6.3 表層地盤の非線形解析

 6.3.1 解析対象領域と地盤のモデル化

 詳細法(ハイブリッド法)により求めた詳細法工学的基盤面における地震動の時刻歴波形を入射波として、一次元重複反射理論に基づいた等価線形計算を行い、地表地震動の時刻歴波形を求めた。
 本検討では、石狩低地に位置し、かつモデル作成に際して必要なボーリングデータが、比較的揃っている地域を解析対象地域として設定し、計算ケースはケース2について行うものとした。
 図6.3-1に解析対象地域の範囲を示す。対象地域は江別市周辺(以下、江別市という)、岩見沢市周辺(以下、岩見沢市という)のそれぞれ15メッシュ×15メッシュ(約15km×約15km)の地域とした。

 この地域について、3.5.2項で述べた方法により、1kmメッシュの浅部地盤のモデル化を行った。
 図6.3-2図6.3-3に作成した地盤モデルによる地表から30mまでの平均S波速度( 30)を示す。なお、地表より地下30mまでに工学的基盤がある場合には、それより以深は =480m/s層が =700m/s層まで分布するものとして設定した。

 6.3.2 計算結果

(1)最大速度分布

 図6.3-4に地表の最大速度分布を示す。上段は、微地形区分による増幅率を用いて求めた(6.1節に示した計算手法と同じ。以下、「微地形による方法」という)ものであり、下段は、応答計算により求めたものである。また、図6.3-5に江別市および岩見沢市の拡大図を示す。
 これらの図によれば、大局的には「微地形による方法」の速度値の方が大きい値となっている。これは、増幅率には地盤の非線形性が考慮されていないことが1つの原因と考えられる。ただ、個々のメッシュについて見ると、応答計算により求められた速度値の方が大きい値となっているメッシュもあり、微地形区分のデータ設定、増幅率算出に当たっての地域性(現状は全国を3区分)や、地盤のモデル化に関わる問題(ボーリングデータの多寡、質など)、非線形解析の手法・パラメータ設定など、さまざまな問題が関わっており、かつそれらの影響が複合されているものと推測される。

(2)計測震度分布

 図6.3-6に計測震度分布を示す。同図には、上記「微地形による方法」で求めた地表の最大速度値から、翠川ほか (1999) の方法を用いて求めた(以下、「震度換算式による方法」という)計測震度分布(上段)、応答計算により求めた地表の時刻歴波形から、気象庁の方法により求めた計測震度分布(中段)、および応答計算により求めた地表の時刻歴波形の最大速度値から、「震度換算式による方法」を用いて求めた計測震度分布(下段)を示してある。また、図6.3-7に江別市および岩見沢市の拡大図を示す(なお、気象庁の方法による場合は、上下動成分は0として計測震度を算出した)。
 これらの図によれば、計測震度の大きさは、大局的には、応答計算+気象庁の方法による値、応答計算+「震度換算式による方法」による値、「微地形による方法」+「震度換算式による方法」の値の順に大きくなっているが、個々のメッシュについて見ると、この傾向とは異なる部分もある。これらのことは、上述の速度分布における違いがそのまま反映されている可能性が大きい。評価手法の違いよる震度の違いについては、震度階級で見ると大半は1階級にとどまっているが、江別市では2階級の違いがあるメッシュがいくつか散見される。

(3)評価手法の違いについて

 前述の(2)では結果の面的な分布を示したが、ここでは両地域のデータをまとめて手法別に比較してみる。図6.3-8に比較図を示す。
 最大速度値については、応答計算により求めた地表の最大速度と、「微地形による方法」で求めた地表の最大速度の比較を示す(図6.3-8上段)。
 同図によれば、概ね「微地形による方法」で求めた地表の最大速度の方が大きくなっているものの、一部の地点については、応答計算により求めた方が大きくなっているなど、先の最大速度分布で述べた傾向と同様な傾向を表している。また、データのばらつきについては、100cm/s程度以上で大きくなる傾向がある。
 計測震度については、応答計算+気象庁の方法による計測震度と、「微地形による方法」+「震度換算式による方法」による計測震度の比較(図6.3-8中段)、および応答計算+「震度換算式による方法」による計測震度と、「微地形による方法」+「震度換算式による方法」による計測震度の比較(図6.3-8下段)を示す。
 これらの図によれば波形を用いて工学的基盤から地表の地震動を評価し、さらに計測震度を求めたのに対して、工学的基盤で最大速度値を求め、それを基に増幅率および震度換算式を用いて求めた計測震度は、かなり大き目となる場合も多いことを示している。

 6.3.3 代表地点の波形例

 計算結果については、前項に述べた通りであるが、本項ではさらに代表地点を選定し、その地点における時刻歴波形を示すことにする。
 波形例示地点は、江別市、岩見沢市の各1地点とし、“応答計算による地表波形から求めた計測震度”と、“「微地形による方法」と「震度換算式による方法」から求めた計測震度”の両者の差が大きいメッシュとした。また、地盤のモデル化の際に参照できるボーリングデータの有無も考慮した。
 図6.3-9に代表地点の位置を示す。また、表6.3-1には代表地点の計測震度を示す。
 図6.3-10に設定した代表地点の地盤モデルと計算結果(深さ方向の加速度分布、せん断応力、せん断ひずみ分布)を示す。また、図6.3-11に両地域の計測震度分布の拡大図(再掲)に代表地点位置を示したものを示す。
 図6.3-12に代表地点(江別市地点、岩見沢市地点)の計算波形(時刻歴速度波形)と、擬似速度応答スペクトル(減衰5%)を示す。
 これらの図によれば、江別市地点および岩見沢市地点とも、長周期成分が卓越した波形となっており、工学的基盤の波形と地表の波形の形状はさほど変化していない。また、振幅レベルの変化については、ごく表層の部分で加速度が大きく増幅しているものもあるが、計算波形(速度波形)を比較した場合は、表層地盤による増幅の割合の程度は大きくは見えない。スペクトルについてみると、卓越周期はすべて3秒以上となっており、また、工学的基盤と地表間でのピークのずれは見られない。スペクトル振幅の工学的基盤と地表間での増幅は、江別市地点では主として1〜2秒の範囲、岩見沢市地点では主として0.5〜1秒の範囲において、スペクトル振幅が増加している。
 前項で述べたように、今回の非線形解析の結果によれば、“「微地形による方法」と「震度換算式による方法」を用いた計測震度”の方が、“応答計算に基づく計測震度”よりも大きく評価される傾向がある。波形および卓越周期を見て分かるとおり、最大速度値は長周期成分に伴う値となっており、波形に基づく気象庁の方法との関連から見ると、地震波において3秒程度以上の長周期成分が卓越している場合は、単純な最大速度値から求めた計測震度は、過大な評価を与える傾向があると考えられる。
 表6.3-2に代表地点の最大速度、計測震度を比較したものを示す。計算波形から求まる最大速度値から、表層地盤の増幅率を求める(地表の最大速度/工学的基盤の最大速度)と、江別市地点で2成分平均1.16、岩見沢市地点で2成分平均1.11となっており、微地形分類による増幅率(1.74および1.59)が過大な評価となっていることが分かる。ただし、今回の計算波形から求めた増幅率は卓越周期が3秒程度以上の成分を持った地震波について言えることであり、上述のようにスペクトル振幅の増加は、数秒より短周期側で見られることから、地震波の卓越周期が短周期成分を持つ場合は、上記傾向が変わる可能性はある。
 いずれにしても、現状の増幅率のみを使った評価では、地盤の非線形性の評価や、広帯域にわたっての評価は困難である。


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