2.3.4 震源を予め特定しにくい地震等のうちグループ3およびグループ4の地震
A. モデル化の基本方針
北日本の確率論的地震動予測地図を作成する際に考慮する太平洋プレートのグループ3の地震(プレート間で発生する大地震以外の地震)およびグループ4の地震(沈み込むプレート内で発生する大地震以外の地震)は、「確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定)」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会, 2002)、および「震源を予め特定しにくい地震等の評価手法について(中間報告)」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会, 2002)に基づくことを基本とし、以下のようにモデル化する。
B. 評価手法と条件
- (1) 地域区分の有無
- 地域区分する方法と地域区分しない方法の2種類を併用する。
- (2) 地震の発生頻度
- 地域区分する方法を用いる場合には、区分された地域内で一様な頻度とする。地域区分しない方法では、smoothed seismicity の考え方に基づき、微小な領域ごとの地震発生頻度を評価する。
- (3) 地域区分
- 長期評価が公表された海溝型地震の地域区分と整合するように設定する。
- (4) 地震カタログ
- 宇津カタログのうち1885年から1925年のマグニチュード6.0以上の地震と気象庁カタログのうち1926年以降のマグニチュード5.0以上の地震のデータを組み合わせたもの(中地震)と気象庁カタログのうち1983年以降のマグニチュード4.0以上の地震のデータ(小地震)とを併用することを基本とする。ただし、一部の領域については、時代ごとの地震の検知能力を勘案して、用いるデータの期間や規模を再設定する。余震は、暫定的に昨年度と同じ方法で除去する。
- 海溝型地震として別途評価されている地震に該当するものはカタログから除去する。また、グループ5の地震(該当する地域区分に入る深さ25km未満の地震)、別途評価する浦河沖の地震、およびフィリピン海プレートの地震(損害保険料率算定会(2000)においてフィリピン海プレートの地震とされているもので、関東平野付近では深さが25km〜60kmのもの)も除去する。
- (5) 地震規模の確率分布
- b値モデルでモデル化する。b値は全ての領域で0.9とする。
- (6) グループ3とグループ4の地震の発生頻度の設定
- 太平洋プレートの沈み込み帯で発生する地震については、近年の地震のデータに基づいてグループ3とグループ4の地震数の比率を評価し、分離しないカタログに基づき評価された地震発生頻度にこの比率を乗じることにより、両グループの地震の発生頻度を設定する。
- (7) 深さ
- 太平洋プレートのグループ3の地震は、断層面の中心がプレート上面深度と一致するように、またグループ4の地震は、断層面の中心がプレート上面より30km深いものとして、それぞれ深さを設定する。
- (8) 断層面
- 太平洋プレートのグループ3の地震は、プレート上面に沿うように傾斜を定めた円形断層で表現する。グループ4の地震は、中心がプレート上面より30km深いところに位置する水平の円形断層で表現する。いずれの場合も、円形断層の面積
S(km2) は宇津の式
-
- を満足するようにマグニチュードに応じて設定する。
- 断層面の平面的な位置は、地域区分された領域内でどこでも発生するものとする。
- (9) 最大マグニチュード
- 別途モデル化している海溝型地震と重複する領域については、海溝型地震で考慮されている地震規模を考慮して、地域区分ごとに最大マグニチュードを設定する。それ以外の領域では、過去に発生した地震の最大規模等を勘案して地域区分ごとに設定する。
- (10) 地震の発生時系列
- 定常ポアソン過程とする。
C. 太平洋プレートで発生するグループ3と4の地震のモデル化
「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,
2002)と「千島海溝沿いの地震活動の長期評価について」(地震調査研究推進本部地震調査委員会,
2003)で示された領域区分、Kosuga, et al.(1996)と勝俣・他(2002)に示されているプレートの等深線、およびUmino,
et al. (1990)を参考に、グループ3およびグループ4の地震の地域区分を、図2.3.4-1のように設定する。
