8.まとめ

 想定三浦半島断層群地震の地震動予測結果のまとめと今後の課題について以下に示す。

・簡便法による地震動強さについて

 基本ケースである武山断層帯のケース1では、断層直上の横須賀市付近で震度6弱程度となった。震源から離れるに従い地震動強さは弱まり、震源から30km程度離れた川崎や平塚で震度5強となった。衣笠・北武断層帯は断層面積が大きいため震度6弱の領域が平塚まで延びるなど、最大加速度、最大速度、計測震度ともに武山断層帯の予測結果を上回った。

・詳細法による地震動強さについて

 全ケースにおいて、工学的基盤での最大速度は基本的に、アスペリティの直上付近で最大となり、アスペリティからの距離に応じて減衰する分布となった。基本ケースである武山断層帯のケース1では、アスペリティ直上では100cm/s程度、藤沢や川崎で30cm/s程度となった。
 断層の極近傍である三浦半島内の結果を大きくみると、衣笠・北武断層帯と武山断層帯のケース1が同レベル、更にケース3、ケース2の順番に全体的にみて地震動が大くなる。ケース2が最も大きい理由はアスペリティが地表に最も近いこと、ケース3がケース1より大きい理由は断層面が高角で断層の破壊伝播効果がより顕著に現れたことによると考えられる。三浦半島以外の地域では断層面の大きい衣笠・北武断層帯が藤沢付近まで60cm/s程度となるなど大きい地震動となった。距離減衰式と工学的基盤の最大速度の比較では、基本ケースである武山断層帯のケース1と衣笠・北武断層帯地震では最大速度の平均が距離減衰式と対応していることから、既往の観測波形の平均的な速度最大値と対応すると考えられる。また、このことから同ケースでは詳細法による予測は簡便法と平均的にはほぼ対応すると考えられる。
 地表の最大速度や震度分布の特徴も基本的に工学的基盤と同様であるが、表層地盤の増幅によりさらに複雑な分布となった。武山断層帯のケース3では破壊伝播効果と表層増幅が原因で震度6強以上の領域が三浦半島の南部に広く形成された。また断層面積が広い衣笠・北武断層帯地震の結果では藤沢付近でも震度6強以上の領域がみられるなど、他のケースと比べて広範囲に震度6強の地点が分布した。

・詳細法と簡便法との比較

 簡便法と比較して、詳細法では特に断層近傍で断層の破壊性状を反映した地震動強さとなった。この例として、簡便法では評価されなかった震度7の領域が詳細法ではアスペリティ−直上に現れていること等が指摘される。このことは特に断層近傍においては詳細法による予測が重要であることを表している。

・今後の課題

 アスペリティや破壊開始点の位置は強震動の諸特性(その強さも含む)に大きく影響するにもかかわらず、未だ精度良く推定できないのが現状である。今回は限られた検討ケースの結果であり、今後複数のアスペリティや破壊開始点の位置の組み合わせて強震動評価することが重要と考えられる。またアスペリティの位置をより精度良く推定するための情報の収集と研究の蓄積が一層必要である。地下構造に関しては観測波を用いた検証等が十分になされておらず、今後検証と改良を進めてゆく必要があると考えられる。


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