8.おわりに

 中央構造線断層帯の金剛山地東縁部分から和泉山脈南縁部分にかけて発生する地震を想定し、最新の知見に基づいて震源特性・伝播特性・表層地盤特性をモデル化し、断層周辺の広域で面的に地震動を評価し、地震動予測地図を作成した。
 本研究所で行われている特定プロジェクト「地震動予測地図作成手法の研究」は全国を概観する初の総合的な地震ハザード評価の試みで、今後はその成果の積極的な利用が進むと考えられる。単に成果をそのまま利用するのではなく、個々の検討目的に応じて判断と工夫を加えることの重要性も意識していきたい。
 シナリオ地震地図およびそこで評価された強震動時刻歴(波形)は、顕著な地域的・局所的特徴を反映した時刻歴を用いた耐震設計・改修・研究等への直接的な利用はもちろんのこと、特定地震を想定した様々な対策立案・計画等への利用が考えられる。今までも実務上の需要は年々強まっているが、特に、短周期から長周期に至る広帯域地震動の時刻歴が工学的基盤で面的に評価されていることの意義が非常に大きい。
 地震動予測地図そのものはゴールではなく、その成果が上述のような様々な目的の下に利用されることにより建物被害対策・地震防災等に役立てられること、最終的には人々の安全・安心・幸福がもたらされることが大事である。地震動予測地図作成という試みを通じて図られた地震動評価手法の高度化が建物被害評価の高度化や被害対策・地震防災等の向上を促すものであって欲しいし、そうなるべく次なる展開を図らねばならない。
 説明責任の時代の到来に伴い、自然現象に立脚した論理的な条件設定の意義が急速に高まってきた。地震動予測地図は、今後、いろいろな場面での説明の材料・手段として有用になると期待され、利用者の手腕と工夫によってその活用可能性が一層広がると思われる。


← Back Next →