図2.3.4-2〜図2.3.4-4には、1885年〜1925年の宇津カタログ(M≧6.0)、1926年〜2000年の気象庁カタログ(M≧5.0)、および1983年〜2000年の気象庁カタログ(M≧4.0)の震央分布を地域区分と重ねて示す。
- (1) 区分の根拠
- 択捉島沖から十勝沖の4つの領域(図2.3.4-1の@〜C)は、長期評価の領域を参考に設定する。北側の境界線は、勝俣・他(2002)によるプレート上面深度が60kmとなる等深線に基づいている。ただし、東経145度付近より北東側の等深線は、海溝軸に平行になるように外挿して引かれたものである。また、三陸沖から房総沖の領域(図2.3.4-1のD〜J)は、長期評価の領域を参考に設定する。西側の境界線は、Umino, et
al.(1990) およびプレート上面深度が60kmとなる等深線を参考に境界線を設定する。
- プレート上面深度が60kmより深い領域(図2.3.4-1のKとL)は、細かい領域の区分をせず、北海道と東北でそれぞれ一つずつの領域とし、北西側の境界は勝俣・他(2002)およびKosuga,
et al.(1996) を参考にプレート上面深度が150km程度となるように設定する。
- (2) グループ3とグループ4の分離の基本的な考え方
- グループ3とグループ4の地震の分離は、以下のように行う(図2.3.4-5参照)。
- プレート上面深度が60km以浅の領域(@〜J)については、ごく最近の地震の震源とプレート上面深度の位置関係からグループ3と4の地震の比率を概算し、その比率を発生頻度に乗ずることにより区分する。分離のための基準面は、プレート上面よりも20km下とし、基準面よりも浅いところで発生する地震をグループ3、基準面よりも深いところで発生する地震をグループ4として、両者の地震数の比率を設定する。ここでは、1997年1月から2002年3月までの震源データを用いて、それぞれの領域ごとに比率を求める(図2.3.4-6〜11および表2.3.4-1を参照)。各領域に対して適用する比率は、表2.3.4-1の最右列に示したとおりである。なお、三陸沖から房総沖の海溝寄りの帯状の領域(E)については、全てグループ3の地震と仮定する。また、深さ60km程度以深の領域(KとL)については、全てグループ4の地震と仮定する。
- (3) 断層面の拡がりの表現方法
- グループ3の地震は、震源を中心とするプレート上面に沿う円形断層面を想定する。
- グループ4の地震は、震源を中心とする水平な円形断層面を想定し、震源の深さはプレート上面の下30kmと仮定する。
- 断層面の大きさは、グループ3、グループ4ともに、宇津の式(log S = M-4.0)を満足するように設定する。
- (4) 区分された各地域内の地震の規模別発生頻度
- 図2.3.4-1に示した13の領域について、中地震カタログと小地震カタログに基づいて算定された地震の規模別累積発生頻度を、それぞれ図2.3.4-12と図2.3.4-13に示す。図示した地震のデータからは、長期評価の対象となっている地震は除去されている。
- ここで、中地震カタログとは、1885年から1925年の宇津カタログのうちマグニチュード6.0以上の地震(図2.3.4-2に示されたもの)と、1926年から2000年の気象庁カタログのうちマグニチュード5.0以上の地震(図2.3.4-3に示されたもの)を組み合わせたものである。ただし、図2.3.4-1の@、A、Kの領域については、1960年以前の地震数が少ないことが指摘されている(地震調査研究推進本部地震調査委員会,
2003)ことから、1960年以降のマグニチュード5.0以上の地震のみに基づいている。また、Jの領域については、1940年以降の地震に基づいて長期評価されているため、1940年以降のマグニチュード5.0以上の地震のみに基づいている。一方、小地震カタログは、1983年以降の気象庁カタログのうちマグニチュード4.0以上の地震(図2.3.4-4に示されたもの)である。なお、小地震のカタログの最小マグニチュードは、震源が60kmより深い地震ではそれ以浅よりも震源決定される地震数が少ないことを考慮して、全領域に対して4.0とする。
- (5) 地域区分された各領域の最大マグニチュード
- グループ3およびグループ4の地震の最大マグニチュードは、地域区分された領域ごとに、長期評価で考慮された海溝型地震以外の主な地震を抽出し、それに基づき設定する。(表2.3.4-2を参照)
