6.2 詳細法工学的基盤で評価された地震動の時刻歴と周期特性

 詳細法工学的基盤で評価された地震動の時刻歴と周期特性についてまとめる。

 6.2.1 地震動の時刻歴

 詳細法により、詳細法工学的基盤において継続時間200秒間の地震動時刻歴を計算した。時刻歴の末尾にはフィルター&ハイブリッドの計算処理上のノイズが含まれる可能性も否定出来ないため、時刻歴包絡形が十分に減退している末尾20秒間を時刻歴フィルターにより除去して継続時間180秒間(3分間)の時刻歴とした上で、更にその末尾5秒間にCosine型Taper処理を施した。以下に、各ケースについて10地点での時刻歴の計算結果を例示して解説する。

 (1) Case 1

 Case 1について、詳細法により評価された詳細法工学的基盤での地震動速度時刻歴のNS成分とEW成分(時刻 0〜100 秒)を図6.2-1図6.2-2に、これらを微分して得られた加速度時刻歴を図6.2-3図6.2-4に、それぞれ示す。Case 1の断層面上の破壊は、西側の第一アスペリティの西下隅から同心円状に広がる。
 第一アスぺリティ直上のSENや至近のKANでは、第一アスペリティからの波群が短時間に集中し、最大速度60 cm/s前後、最大加速度600〜1200 強の大振幅となった。
 第一アスぺリティの南方にあって、第一アスぺリティの破壊が近づいてくる位置にあるWAKでも波形振幅が大きく、最大速度は40 cm/s前後、最大加速度は600 強に達した。
 図域の東半分にあって断層全体として見た場合に破壊が近づいてくる位置にある各地点では、第一アスペリティと第二アスペリティからの波群が混ざり合って到達し、波形振幅は断層からの距離が遠いほど小さくなる。更に、大阪平野のIZU・SAK・OSAでは堆積盆地の深い地下構造での地震波伝播により地震動の継続時間が長くなり、後続動が長周期化している。その傾向は、堆積層が深いOSAで最も顕著である。
 断層の北方に離れたKOBでは、距離減衰が大きいために波形振幅が小さくなっているが、大阪湾の堆積盆地の北端附近に位置するため、やはり深い地下構造での地震波伝播により地震動の継続時間は長くなっている。
 断層全体として見た場合に破壊が遠ざかっていく位置にあるSUM・WAK・SENなどでは、2つのアスペリティからの波群が時間差を置いて到達している。これらの地点は第一アスペリティよりも第二アスペリティの方が遠いため、第二アスペリティから到達する波群の方が、到達時刻が遅れ、短周期成分が大きく減衰している。特に、断層面の西方にあるSUMでは、その到達時刻差が最も大きい。
 NS成分とEW成分の波形性状は全体として同様だが、後続動では時間により伝播する複数の表面波を反映して波形性状の違いも見られるようである。
 以上のように、各地の時刻歴性状には、詳細な地域特性を反映した地震動評価結果としての特徴が見られる。

 (2) Case 2

 Case 2について、Case 1と同様に図6.2-5図6.2-8に示す。ケース2の断層面上の破壊は、東側の第二アスペリティの東下隅から同心円状に広がる。
 第一アスぺリティ直上のSENや至近のKANでは、第一アスペリティからの波群が短時間に集中し、Case 1と同様に最大速度60 cm/s前後、最大加速度500〜1000 強の大振幅となった。
 第一アスぺリティの南方にあって、断層全体として見た場合に破壊が近づいてくる位置にあるWAKでも波形振幅が大きく、最大速度は40 cm/s前後、最大加速度は500 弱に達した。
 図域の東半分にあって断層全体として見た場合に破壊が遠ざかっていく位置にある各地点では、Case 1に比べて第一アスペリティと第二アスペリティからの波群到達時刻差が拡大して主要動が間延びし、波形振幅は断層からの距離が遠いほど小さくなる。更に、大阪平野のIZU・SAK・OSAでは堆積盆地の深い地下構造での地震波伝播により地震動の継続時間が長くなり、後続動が長周期化しているが、その傾向はCase 1に比べてはるかに弱い。
 Case 1とは正反対に破壊が近づいてくる位置にあるSUMでは、Case 1に比べると波群の集中の度合いが増し、最大速度は20〜30 cm/s程度に達した。
 以上のように、各地の時刻歴性状には、詳細な地域特性を反映した地震動評価結果としての特徴が見られる。

