3.5 浅部地盤構造モデル

 浅部地盤構造モデルは、国土数値情報の地形・地質データおよび標高データをもとに表層地盤の増幅倍率をもとめることとした。

 3.5.1 国土数値情報を用いた表層地盤の増幅率評価

(1)基本的な考え方

 地震動評価における表層地盤の増幅率評価については、簡易的に地盤の増幅度を全国同水準に求めることを前提に考えることとする。
 評価方法は、国土数値情報に含まれる地形学的情報が全国を網羅しており、これより地盤の増幅度を求め、工学的基盤における地震動強さ(最大速度)にこの増幅度をかけることにより、地表の地震動強さを求める方法である。
 松岡・翠川 (1994) は、地盤情報を含むデータが日本全国1kmメッシュでデータベース化されている国土数値情報を用いる方法を提案している。しかし、松岡・翠川 (1994) では、経験的に地盤の平均S波速度を求める際に関東のデータに基づいており、全国的に用いるには問題があった。
 その後、藤本・翠川 (2003) は、全国のPS検層データを用いて地形分類と地盤の平均S波速度の関係を評価した。
 ここでは、藤本・翠川 (2003) の方法を用いて地盤の増幅度の評価を行った。

(2)増幅率評価に用いる国土数値情報および地質図

 地盤を全国一律に細かく評価した資料として、国土数値情報(国土交通省国土地理院)や100万分の1地質図(独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)などがある。前者については微地形分類、海岸線、主要河川、標高のデータ、後者については表層地質分布から地質年代のデータを使用する事ができる。このうち、地形分類のデータは、全国を約1kmのメッシュに分けて、メッシュごとに評価されている。しかし、これは県を単位とした分析であり、県によって評価の精度が違ったり、表現が異なったりしており、全国的には統一的でない部分もある。また、これらのデータは主に昭和40年代に作成されたためにその後に埋め立てられたり、造成されたりした地域のデータは含まれていない。以上の点を踏まえ、対象地域の地形分類データについて統一的に見直す作業を行った。
 表3.5-1に国土数値情報による地形分類および表層地質分類と藤本・翠川 (2003) による微地形区分との関係を示す。ここでは表3.5-1の対応関係を基本として、藤本・翠川 (2003) の微地形分類を行うこととした。
 なお、以下の2点について、新たに考慮することとした。

  1. 微地形区分の「他の地形(沖積・洪積)」の見直し
     国土数値情報を用いた微地形区分の中にある「他の地形(沖積・洪積)」という分類は、その大半が第四紀に噴火した火山の地形であるが、同地域の地質図と比較すると第三紀以前の岩盤が露出している地域が混在している箇所が多く見られた。そこで、「他の地形(沖積・洪積)」に分類される地域の地質図と照らし合わせて、「他の地形(沖積・洪積)」の再分類を行った。
  1. 微地形区分がなされていないメッシュの再評価
     国土数値情報では、湖や海沿いにおいて1kmメッシュの大半が水面部である場合は微地形区分の対象から除外している。このため、メッシュ内に陸がわずかに存在する場合でも、微地形区分が抜けている場合がある。そこで、データが抜けている湖および海沿いのメッシュに対して微地形ないしは地質を追加する作業を行った。

(3)表層地盤の増幅の評価

 藤本・翠川 (2003)によると、松岡・翠川 (1994)によって示された式(3.5-1)の関係を用いて、微地形区分ごとの平均S波速度を算定し、図3.5-1に示すような3つに区分された地域(東北日本・中央日本・西南日本)に分けて、微地形区分ごとの標高ないしは河川からの距離と平均S波速度の関係を求めている(図3.5-2)。図3.5-2によって求められた式(3.5-1)の係数を表3.5-2に示す。

(3.5-1)
  ;地表から地下30mまでの推定平均S波速度(m/s)
  ;係数 (表3.5-2)
  ;標高 (m)
  ;主要河川からの距離(km)

