付録A. 簡便法計算手法

 A.1 簡便法工学的基盤における地震動強さ(距離減衰式)

 簡便法により計算する簡便法工学的基盤(S波速度400m/s相当)における地震動強さ指標は、最大加速度および最大速度とする。計算には、司・翠川(1999)の距離減衰式を用いる。司・翠川(1999)は、断層面からの距離の取り方として、断層最短距離と等価震源距離を用いた2つの式を求めているが、ここでは断層最短距離を用いた式を採用する。

(A-1)
(A-2)
最大加速度(
最大速度(
モーメントマグニチュード
震源深さ(km)
断層最短距離(km)

 最大加速度の距離減衰式と最大速度の距離減衰式とでは、地盤特性の評価方法の内容が異なっている。最大加速度の距離減衰式に関しては、司・翠川(1999)がJoyner and Boore(1981)に従って岩盤・地盤を分類しているが、S波速度との明確な対応は不明である。そこで、本検討では、岩盤での値を簡便法工学的基盤(S波速度400m/s相当)における最大加速度とみなす。(A−1)式自体は地盤上の最大加速度の式なので、司・翠川(1999)に従い、(A−1)式から求まる地盤上の最大加速度を1.4 で除して岩盤上の値に変換し、これを簡便法工学的基盤(S波速度400m/s相当)上の最大加速度とする。一方、最大速度の距離減衰式である(A−2)式の基準地盤はS波速度600m/sの硬質地盤なので、(A−2)式の基準地盤(S波速度600m/s)から簡便法工学的基盤(S波速度400m/s相当)までの最大速度の増幅率は、松岡・翠川(1994)による表層地盤の速度増幅度算定式

(A-3)
(100 < < 1500)
地下30m から地表までの速度増幅率
地下30m から地表までの平均S波速度(m/s)

を用いて算定される速度増幅度の比として評価することにする。具体的にはその比の値が1.31 となるので、(A−2)式から求められた最大速度に1.31 を乗じ、それを簡便法工学的基盤の最大速度とする。

 A.2 国土数値情報を用いた表層地盤の速度増幅度

 表層地盤による地震動の増幅は、微地形区分ごとに表層30mの平均S波速度を設定し、その平均S波速度から増幅度を算定する方法により評価する。
 松岡・翠川(1994)による表層地盤の増幅度評価の方法は次の通りである。まず初めに、国土数値情報に基づいて微地形区分に分類した上で、各微地形区分ごとに表層30mの平均S波速度を評価する。次に(A−3)式を用いて、各微地形区分ごとに求められた表層30mの平均S波速度から、第三紀ないしそれ以前の丘陵地(平均S波速度が600m/s程度)を基準とした速度増幅度を求める。
本検討でも同様な方法により表層の速度増幅度を求める。ただし、本検討ではS波速度400m/sの簡便法工学的基盤において強震動を評価し、その最大速度を求めるので、簡便法工学的基盤から地表までの速度増幅度はS波速度400m/sの地盤を基準としたものにしなければならない。
 そこで、まず、松岡・翠川(1994)による基準地盤(S波速度600m/s)から簡便法工学的基盤(S波速度400m/s相当)までの増幅度を求める。具体的には、(A−3)式にそれぞれのS波速度を代入して算定された速度増幅度の比を増幅度とする。このようにして求めた比の値は1.31 となる。次に、松岡・翠川(1994)に示された手順により求められた表層地盤の速度増幅度を1.31 で除し、得られた値を本検討における簡便法工学的基盤から地表までの速度増幅度とする。

 A.3 地表における地震動強さ

 簡便法により計算する地表での地震動強さ指標は、(A−2)式で算定された簡便法工学的基盤での最大速度値に対して簡便法工学的基盤から地表までの増幅度を乗じることにより得られる地表での最大速度である。

 A.4 地表における計測震度

 翠川・他(1999)が示している最大速度と計測震度との関係式

(A-4)
(4< <7)
計測震度
最大震度

を用いて、地表での最大速度から計測震度を計算し、その分布を求める。上記の最大速度と計測震度との関係式における最大速度は水平動2成分を合成した最大速度である。一方、司・翠川(1999)の距離減衰式から求められる最大速度は水平2成分のうちの大きい方の値である。このように、厳密な意味では両者の定義が異なるが、本検討では両者の結論に大きな相違はないと考える。


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