- この際、十勝沖から択捉島沖にかけての領域(@〜C)では、ひとまわり小さいプレート間地震としてマグニチュード7.1前後の地震が長期評価されていることから、グループ3の地震に対しては、1950年以降の長期評価対象外の地震の規模を参考に、最大マグニチュードを6.9とする。一方、同領域(@〜CとK)では、プレート内地震としてマグニチュード8.2前後および7.8前後の地震が長期評価されているものの、一回り小さいプレート内地震は評価されていない。そこで、グループ4の地震に対しては、1950年以前の地震も参照し、震源深さからプレート内地震と推定されるものの最大マグニチュード7.6を5つの領域に共通して適用する。三陸沖北部(D)については、固有地震以外の地震が1923年以降の地震に基づき評価されていることから、それ以前に発生した地震は参照しないこととし、海溝型地震の規模(M7.1〜7.6)を下回る7.0を最大マグニチュードとする。同様に、茨城県沖(J)の海溝型地震は関東地震の影響が少ない1940年以降の地震に基づき長期評価されているため、最大マグニチュードの設定にはそれ以前に発生した地震は参照しないこととし、海溝型地震の規模(M6.7〜7.0)を下回る6.6とする。東北地方のプレート上面震度が60km程度以深の領域(L)は、震源深さの数値が示されている1926年以降のデータに基づき、その最大値である6.9を採用する。
- (6) グループ3およびグループ4の地震の発生頻度の地域分布
- 図2.3.4-14に、グループ3と4を足し合わせた地震の発生頻度(0.1度×0.1度の領域で1年間にマグニチュード5.0以上の地震が発生する頻度)の分布を示す。これは、1)中地震カタログで地域区分する方法、2)中地震カタログで地域区分しない方法、3)小地震カタログで地域区分する方法、4)小地震カタログで地域区分しない方法、の4ケースの頻度を平均したものである。図2.3.4-15および図2.3.4-16には、図2.3.4-14の頻度に、グループ3とグループ4の地震の発生比率を適用して得られたグループ3と4の地震の頻度を示す。
参考文献
- 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002):三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について,平成14年7月31日.
- 地震調査研究推進本部地震調査委員会(2003):千島海溝沿いの地震活動の長期評価について.
- 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(2002):震源を予め特定しにくい地震等の評価手法について(中間報告),平成14年5月29日.
- 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2002):確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定),平成14年5月29日.
- 勝俣啓・笠原稔・和田直人(2002):稠密地震観測網によって見えてきた太平洋プレート内十勝沖断裂帯,月刊地球,Vol. 24, No. 7, pp. 499-503.
- Kosuga, M., T. Sato, A. Hasegawa, T. Matsuzawa, S. Suzuki, and Y. Motoya (1996): Spatial Distribution of Intermediate-depth Earthquakes with Horizontal or Vertical Nodal Planes beneath Northeastern Japan, Physics of the Earth and Planetary Interiors, 93, pp. 63-89.
- 損害保険料率算定会(2000):活断層と歴史地震とを考慮した地震危険度評価の研究〜地震ハザードマップの提案〜,地震保険調査研究47.
- Umino, N., A. Hasegawa, and A. Takagi (1990): The Relationship between Seismicity Patterns and Fracture Zones beneath Northeastern Japan, Tohoku Geophys. Journ., Vol. 33, No. 2, pp. 149-162.
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