3.4.1 98 の主要な活断層帯に発生する最大地震

A. モデル化方針

(1)基本方針
 長期評価および形状評価が公表された活断層については、評価結果に基づいて地震発生確率、マグニチュード、断層面の諸元を定める。地震発生確率およびマグニチュードに幅がある場合の取扱いについてはそれぞれ下記(2)(3)に示す。
 長期評価が公表された活断層については、評価結果に基づいて地震発生確率、マグニチュード、断層面の諸元を定める。ただし、断層面のモデル化に関して、定量化されていないパラメータや上端深さなどの取扱いについては下記(4)に示す。地震発生確率およびマグニチュードに幅がある場合の取扱いについてはそれぞれ下記(2)(3)に示す。
 長期評価が未評価の活断層については、暫定的に損害保険料率算定会(2000)の地震危険度評価で用いられた活断層の諸元を用いる。98 活断層帯と料率算定会の活断層との対応については表3.4.1-1 に示す。同表より明らかなように、98 活断層帯と料率算定会の活断層とでグルーピングが異なる場合があるが、試作では料率算定会の個々の活断層が独立に地震を起こすとしてモデル化する。
 最近公表された活断層のカタログとして、松田他(2000)による起震断層の表がある。長期評価が未評価の活断層については、今後の長期評価の公表に伴って順次更新されることになるので、それまでの暫定モデルであるが、その他の地震のうちのグループ1の地震のモデル化との整合の問題もあることから、上述のような新しい知見を暫定モデルにも取り入れていくことを次年度以降検討していく必要がある。

(2)地震発生確率の設定
 活断層における地震発生確率は基本的には長期評価結果に基づくが、地震発生確率に幅をもたせて示されている場合があるため、次に示す2ケースについて評価する。
1)平均活動間隔、前回活動時期のいずれか、あるいは両方に幅がある場合には、それぞれの中央値を用いて発生確率を求める。このケースを以下「平均的なケース」(図表では「平均ケース」と略す)と呼ぶ。
2)平均活動間隔に幅がある場合にはその最も短い値を採用し、最新活動時期に幅がある場合にはその最古の値を採用して発生確率を求める。この場合には幅がある
 確率のうちの最も大きな値が評価されるので、以下このケースを「最大確率を与えるケース」(図表では「最大ケース」と略す)と呼ぶ。
 発生確率の算定は、地震調査委員会(2001)より公表された「長期的な地震発生確率の評価手法について」の方法に従い、活動間隔の確率分布としてBPT 分布を用い、ばらつきαは0.24 を用いて算定する。
 料率算定会の活断層モデルを用いる場合には、そこで用いられている手法により算定された発生確率をそのまま用いる。手法の詳細は損害保険料率算定会(2000)に示されているが、その基本的な考え方は活動履歴が明らかな場合は活動間隔が対数正規分布に従う更新過程でモデル化し、活動履歴が不明な場合にはポアソン過程でモデル化している。
 更新過程の場合のばらつき(対数標準偏差)は明らかになっている断層諸元の情報量に応じて0.23.0.9 まで変化させている。

(3)マグニチュードの設定
 活断層で発生する地震のマグニチュードは基本的には長期評価結果に基づくが、マグニチュードに幅をもたせて示されている場合にはその中央値を用いる。
 料率算定会の活断層モデルを用いる場合には、そこで用いられているマグニチュードをそのまま用いる。基本的には断層長さから松田式(松田(1975))でマグニチュードを定めている。

