3.2 対象地域の地質環境

 日向灘の地震を想定した地震動予測地図を作成する目的で、九州地方の深部地盤構造モデルの検討を行った。
 検討地域のうち、福岡・熊本・大分・長崎県の一部は、布田川−日奈久断層帯を想定した地震動予測地図作成の際に深部地盤構造モデルの作成を行っている。東経134度以東については、山崎断層帯を想定した地震動予測地図および中央構造線断層帯を想定した地震動予測地図作成の際に深部地盤構造モデルを作成している。これら既往の深部地盤構造モデルのある地域についてはそのモデルを参考とする。本検討では、宮崎県を中心に、鹿児島・大分県の一部を対象として深部地盤構造モデルの作成を行う。
 なお、上記「布田川−日奈久断層帯」、「山崎断層帯」、および「中央構造線断層帯」における深部地盤構造モデル作成の詳細は、それぞれ既刊されている防災科学技術研究所研究資料(防災科学技術研究所、2004, 2006a, 2006b)を参照されたい。
 図3.2-1に九州地方の地質平面図、表3.2-1に地質構成表を示す。図3.2-23には九州地方の地質構造区分図を示す。
 当地域には、先第三系を基盤として、古第三系、新第三紀中新統、鮮新統、第四紀更新統、完新統および新生代火山岩が分布する。以下に、各地質について概述する。

(1)先新第三系

 九州地方は地体構造の観点からは西南日本に属すが、中国・四国地方に見られる西南日本特有の帯状構造は、北半部や南部で新生代火山岩類に被覆されるため、地質分布が非常に複雑になっている。また、西南日本で内帯と外帯をわける中央構造線そのものの延長は佐賀関半島の北側までは追跡可能であるが、それより西側では三波川帯が欠如するため不明である。九州では、臼杵―八代構造線が内帯と外帯を分ける構造線にあたると考えられている。この臼杵―八代構造線の北側には、北より三郡帯・領家帯(肥後帯を含む)・三波川帯(佐賀関半島のみ)が分布し、南側には北より秩父累帯・四万十累帯が分布する。ただし、九州の中部や北西部には新生代火山岩類が広く分布し、先新第三系の分布が良く把握されていない地域も多い。

三郡帯:
九州地方の三郡帯は、中国地方の三郡―中国帯の西方延長にあたり、大分・福岡・佐賀・熊本各県を含む広い地域に分布し、三郡変成岩などの変成岩類や中・古生代の深成岩類・堆積岩類からなる。南限は大分―熊本構造線。三郡帯の主な白亜系は、関門層群・八幡層であり、関門層群は福岡県北東部から山口県西部にかけて広く分布する。
領家帯:
九州地方の領家帯は、中国・四国地方の領家帯の西方延長であり、福岡・大分・熊本県の一部に分布する。しかし、新生代火山岩類に広く覆われるため、地表での分布は限られている。豊肥地域では、新生代火山岩類の基盤岩として確認されている。南限は臼杵―八代構造線。領家帯の主な白亜系は、大分県大野川中流域に分布する大野川層群であり、層厚は最大で2500mをこえると推定され、四国の和泉層群に相当すると考えられる。
肥後帯:
主に熊本県に分布し、南縁は臼杵―八代構造線。肥後帯の主な白亜系は、御船層群・御所浦層群・姫浦層群などの堆積岩類であり、その分布はきわめて細長く、堆積物は厚く1000m〜2000m程度と推定される。これら堆積岩類は、四国の和泉層群に相当すると考えられる。
三波川帯:
大分県佐賀関半島に分布し、四国地方の三波川結晶片岩の西方延長にあたる。佐賀関半島以西の分布については諸説あり、はっきりとしていない。
秩父累帯:
大分県臼杵南部から熊本県南部球磨川流域にかけての、東北東―西南西方向に帯状に分布する。北縁は臼杵―八代構造線、南縁は仏像構造線である。秩父累帯の白亜系は浅海性堆積物からなり、西部の八代地域から東部の臼杵地域までレンズ状に分布する。
四万十累帯:
四万十累帯は、仏像構造線およびそれに相当する構造線の南側に分布し、延岡衝上およびそれに相当する構造線により北部と南部に区分される。四万十累帯北部は、主に白亜系付加体のタービダイトにより構成される。四万十累帯南部は、主に古第三系〜中新統(一部、白亜系を含む)のタービダイトにより構成される。