 また、それぞれの微地形区分における標高のデータに係る係数“ ”と主要河川からの最短距離に係わる係数“ ”は、実測値データを元に決定した関数によるものであるため、表3.5-3および表3.5-4に示す有効な範囲を設定した。

 松岡・翠川 (1994) は、第三紀ないしそれ以前の丘陵地( が600m/s程度)を基準とした表層地盤の速度増幅度について、下式 (3.5-2) を用いて算定することを提案している。

(3.5-2)
  ; 地表から地下30mまでの推定平均S波速度 (m/s)
  ; 地表から地下30mまでの速度増幅度

 なお、標高値や主要河川からの距離によっては平均S波速度が100m/s未満となる場合が生じるが、ここでは、平均S波速度が100 m/s未満となった場合には、平均S波速度100 m/sの速度増幅度で評価するものとした。
 また、式(3.5-2)は、平均S波速度が600m/sを基準(増幅度=1.0)としている。今回の予測地図作成に当たっての基盤の評価は、

  1. 簡便法で用いるS波速度400m/s相当の工学的基盤
  2. 詳細法で用いるS波速度500m/s相当の工学的基盤

で行うことを想定しているため、上記増幅度を各基準面に適用する場合には、補正係数でさらに割った増幅度を用いることとした。補正係数は、式(3.5.1-2)にそれぞれのS波速度を代入して算定される速度増幅度の比とし、S波速度400m/sの場合には1.31、S波速度500m/sの場合には1.13を用いた。

 以上までに述べた方法で、日向灘周辺地域(九州南部地域)について、1kmメッシュごとにもとめた、微地形区分、平均S波速度の分布、簡便法で用いる工学的基盤(S波速度400m/s相当)以浅の速度増幅度の分布、および詳細法工学的基盤(S波速度500m/s相当)以浅の速度増幅度の分布を図3.5-3図3.5-6に示す。

 3.5.2  ボーリングデータを利用した表層地盤のモデル化

(1)基本的な考え方

 入手可能な地盤資料を用いて、精度の良い地表の地震動をもとめるために、ボーリング柱状図ごとに地盤のモデル化を行うことを基本とする。
 解析に必要な物性値については、極力、データを収集するが、ボーリング1本ごとにはデータがないことから、土質区分ごとに設定して用いることとする。

(2)地盤の増幅特性評価方法について

 工学的基盤における時刻歴波形より、ボーリングデータによる詳細なモデルに基づいて1次元地震応答計算を行い、地表の時刻歴波形を計算する。1次元地震応答計算の方法としては、主として、線形解析法(例えば、Haskell, 1960)、等価線形解析法(例えば、Shnabel et al., 1972)、逐次非線形解析法(例えば、吉田・東畑, 1995)があり、それぞれに以下の特徴を持つ。

線形解析法
重複反射理論により計算を行うものである。土の非線形性を考慮していないため、大地震による地盤の非線形性を考慮することができない。
等価線形解析法
重複反射理論を基に土の非線形特性を等価な線形の関係に置き換え、解析の間、一定の材料特性を用いる方法である。ひずみレベルが大きくなると、精度は低下する。どの程度のひずみまで適用できるかは、必要とする解析の精度や地盤条件にもよるが、一般的には0.1%〜1%までである。また、強い揺れにより液状化等が生じた場合には、正しい結果は得られない。
逐次非線形解析法
材料の非線形特性を数学モデルや力学モデルで表現し、材料特性の変化を逐次計算しながら挙動をもとめようとする方法である。0.1%〜1%を超える大きなひずみレベルでも適用可能である。その一方で、入力パラメータの設定や算出結果の解釈など、専門的な知識を持って解析に当たることが必要となる。