(4)断層面の諸元の設定
 個々の活断層の断層面は1枚もしくは複数枚の矩形面でモデル化する。モデルを規定するパラメータは、断層面の端部の位置、長さ、幅、走向、傾斜角、上端深さである。
 長期評価に加えて形状評価が公表されている活断層については、それに基づいて断層面の諸元を定める。
 長期評価が公表されている活断層は基本的にそれに基づき断層面の諸元を定めるが、形状評価が未了で、定量化されていないパラメータがある場合には、暫定的に次の方法により諸元を設定する。位置、長さ、走向が不明な場合には長期評価結果で示されている活断層の位置図を参考にして設定する。傾斜角が不明な場合には横ずれ断層では90度(鉛直面)、縦ずれ断層(正断層と逆断層)では60 度と設定する。縦ずれ断層の場合の60 度の根拠は豊富ではないが、過去の内陸の地震の断層パラメータ(佐藤(1989))によれば、50.60 度程度の傾斜角とされているものが多いことから、ここでは暫定的に60度を仮定した。断層幅が不明な場合には、渡辺・佐藤・壇(1999, 2000)による断層長さと断層幅との平均的な関係に基づき下式で定める。断層上端深さに関しては、長期評価では0km とされている場合が多いが、地震動評価の観点からの研究(伊藤(1997))を参考に、一律3km と設定する。なお、これらのパラメータは将来的に断層の形状評価が行われた時点で更新されることになる。

<横ずれ断層の場合の幅>
・W=15 (km)
・W=10^(0.656logL+0.207) (km)
・W=L (km)
 (L>30km)
 (30km≧L>4km)
 (4km≧L)
(3.4.1-1)

 (注) W :断層幅
 L :断層長さ
 θ :傾斜角
<縦ずれ断層の場合の幅>
・W=15/sin θ (km)
・W=L (km)
 (L>15/sinθ)
 (15/sin θ≧L)

 料率算定会の活断層モデルを用いる場合には、そこで用いられている断層面をそのまま用いる。基本的には1枚もしくは複数枚の鉛直の矩形面である。なお、断層の幅は上述の考え方を参考に一律15km とするが、断層長さが15km 未満の場合には断層長と等しく設定する。また、断層上端深さに関しても上述と同様に一律3km と設定する。

(5)活動区間
 基本的には個々の活断層モデルの全区間が同時に活動すると考える。ただし、長期評価結果で地震を起こすセグメントの組合せとして複数示されている場合には、最も起こりそうな活動区間をモデル化する。

B. 98 活断層帯のうち試作に用いる活断層の諸元

(1)概要
 98 活断層帯のうち試作に用いる活断層を図3.4.1-1 に示す。活断層の抽出範囲は、試作領域の外周を東西南北各1 度以上拡げた範囲である。これらの活断層は表3.4.1-1 において○印をつけている。
 この範囲に含まれる98 活断層帯は全部で45 であるが(断層No.24.61、66.71、97)、そのうち東京湾北縁断層(断層No.28)と岐阜-一宮断層帯(断層No.66)は長期評価により活断層ではないと判断されたため、モデル化しない。また、糸魚川-静岡構造線断層帯(北部:No.44)および同(中部:No.41)は併せて長期評価がなされているので、それを1つと数えれば合計42 断層となる(以後、糸魚川-静岡構造線断層帯(北部、中部)のNo.は41 で表示する)。
 上記42 の主要活断層のうち、長期評価および形状評価が公表された活断層は糸魚川-静岡構造線断層帯(北部、中部:断層No.41)の1つである。長期評価が公表された活断層は元荒川断層帯(断層No.32)、神縄・国府津-松田断層帯(断層No.36)、信濃川断層帯(長野盆地西縁断層帯:断層No.40)、富士川河口断層帯(断層No.43)、森本・富樫断層帯(断層No.57)、養老-桑名-四日市断層帯(断層No.67)、鈴鹿東縁断層帯(断層No.68)、の7 つである。このうち、元荒川断層帯については「南部は活断層ではなく、北部は活断層であると評価したが、北部についてはさらに調査研究を行うとともに、関東平野北縁断層帯と一連の活断層帯として評価する必要がある」と評価されるにとどまっていることから、とりあえず長期評価が未評価の活断層に含めて取り扱うこととし、料率算定会の活断層の諸元を参考にして北部のみをモデル化する。残りの34 断層については料率算定会の活断層モデルが暫定的に用いられるが、それに該当する活断層数は57、元荒川断層帯を含めると58 となる(表3.4.1-1)。

