7.おわりに

 以上、本研究資料では石狩低地東縁断層帯の地震を想定した地震動予測地図の検討結果についてとりまとめた。
 本検討では、地震調査研究推進本部地震調査委員会における検討より取りまとめられた「活断層で発生する地震の強震動評価レシピ」、および「石狩低地東縁断層帯の長期評価」にしたがって断層モデルの設定等を行った。
 また、強震動予測に必要な3次元地下構造モデルを作成し、強震動計算に際しては高精度な広帯域ハイブリッド法を用いた計算を行った。
 今回の検討によって得られた成果と今後の課題を以下にまとめる。

  • 今回の検討では、全4ケースの強震動予測計算を行った。そのうち3つのケースについては、パラメータ設定は同じとし、破壊開始点のみ異なるケースを想定した。評価結果によれば、破壊の進行方向が異なることから、強震動域の発現地域は異なっており、ディレクティビティ効果の影響や地下構造の影響が現れている。現状では破壊開始点を限定し得る情報に乏しく、考え得る複数のケースを想定しているが、今後震源特性に関する情報が蓄積されれば、想定すべきケースの絞込みも可能であると考えられる。
  • パラメータ設定はレシピに従って設定し評価を行ったが、今回のような規模の大きい断層の場合、レシピによる設定ではアスペリティ面積が大きくなる傾向がある。そこで今回の検討では、最近の研究事例を参考にして、断層総面積との面積比によってアスペリティの面積を設定するという、一部レシピとは異なるパラメータ設定による評価を別途1ケース行った。評価結果によれば、当然のことながらパラメータ設定方法の違いによって、結果は異なるものとなった。今後は、規模の大きい断層についてのパラメータ設定方法についての検討が必要であり、その成果を踏まえたレシピの改良に向けた取り組みも今後必要であると考えられる。
  • 3次元地下構造モデルについては、既往の調査・研究成果などを基にモデル化を行い、検討地域の複雑な構造をモデル化することが出来た。今回の検討地域については、特に断層周辺地域において堆積層が厚くなっており、これら堆積層の厚い地域では、地震波の揺れが長時間継続するなどの現象を予測することが出来た。一方で、中小地震の観測記録との比較など、検討が不十分な部分も残されており、今後モデルのチューニングを行うことによって、より高精度な地下構造モデルを構築することが必要である。また、今回の検討地域については、地震基盤までの堆積層全体が厚いだけでなく、強震動予測に与える影響が大きいと推測される、速度値の遅い堆積層上部の層が厚い部分もある。既往調査結果の精査・再解析やさらなる情報の収集・蓄積を図り、層区分の細分化などを行う必要もあると考えられる。
  • 表層地盤の評価については、今回の検討では、微地形区分を用いた増幅率によって評価した。一部の地域について、等価線形法による応答計算によって評価を行ったが、増幅率は地盤の非線形性、地震波の周期帯域を十分反映したものではなく、結果が大きく異なる部分も見られた。地域の地盤特性をより反映させるためには、微地形区分によるものでは限界があり、地域毎の浅部地盤のモデル化と、それに基づく評価が必要であると考えられる。また、増幅率による評価では、最大速度値のみを介して評価しており、地震波の性状(卓越周期など)は反映できない。今回見られた長周期成分を持った地震波については、過大な評価を与える傾向があり、単一指標による予測手法に対する改良、あるいは新たな予測手法が必要である。一方で、浅部地盤を個別にモデル化した場合の強震動予測手法についての検討も別途必要であると考えられる。

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