2.4.3 表層地盤の増幅率の評価

A. 基本的な考え方

 地震動評価における表層地盤の増幅率評価については、簡易的に地盤の増幅度を全国同水準に求めることを前提に考える。
 松岡・翠川(1994)は、地盤情報を含むデータが日本全国1kmメッシュでデータベース化されている国土数値情報を用いる方法を提案しており、ここではこの方法を用いることとする。国土数値情報に含まれる地形学的情報に基づき地表から30mまでの深さの平均S波速度AVS30を推定し、AVS30と最大速度の地盤増幅度の関係から地盤の増幅度の推定を行うものである。
 なお、北方四島においては、国土数値情報が作成されていないため、既存の地質および地形図をもとに、微地形分類および標高等のデータの作成を行った。

B. 増幅率評価に用いる国土数値情報および地質図

 地盤を一律に細かく評価した資料として、国土数値情報(国土交通省国土地理院)や100万分の1地質図(独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)などがある。前者については微地形分類、海岸線、主要河川、標高のデータ、後者については表層地質分布から地質年代のデータを使用する事ができる。このうち、地形分類のデータは、全国を約1kmのメッシュに分けて、メッシュごとに評価されている。しかし、これは県を単位とした分析であり、県によって評価の精度が違ったり、表現が異なったりしており、全国的には統一的でない部分もある。また、これらのデータは主に昭和40年代に作成されたためにその後に埋め立てられたり、造成されたりした地域のデータは含まれていない。以上の点を踏まえ、対象地域の地形分類データについて統一的に見直す作業を行った。
 表2.4.3-1に、国土数値情報による地形分類および表層地質分類と松岡・翠川(1994)による微地形区分との関係を示す。ここでは、表2.4.3-1の対応関係を基本として、松岡・翠川(1994)の微地形分類を行うこととした。
 なお、以下の3点について新たに考慮することとした。

@微地形区分の「他の地形(沖積・洪積)」の見直し

 国土数値情報を用いた微地形区分の中にある「他の地形(沖積・洪積)」という分類は、その大半が第四紀に噴火した火山の地形であるが、同地域の地質図と比較すると第三紀以前の岩盤が露出している地域が混在している箇所が多く見られた。そこで、「他の地形(沖積・洪積)」に分類される地域の地質図と照らし合わせて、再分類を行った。

A微地形区分がなされていないメッシュの再評価

 国土数値情報では、湖や海沿いにおいて1kmメッシュの大半が水面部である場合は対象から除外している。このため、メッシュ内に陸がわずかに存在する場合でも、微地形区分が抜けている場合がある。そこで、データが抜けている湖および海沿いのメッシュに対して微地形ないしは地質を追加する作業を行った。

B北方四島の微地形区分および標高データ等の作成

 北方四島では、国土数値情報のデータが作成されていない。そこで、松岡・翠川(1994)の表層地盤の増幅の評価に必要な、微地形区分、標高、主要河川からの距離について既存資料をもとに新たに作成することにした。

  1. 微地形区分
     主に以下の資料をもとに、松岡・翠川(1994)による微地形区分を行った。
    • 北海道立地下資源調査所(1957,1958,1980):20万分の1および60万分の1北海道地質図
    • 地質調査所(1992,1995):1:1,000,000 日本地質図
    • 国土地理院(1992,2001):5万分の1地形図(北方四島)
  2. 標高
     アメリカの地質調査所のホームページで公開されている’GTOPO30’を用いた。’GTOPO30’は、 水平方向30秒(約1km)間隔のグリッドでモデル化されたデータである。
  3. 主要河川からの距離
     主要河川からの距離を用いる微地形は、「三角州・後背湿地」である。国土地理院(2001)の数値地図50000にある河川から「三角州・後背湿地」と判定されたメッシュの中心点からの距離をとった。

C. 表層地盤の増幅の評価

 表層地盤の増幅の評価については、前項で示した地震動評価のための微地形区分ごとに平均S波速度を設定し、その平均S波速度から増幅度を算定する方式を採用する。そこでまず、松岡・翠川(1994)によって示された式(2.4.3-1)の関係を用いて微地形区分ごとの平均S波速度を算定する。

(2.4.3-1)
  • AVS ;地表から地下30mまでの推定平均S波速度(m/s)
  • a,b,c,σ ;係数(表2.4.3-2)
  • H ;標高(m)
  • D ;主要河川からの距離(km)
表2.4.3-2 式(2.4.3-1)における微地形区分ごとの係数