 広域の地震動分布の算出には、今までは等価線形法が多く用いられてきた。これは、等価線形法がパラメータも少なく利用しやすいこと、もとめられた地震動分布(震度、加速度)が既往の被害地震の地震動分布を大局的に説明できたこと、等価線形解析結果が逐次非線形解析結果に比べると、たとえば最大加速度が大きくなる傾向があり防災対策上は安全側の評価ができるなどによることが考えられる。逐次非線形解析は、今までは観測波形の検証や液状化した地盤の過剰間隙水圧の上昇やひずみの増大などをみるために、検討対象地点ごとに利用されてきたことが多く、広域の地震動評価に使われたのはきわめて少ない。また、応力−ひずみ関係の採用式やそれに用いるパラメータの設定方法など、専門的な知識をもって解析を行うことが必要であること、逐次非線形解析結果を用いた地盤や構造物の評価方法の開発など、逐次非線形解析の広域地震動算出への課題は多い。このようなことから、逐次非線形解析を広域の地震動評価に用いることは端緒についたばかりで、今後も検討の必要があると考えられる。
 以上のことから、ここではボーリングデータによる地表の地震動評価における計算方法としては、等価線形法を採用することとした。用いた解析コードはSHAKEである。図3.5-7に等価線形法による応答計算の流れを示す。

(3)ボーリングデータの整理

 ボーリングデータについては、「宮崎市地盤図」などに掲載されている柱状図をデジタル化した。作成したボーリングデータの本数は2430本である。
 ボーリングデータの位置を図3.5-8に示す。

(4)物性値の設定

 ボーリング1本ごとにPS検層を実施したり、土質試験を実施していることは少ない。そこで土質ごとに区分し、それぞれに対して物性値を設定することとした。
 土質区分は、表3.5-5のTerzaghi-Peckによる地盤区分を参考に、表3.5-6に示す土質区分を設定し、それぞれの区分に対して物性値を設定した。

(a) 単位体積重量

 表3.5-7に示す道路橋示方書・同解説X耐震設計編 (1990)による土質分類と単位重量の概略値および道路公団の設計要領 (1983)表3.5-8に示す単位体積重量などをもとに設定を行った。表3.5-6に設定した単位体積重量を示す。

(b) S波速度

 既往のS波速度とN値の関係式を使ってS波速度を設定することとした。今回のボーリングデータは粘土、砂、礫の区別はできるが、時代区分はできない。このようなことから、ここでは、以下の太田・後藤の式(太田・後藤, 1978)を用いてS波速度を設定した。

(3.5-3)
 ここで、 :S波速度
  :N値
  :深度(m)
  :土質区分係数 粘土に対して、 = 1.000
砂に対して、  = 1.037
礫に対して、  = 1.199

 表3.5-6に土質区分を示したが、今回は式 (3.5-3) の3つの土質区分でS波速度を設定することから、次のような土質区分にして設定した。
 洪積の粘土、砂、礫は、沖積のものと区別せずに一括し、粘土、砂、礫とする。腐植土、ロームは粘土とし、埋土は砂とする。

(c) せん断剛性比( )および減衰定数( )とせん断ひずみ( )との関係

 既往の試験結果を用いて動的変形特性を設定した。図3.5-9に示した今津・福武(1986a,b)による粘土、砂、砂礫の平均的な の関係を用いた。実際には、この曲線にRamberg-Osgoodモデル(ROモデル)の曲線がフィッティングするように設定した。

(5)ボーリングデータを用いた地盤のモデル化

(a) モデル化の考え方

 地震応答解析を行う場合、各種地盤調査結果および試験結果を用いて、解析プログラムが要求するデータを選択して、地盤のモデル化を行う。一次元解析であれば地層の分割を行い、それぞれの分割した地層ごとに土質定数を設定する。この場合、分割した地層ごとに調査や試験を行い、解析に必要な定数が得られていることが理想ではあるが、現実にはデータがそろっている資料は少ない。解析に利用できる地盤データとしては、地盤図ないしは柱状図集としてまとめられているボーリング柱状図とN値があげられる。ここではボーリング柱状図とN値から地盤モデルを作成することを考える。解析に用いる定数は、土質ごとにN値等との関係を事前にもとめておくこととする。