 6.2.2 地震動の擬似速度応答スペクトル

 詳細法工学的基盤で評価された地震動の減衰定数5%擬似速度応答スペクトルを計算し、地震動の周期特性について解説する。

 (1) Case 1

 Case 1について、詳細法工学的基盤で評価された地震動の減衰定数5%擬似速度応答スペクトルを図6.2-9に示す。細実線がNS成分、太破線がEW成分の結果である。
 地震動の周期特性は、各地点付近の地下構造を反映しており、地点によって様々である。特に、前述のように第一アスぺリティの直上や至近に位置するSEN・KANでは、一般的な構造物の固有周期が位置する周期約0.2〜1秒の帯域では100〜200 cm/sに達する最大級のスペクトルになっている。また、大阪平野のOSAの周期10秒弱やSAK・IZUの周期5秒強のスペクトルには100〜200 cm/sに達する大きなピークが見られ、大阪平野の深い地下構造により励起されたやや長周期地震動の特徴が現れている。

 (2) Case 2

 Case 2について、Case 1と同様に図6.2-10に示す。
 地震動の周期特性は、各地点付近の地下構造を反映しており、地点によって様々である。第一アスぺリティの直上や至近に位置するSEN・KANでは、Case 1と同様、最大級のスペクトルになっている。また、大阪平野のIZU・SAK・OSAでは、大阪平野の深い地下構造により励起されたやや長周期地震動の特徴が現れているものの、断層全体として見た場合に破壊が遠ざかっていく位置にあるため、その傾向はCase 1に比べてはるかに弱い。

 6.2.3 表面波理論分散曲線による表面波卓越周期の検討

 長周期の擬似速度応答スペクトルに特徴的なピークが見られた地点において、ピークの周期が地点直下の地下構造から推定される表面波卓越周期によって説明できるかどうか検討する。ここでは、周期10秒弱にピークの見られたOSAと周期5秒強にピークの見られたSAKについて検討する。両地点直下の地下構造モデルは次の通りである。( 層厚1 mの層は地下構造モデルの面的な連続性確保のために計算結果に影響しない薄い層として入れたものである。)

OSA:大阪   層厚 [m]   密度 [ ]   S波速度 [m/s] 
340 1.8 350
547 1.9 550
1 2.0 590
1 2.1 710
1028 2.1 880
1 2.3 1300
1 2.4 1600
1 2.5 2000
2084 2.6 3100
12000 2.7 3400
19000 2.9 3800
3.3 4400
SAK:堺   層厚 [m]   密度 [ ]   S波速度 [m/s] 
198 1.8 350
316 1.9 550
1 2.0 590
1 2.1 710
594 2.1 880
1 2.3 1300
1 2.4 1600
1 2.5 2000
2892 2.6 3100
12000 2.7 3400
19000 2.9 3800
0 3.3 4400

 図6.2-11に、上述のOSA( 大阪 )とSAK( 堺 )の直下の地下構造からそれぞれ求められた表面波基本モードの理論分散曲線を示す。図はいずれも、左側がLove波基本モード、右側がRayleigh波基本モードの分散曲線で、実線が群速度、点線が位相速度である。図中、緑線は上述の地下構造モデルそのものから求められた結果であり、青線はS波速度350m/sの最表層を除いたものから求められた結果である。
 図を見ると、特にLove波基本モードのエアリー相が顕著で、その卓越周波数はOSAでは0.1 Hz強( 周期10秒弱 )、SAKでは0.2 Hz弱( 周期5秒強 )であり、いずれも擬似速度応答スペクトルに見られたピークの周期と良く対応している( Rayleigh波基本モードのエアリー相はLove波ほど明瞭ではない )。このことから、これらの地点の時刻歴や擬似速度応答スペクトルに見られた長周期地震動は、大阪平野の地下構造によって励起された表面波によるものであると推定される。
 また、エアリー相の周期およびそこでの位相速度・群速度は、S波速度350m/sの最表層を考慮した場合もこれを無視した場合も殆ど同じである。従って、三次元有限差分法による地震動評価結果に最表層の存在が与える影響は小さいと判断される。