 ところで、Matsuoka and Midorikawa(1994)によると、それぞれの微地形区分における標高のデータに係る係数“b”と主要河川までの最短距離に係わる係数“c”は、実測値データを元に決定した関数によるものであり、対応する標高には有効な範囲が存在する。そこで、Matsuoka and Midorikawa(1994)で示されているグラフから微地形区分ごとに標高の範囲と主要河川までの最短距離の範囲を決定し、範囲から外れる標高値については、標高が範囲を下回る場合は下限を、範囲を上回る場合は上限の値を用いることとした。表2.4.3-3および表2.4.3-4に設定した係数”b“の標高の範囲と係数”c“の主要河川からの最短距離の範囲を示し、図2.4.3-1および図2.4.3-2にMatsuoka and Midorikawa(1994)によるAVSと標高の関係および主要河川からの最短距離の関係図を示す。

 松岡・翠川(1994)は、第三紀ないしそれ以前の丘陵地(AVSが600m/sec程度)を基準とした表層地盤の速度増幅度について、式(2.4.3-2)を用いて算定することを提案している。ここでも同様な方法を用いて表層地盤の速度の増幅度を求めることとした。これにより、何らかの方法によって求められた基盤速度に、この増幅度を掛け合わせることで各メッシュの地表速度が算定できる。
 なお、標高値や主要河川からの距離によっては平均S波速度が100m/sec未満となる場合が生じるが、ここでは、平均S波速度が100m/sec未満となった場合には、平均S波速度100m/secの速度増幅度で評価するものとした。


              (100<AVS<1500)
(2.4.3-2)
  • AVS;地表から地下30mまでの推定平均S波速度(m/s)
  • ARV;地表〜地下30mまでの速度増幅度

 また、式(2.4.3-2)は、平均S波速度が600m/secを基準(増幅度=1.0)としている。今回の予測地図作成に当たっての基盤の評価は、工学的基盤(S波速度400m/sec相当)で行うことを想定しているため、上記増幅度をS波速度400m/secの地盤上に適用する場合には、1.31で割った増幅度を用いる。

 以上までに述べた方法で、確率論的地図サンプル版作成領域周辺について、1kmメッシュごとの微地形区分の分布および工学的基盤以浅の速度増幅度の分布を求めた。求めた結果を下記の図として示す。

  • 図2.4.3-3 国土数値情報を用いた微地形区分の分布(東北)
  • 図2.4.3-4 松岡・翠川(1994)の方法に基づく工学的基盤以浅の速度増幅度分布(東北)
  • 図2.4.3-5 国土数値情報を用いた微地形区分の分布(北海道および北方四島)
  • 図2.4.3-6 松岡・翠川(1994)の方法に基づく工学的基盤以浅の速度増幅度分布(北海道および北方四島)

参考文献

  • 国土庁計画調整局・国土地理院(1987):「国土数値情報」、国土情報シリーズ2、大蔵省印刷局
  • 松岡昌志・翠川三郎(1993):「国土数値情報を利用した地盤の平均S波速度の推定」、日本建築学会構造系論文報告集、第443号、pp.65-71
  • 松岡昌志、翠川三郎(1993):国土数値情報を利用した広域震度分布予測、日本建築学会構造系論文報告集、第447号、pp.51-56
  • 松岡昌志、翠川三郎(1994):国土数値情報とサイスミックマイクロゾーニング、第22回地盤震動シンポジウム、日本建築学会
  • Masashi Matsuoka and Saburoh Midorikawa(1994):GIS-BASED SEISMIC HAZARD MAPPING USING THE DIGITAL LAND INFORMATION、第9回日本地震工学シンポジウム、1994
  • 北海道立地下資源調査所(1957):20万分の1北海道地質図(5)北海道立地下資源調査所(1958):20万分の1北海道地質図(6)
  • 北海道立地下資源調査所(1980):60万分の1北海道地質図
  • 地質調査所(1992):日本地質アトラス 第2版
  • 地質調査所(編)(1995):100万分の1日本地質図 第3版CD-ROM版.数値地質図 G-1
  • 国土地理院(1992):5万分の1地形図(北方四島)、大正11年測量、平成4年修正
  • 国土地理院(2001):数値地図50000(No.30 北方四島)
  • USGS(1996):GTOPO30、http://edcdaac.usgs.gov/gtopo30/gtopo30.html