(b) 地盤のモデル化

 ここでは下記に示すルールに従って、応答計算用データの作成を行った。

 I 応答計算に必要なデータ

 応答計算に必要とするパラメータは以下のとおりである。

  • ・層境界深度  ・S波速度  ・密度  ・ , 曲線

 II 応答計算の対象とするボーリングデータの選択

 まず、以下のルールにより応答計算の対象とするボーリングデータを抽出する。

  • N値があるものについて、工学的基盤を洪積礫質土(表3.5-6による記号がDg4:洪積礫質土でN値50以上が5回確認できるもの、または洪積礫質土が最下層でN値50以上が3回確認できるもの)および岩盤または風化岩としたときに、工学的基盤を確認できたもの

 III ボーリングデータの地層区分

 地層の地質、年代およびN値をもとに表3.5-6の地質区分に分類する。層厚が1m未満の場合(以下、薄層と呼ぶ)には、図3.5-10図3.5-11に示す薄層処理を行う。

 IV 物性値

 応答計算を行うためには、層ごとにS波速度、密度、 曲線を与えることが必要である。密度および 曲線は、表3.5-6および図3.5-9より層区分の地層ごとに与える。
 S波速度は、式 (3.5-3) によるN値とS波速度の関係式よりS波速度をもとめる。N値は、下記のように地層区分ごとに平均したN値を用いることとした。しかし、地層区分の中にはN値のないものもあり、このような地質区分については、表3.5-6で設定したN値をもとに地質ごとの平均的な値を用いることにした。

埋土 :N=7 ローム   :N=4
沖積腐植土 :N=1 洪積腐植土 :N=2
沖積粘性土 :N=3 洪積粘性土 :N=6
沖積砂質土 :N=20 洪積砂質土 :N=20
沖積礫質土 :N=20 洪積礫質土 :N=30

(6)ボーリングデータを用いた1kmメッシュごとの地盤のモデル化

 詳細法で地震動予測を行った領域の1kmメッシュごとに、ボーリングデータと微地形データを用いて、地震応答解析を行う場合の地盤のモデル化を行う。ボーリングデータと微地形データを用いて1kmメッシュの地盤モデルを作成する流れを図3.5-12に示す。以下の手順でモデルを行う。

  1. 微地形区分資料の調整
    1. 1kmメッシュ内の微地形区分の分布を国土数値情報を用いて作成する。
    2. 微地形区分ごとの 30(地表から地下30mまでの平均S波速度)と標高および河川からの距離の関係を検討する。
    3. メッシュごとの代表する微地形区分による 30を算出する。
  1. PS検層・ボーリング資料の選定
    1. ボーリング資料を整理する。
    2. 各メッシュ内のボーリングデータを選定する。
      掘進深度30m以上のボーリング資料(山地部では最も深いもの)を優先する。優先度の高いものが複数ある場合には、 (卓越周期)が最も長いものとする。 は、 とN値の関係により算出する。
  1. メッシュでの代表ボーリングデータの採用
    1. 各メッシュに代表するボーリングデータがあるかを判定する。
    2. ある場合には、上記の選定基準 2. ii により、代表柱状を採用する。
    3. ない場合には、メッシュを代表する微地形区分 1. ii と同じ微地形区分で、上記 2. で選定された資料から、最も近いデータを代表ボーリングとして採用する。
  1. 物性値の設定
      とN値の関係から、S波速度を設定する。
  1. 補正
     上記 3. iii の場合、採用されたボーリングデータは、他メッシュからの拡張データであり、当該メッシュを代表する微地形区分からもとめた 30の値 1. iii に補正する。

 図3.5-13に、1kmメッシュに存在するボーリング本数を示す。図3.5-14に、ボーリングの深さが30m以上ある1kmメッシュを示す。これは、地表から地下30mまでの平均S波速度をもとめるために必要となるものである。図3.5-15に国土数値情報による微地形区分図を示す。
 以上のデータをもとに、図3.5-12の流れに従って1kmメッシュの地盤分類を行い、これにより 30を求めたものを図3.5-16に示す


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