(2)古第三系

 北部〜中西部九州(臼杵―八代構造線以北)の古第三系は、炭層を挟み、その上部に海成層を伴う。これら夾炭層は多くの炭鉱で稼行されてきた。九州北東部では、対応する層は確認されていない。
 南部九州(臼杵―八代構造線以南)の古第三系〜前期中新統は、先に述べた四万十累層群に含まれる。

(3)新第三系

 北部〜中部九州の新第三系は、一部海成層であるが、主に陸成層である。中期〜後期中新世の火山活動により形成された堆積盆の堆積物は、グリーンタフ相当層と考えられる。また、鮮新世〜前期更新世にかけて豊肥火山活動(豊肥火山岩類)があり、グリーンタフを不整合に覆う。
 南部九州の新第三系は、宮崎平野に海成の宮崎層群、鹿児島県北西部に北薩火山岩類、薩摩半島南部地域に南薩層群が分布する。また、構造性の山間盆地や火山性盆地に非海成の堆積岩類が分布する。

(4)第四系

 段丘・沖積平野を構成する。また、第四紀火山活動が活発であり、火山岩類が広範囲に分布する。
 宮崎、鹿児島各県の主な平野および盆地の概略を下記に述べる。

宮崎平野:
宮崎市を中心とする海岸平野。主に、海成〜非海成の泥層・砂層より構成される。基盤は宮崎層群。
加久藤盆地:
宮崎県えびの市を中心とする山間盆地。主に、泥岩・砂岩などからなる湖成層より構成される。基盤は四万十累層群下部。
出水平野:
鹿児島県出水市を中心とする海岸平野。主に、第四系の砂礫層・火砕流堆積物より構成される。基盤は四万十累層群下部。
鹿児島湾沿岸地域:
主に、浅海成層・湖沼成層・火砕流堆積物より構成される。基盤は主に、四万十累層群下部と新第三紀安山岩類。
人吉盆地:
熊本県人吉市を中心とする地溝性の山間盆地。主に、陸成層・火山岩類・火砕流堆積物より構成される。基盤は四万十累層群下部。

(5)新生代火山

 九州地方に分布する火山は、次の3グループに分類される。九州地方は、新期火山堆積物に広く覆われ、その下の地質構造が把握されている地域は少ない。

環日本海新生代アルカリ岩石区の火山群:
長崎県五島列島北部の小値賀島・南端の福江島・多良岳などに分布。主に、後期更新世〜完新世に活動。アルカリ玄武岩質から成る。
大山火山帯:
中国地方の大山火山から姫島・九重・雲仙・多良岳にいたる火山帯。別府―島原地溝内に分布する。火山ごとに、デイサイト・流紋岩・角閃石安山岩・玄武岩など様々である。九重火山では、村上ほか(1981)によれば地表面深度1.5〜2.5km程度で地震基盤相当層に達する。
霧島火山帯:
阿蘇・霧島・桜島を経て南西諸島にいたる火山帯。溶岩流・大規模火砕流を発生させるような活動が多く、阿蘇・姶良・阿多・鬼界カルデラ等、大規模なカルデラの形成が見られる。火山ごとに、輝石安山岩・角閃石安山岩・流紋岩・玄武岩・デイサイトなど様々である。阿蘇火山でのボーリング資料によると、150〜500m程度で白亜紀花崗岩・中古生代堆積岩などの基盤岩に達する。霧島火山では、西(1997)等によると地表面深度2km程度で地震基盤相当層に達する。火山やカルデラ周辺に広範囲に分布する火砕流堆積物(シラス)の厚さは、概ね100〜200m程度と推定する。

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