(2)長期評価および形状評価が公表された活断層
 試作で用いる活断層のうち、現在までに長期評価および形状評価が公表された活断層は糸魚川-静岡構造線断層帯(北部、中部:断層No.41)のみである。
 糸魚川-静岡構造線断層帯(北部、中部)の地震発生確率を表3.4.1-2 に示す。また、断層モデルの諸元を表3.4.1-3 および表3.4.1-4 に、断層位置を図3.4.1-2 に示す。表3.4.1-3 に示す位置が地表トレースとなるように、北部1 と北部2 に関しては傾斜方向40°、中部1 と中部2 に関しては傾斜方向80°の角度に沿って、鉛直深度で4km 埋め込んだものがここで設定した断層面の諸元(表3.4.1-4)である。これはシナリオ地震地図の作成で用いられている糸魚川?静岡構造線断層帯(北部、中部)の巨視的断層モデルの諸元と同一である。
 表3.4.1-4 より明らかなように、糸魚川-静岡構造線断層帯は4つのセグメントに分けて評価されているが、試作では98 活断層帯に発生する最大地震として全区間の活動を想定する。

(3)長期評価が公表された活断層
 試作で用いる活断層のうち、現在までに長期評価が公表された活断層は神縄・国府津-松田断層帯、信濃川断層帯(長野盆地西縁断層帯)、富士川河口断層帯、森本・富樫断層帯、養老-桑名-四日市断層帯、鈴鹿東縁断層帯の6 つである((1)で述べた理由により元荒川断層帯は除いている)。
 これら6 つの活断層の地震発生確率を表3.4.1-5 に、マグニチュードと断層面の諸元を表3.4.1-6 に示す。
なお、上記の活断層のうち、富士川河口断層帯については長期評価において、「活動区間(震源域)はこの断層帯(陸上部)だけにとどまらず駿河湾内まで延び、「東海地震」の想定震源域と大部分重なり合うと考えられる。」と述べられている。図3.4.1-1 および表3.4.1-5 では陸上部のみをモデル化しているが、参考ケースとして海域まで断層面が拡がったと仮定したモデル(仮置き:「拡大モデル」と呼ぶ)を設定し、その違いについて考察した。拡大モデルの断層諸元を表3.4.1-7 に、断層面の位置を図3.4.1-3 に示す。

(4)長期評価が未評価の活断層
 元荒川断層帯および長期評価が未評価の34 の活断層については前述のように、暫定的に58 の料率算定会の活断層モデルで代用する。
 これらの活断層の地震発生確率とマグニチュードを表3.4.1-8 に示す。

参考文献
・伊藤 潔(1997):地殻内地震の深さの上限,日本地震学会1997 年度秋季大会講演予稿集,P69.
地震調査研究推進本部地震調査委員会(2001):長期的な地震発生確率の評価手法について, 平成13 年6 月8 日.
・松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について, 地震, 第2 輯, 第28 巻,pp.269-283.
・松田時彦・塚崎朋美・萩谷まり(2000):日本陸域の主な起震断層と地震の表−断層と地震の地方別分布関係−, 活断層研究, Vol.19, pp.33-54.
・佐藤良輔編著(1989):日本の地震断層パラメター・ハンドブック, 鹿島出版会.
・損害保険料率算定会(2000):活断層と歴史地震とを考慮した地震危険度評価の研究〜地震ハザードマップの提案〜,地震保険調査研究47.
・渡辺基史・佐藤俊明・壇 一男(1999):内陸地震の断層長さと幅に関する考察,日本地震学会1999 年度秋季大会講演予稿集,A09.
・渡辺基史・佐藤俊明・壇 一男(2000):内陸地震の断層パラメータの相似則(その2),日本地震学会2000 年度秋季大会講演予稿集,B06.