 6.2.4 長周期地震動のスナップショットの検討

 今まで例示した地震波と地震動の諸特性を含めて、比較的大きな(深い)構造によって支配される長周期地震動の時刻歴と周期特性を更に深く理解するためには、地震波が時間と共に三次元空間をどのように伝播していくのかを視覚的に見るのが良い。そこで、三次元有限差分法により評価された長周期地震動NS 成分の周期1.5秒未満をフィルターカットしたデータを用いてスナップショットを描き、断層破壊や地下構造と周期1.5秒以上の長周期帯域での三次元的な地震波伝播性状について検討する。

 (1) Case 1

 Case 1のNS 成分のスナップショットを図6.2-12に示す。図は、カラーバーの −50〜50 cm/s の速度振幅で色分けして示す( この範囲を超える値はそれぞれカラーバーの最小値・最大値の色で塗られている )。Case 1の断層面上の破壊は、西側の第一アスペリティの西下隅( 図の★印 )から同心円状に広がる。破壊開始10秒後には、第一アスペリティの破壊により生成された大振幅の地震波が主に破壊進行方向( 東方 )へ広がり始めている。20秒後には、断層面全体の破壊により生成された地震波が主に破壊進行方向( 東方 )へ広がってゆくとともに、断層面の北方の大阪平野〜大阪湾の堆積盆地や南西方向の紀淡海峡付近では、深い地下構造によって励起された地震波により、周辺地域に比べて大きな振幅となっている。30秒後あるいはそれ以降になると、大阪平野〜大阪湾の堆積盆地では、断層面から直達する地震波の他に、堆積盆地の北端・西端・東端などから反射・屈折したり二次的に発生したりした複数の表面波の往来により、長時間にわたって周辺地域に比べて大きな振幅が続いている。また、紀淡海峡付近でも、長時間にわたって周辺地域に比べて震動が続いているが、堆積盆地構造のスケールが大阪平野〜大阪湾の堆積盆地よりは小さいために、その影響範囲も相対的に狭く、振幅も相対的に小さい。

 (2) Case 2

 Case 2のNS 成分のスナップショットを図6.2-13に示す。Case 2の断層面上の破壊は、東側の第二アスペリティの東下隅( 図の★印 )から同心円状に広がる。破壊開始10秒後には、第二アスペリティや一部第一アスペリティの破壊により生成された地震波が主に破壊進行方向( 西方 )へ広がり始めている。20秒後には、第一アスペリティの破壊により生成された大振幅の地震波が主に破壊進行方向( 西方 )へ広がってゆくとともに、断層面の北方の大阪湾の堆積盆地では、深い地下構造によって励起された地震波により、周辺地域に比べて大きな振幅となっている。30秒後には、大阪湾の堆積盆地に加えて、破壊進行方向( 西方 )の紀淡海峡付近でも、深い地下構造によって励起された地震波により、周辺地域に比べて大きな振幅となっている。40秒後あるいはそれ以降になると、大阪湾の堆積盆地では、断層面から直達する地震波の他に、堆積盆地の北端・西端などから反射・屈折したり二次的に発生したりした複数の表面波の往来により、長時間にわたって周辺地域に比べて大きな振幅が続いている。ただし、大阪平野の堆積盆地では、第一アスペリティの破壊に対して反対方向( 後ろ側 )にあることや、大阪湾の堆積盆地の方が深い地下構造であることなどの影響のためか、Case 1に比べて表面波が励起されておらず、複数の表面波の往来はもっぱら大阪湾の堆積盆地を中心にしているように見える。また、紀淡海峡付近でも、長時間にわたって周辺地域に比べて大きな振幅が続いており、破壊進行方向にあるため振幅も相対的に大きい。

 6.2.5 長周期地震動の波形性状の検討

 引き続き、長周期地震動の時刻歴と周期特性を理解するために、三次元有限差分法により評価された長周期地震動NS 成分のデータを用いて断層面や堆積盆地を南北に横切る直線上での波形性状の推移を調べ、断層破壊や地下構造と三次元的な地震波伝播性状について検討する。
 具体的には、詳細法計算領域西端から50kmと70kmの直線上において北から順に5km間隔で選んだ計算格子点の周期2.5秒以上の長周期波形を並べて図示し、検討する。ちなみに、詳細法計算領域西端から50kmの直線は、第一アスペリティのほぼ中央を南北に貫いており、KOBの東、KANのやや西を通っている。詳細法計算領域西端から70kmの直線は、第二アスペリティの西端付近を南北に貫いており、OSAやIZUの東、SAKのやや西を通っている。

