2を1つの地層として密度を2.0 とした。
 基盤岩の表層は風化しており、密度が小さいと推定されるので、風化帯を設定した。風化帯の密度は青沢玄武岩と同じ2.4 とした。

(2) 重力データ解析

 地質断面図の各地層に前項に示す密度を設定し、重力データ解析を行った。図3.4-5(1)(10)に重力データ解析結果を示す。
 新第三系が分布する地域では、基盤岩上面や青沢玄武岩上面の深さを修正することで、残差重力と計算重力がほぼ一致した。
 基盤岩が露出している地域では、表層に風化帯を設けることにより、残差重力と計算重力がほぼ一致した。
 基盤岩の密度は2.67 に設定しているが、新庄盆地西方の出羽丘陵付近(Line2,3)では、残差重力に対して計算重力が小さくなる。これらの地域では深尺ボーリング資料があり、基盤岩の深度をほぼ推定できる。また、基盤の深度を浅くしても、残差重力を説明できない。そのため、基盤岩(主に花崗岩類)の一部を高密度岩体とすると、残差重力と計算重力が一致した。
 鍋谷ほか(1972)および加納(1978)は北上山地の花崗岩類について密度を測定し、重力構造を検討している。これによると、花崗岩類の密度は2.66〜2.90 の幅を示す。また、山形県西部の羽越地区の重力解析(通商産業省・資源エネルギー庁,1982)でも、花崗岩類の一部に高密度岩体を設定している。このように、花崗岩類の密度は必ずしも均質ではなく、出羽丘陵西縁の断層(青沢断層群)に沿って高密度岩体が推定される。

 3.4.4 深部地盤構造

(1) 速度層区分

 屈折法地震探査、Hi-netのPS検層結果から、各地層の代表的なP波速度を設定した。なお、PS検層により速度値を検討できるのは、第四系と新第三系の堆積岩類だけある。そのほかの地層は屈折法地震探査から推定した。

・基盤岩

 屈折法地震探査によると、基盤岩のP波速度は、測線により異なり、中鉢(1990)で5.6km/s、矢崎・井波(1964)で5.2km/s、通商産業省(1970)で5.8km/sである(図3.4-2)。これらのうち、中鉢(1990)による月山〜寒河江測線は、基盤岩が露出している地域であり、信頼性が高いと判断される。したがって、基盤岩のP波速度を5.6km/sとする。

・新第三系

 新第三系は堆積岩類、流紋岩類・安山岩類、および青沢玄武岩に区分される。青沢玄武岩は庄内平野・新庄盆地から北側に分布している。検討範囲内ではP波速度データがないが、東北横断地殻構造探査(岩崎ほか,1999爆破地震動研究グループ,1999)によると、本層のP波速度は4.2km/sと推定される。
 米沢盆地の屈折法地震探査(通商産業省,1970)によると、基盤岩の上位に4.2km/sが観測されている。青沢玄武岩が分布していない地域であるが、本速度層に相当する地層が分布しているものと考えられる。
 流紋岩類・安山岩類は、矢崎・井波(1964)によると3.5〜3.7km/s、通商産業省(1970)によると3.6km/sであり、3.6km/sとした。
 堆積岩類は矢崎・井波(1964)通商産業省(1970)によると、2.0〜2.7km/sの範囲内にある。一方、Hi-netのPS検層によると2.2km/sである(図3.4-6)。これから、本層のP波速度を2.2km/sとした。

・第四系

 Hi-netのPS検層によると、本層のP波速度は1.9km/sである(図3.4-6)。

(2) 深部地盤構造

 屈折法地震探査およびHi-net のPS検層結果をデジタル化し、速度層を区分した。さらに物理探査データだけでは深部地盤構造を検討できないので、重力データ解析により検討した地質データを用いて補完することにより、深部地盤構造モデルを作成した。図3.4-7に各速度層上面標高のコンターを示し、図3.4-8に鳥瞰図を示す。また、図3.4-9に代表的な東西方向の断面図を示す。
 図のように、地震基盤( =5.6km/s層)は庄内平野、新庄〜山形盆地、および米沢盆地で深くなっている。庄内平野では最深部は3,000mをこえるものと推定される。
 庄内平野、新庄・山形・米沢盆地では、浅いボーリング資料からN値50以上の深度をもとめ、工学的基盤深度のコンターを検討した。図3.4-10に工学的基盤深度のコンターを示す。山形盆地では工学的基盤の最深部が約80mになっている。庄内平野は約70m、米沢盆地は約50mである。これに対して、新庄盆地は5〜10m程度と薄い。

(3) 各地層の物性値

 表3.4-1に各速度層の物性値を示す。前項で述べたように、速度層1と2は、第四系および新第三系堆積岩類に相当し、Hi-netのPS検層により、P波速度とS波速度をもとめている。速度層3〜5は、屈折法地震探査からP波速度をもとめ、Ludwig et al. (1970)によりS波速度を推定した(図3.4-11)。なお、密度はLudwig et al. (1970)のPおよびS波速度と密度の関係から再検討しており、重力データ解析に用いた密度とやや異なる。


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