 (1) Case 1

 図6.2-14図6.2-15にはそれぞれCase 1の詳細法計算領域西端から50kmと70kmでの結果を示す。Case 1の断層面上の破壊は、西側の第一アスペリティの西下隅から同心円状に広がる。
 図6.2-14を見るとわかるように、詳細法計算領域西端から50kmの直線上では、第一アスペリティの破壊により生成された地震波がそれぞれ南北に伝播していく様子がわかる。
 上から順に12〜14波目はちょうど第一アスペリティの直上付近に位置するため、数秒間という短時間に大振幅が集中し、その最大振幅は30〜50 cm/s程度に達している。上から順に6〜11波目は大阪湾下に位置し、大規模な堆積層により励起・生成された長周期地震波により後続動が長時間継続している。特に、大阪湾北部の最も堆積層が深い地域では、そのような後続動が少なくとも2分間以上にわたって続いている。一方、上から15波目はちょうど地表トレース付近に位置し、更にこれよりも南側では、北側のような大規模な堆積層がないことと下盤側であることから、断層から距離が離れると共に急激に振幅も小さくなる。
 図6.2-15を見るとわかるように、詳細法計算領域西端から70kmの直線上では、第一アスペリティの破壊により生成された地震波がそれぞれ最短経路に近い経路を通って各地点に到達するので、各地点での到達時刻差は図6.2-14ほど大きくないが、各地点での絶対到達時刻は図6.2-14よりも遅い。
 上から順に11〜12波目はちょうど第二アスペリティの直上付近に位置し、13波目は第一アスペリティの破壊延長先に位置するため、数秒間という短時間に大振幅が集中し、その最大振幅は30 cm/s前後に達している。上から順に5〜10波目は大阪平野下に位置し、大規模な堆積層により励起・生成された長周期地震波により後続動が長時間継続している。ただし、前述の大阪湾北部に比べると堆積層がやや浅くなっていることもあり、後続動の継続時間や卓越周期は図6.2-13よりも短いようである。一方、上から14波目よりも南側では、北側のような大規模な堆積層がないことと下盤側であることから、断層から距離が離れると共に振幅も小さくなる。

 (2) Case 2

 図6.2-16図6.2-17にはそれぞれCase 2の詳細法計算領域西端から50kmと70kmでの結果を示す。Case 2の断層面上の破壊は、東側の第二アスペリティの東下隅から同心円状に広がる。
 図6.2-16を見るとわかるように、詳細法計算領域西端から50kmの直線上では、第二アスペリティの破壊により生成された地震波がそれぞれ最短経路に近い経路を通って各地点に到達すると共に、第一アスペリティの破壊により生成された地震波がそれぞれ南北に伝播し、それらが重なり合っている。
 上から順に12〜14波目はちょうど第一アスペリティの直上付近に位置するため、数秒間という短時間に大振幅が集中し、その最大振幅は30〜50 cm/s程度に達している。ただし、上から14波目は、Case 1のように第一アスペリティの破壊前面にある訳ではないので、その振幅はCase 1ほどには大きくない。上から順に6〜11波目は大阪湾下に位置し、大規模な堆積層により励起・生成された長周期地震波により後続動が長時間継続している。特に、大阪湾北部の最も堆積層が深い地域では、そのような後続動が少なくとも2分間以上にわたって続いている。一方、上から15波目はちょうど地表トレース付近に位置し、更にこれよりも南側では、北側のような大規模な堆積層がないことと下盤側であることから、断層から距離が離れると共に急激に振幅も小さくなる。
 図6.2-17を見るとわかるように、詳細法計算領域西端から70kmの直線上では、第二アスペリティの破壊により生成された地震波がそれぞれ南北に伝播していく様子や、大阪平野の堆積層により励起・生成された長周期地震波により後続動が長時間継続する様子がわかる。ただし、全体として破壊が遠ざかっていく位置関係にあるため、振幅は小さめになっている。


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