3.2 対象地域の地質環境

 石狩低地東縁断層帯を起震断層とする地震動予測地図を作成する目的で、石狩低地を中心とする地域の深部地下構造モデルを検討した。

 3.2.1 北海道のテクトニクス

 北海道の基盤岩類は、西部から中央部にかけて、南北方向の帯状配列を示す。西部の渡島(おしま)半島は東北日本弧の北方延長である。東部は千島弧に属しており、東北東−西南西の配列を示す。山脈や低地などの地形も、基盤岩類の地質構造を反映し、南北および東北東―西南西に配列している(図3.2-1および図3.2-2)。北海道のテクトニクスの概要は次のとおりである。

(1)先後期白亜紀

 北海道はユーラシアプレートの東縁に位置しており、白亜紀のプレートテクトニクスにより、隈根尻(くまねしり)層群、空知(そらち)層群、中の川層群などの付加体が形成された。また、渡島帯、礼文(れぶん)―樺戸(かばと)帯(図3.2-3)には花崗岩類が貫入した。

(2)後期白亜紀〜古第三紀

 北海道中央部および東部には、後期白亜紀〜古第三紀の堆積岩類が分布している(図3.2-3)。これらはユーラシアプレート東縁の前弧海盆や浅海域、陸域に堆積した地層であり、蝦夷(えぞ)層群、函淵(はこぶち)層群、石狩層群などからなる。これらの地層は石油・天然ガスの根源岩あるいは夾炭層になっている。
 苫小牧(とまこまい)付近には、苫小牧リッジと呼ばれる基盤岩類の隆起帯が認められる。勇払油ガス田はこのリッジ上に位置する。苫小牧リッジは、下北半島の尻屋崎から三陸沿岸につづく隆起帯であり、その頂部は白亜紀以降〜中期中新世まで陸域であったとされている(大澤ほか,2002)。後期白亜紀〜古第三紀の堆積岩類はリッジから東方にのみ分布する。苫小牧リッジは岡(1994)の北上―石狩―礼文隆起帯とほぼ一致する(図3.2-4)。苫小牧リッジは、古第三紀末期〜前期中新世に形成された伸張性の構造であるが(栗田ほか,2000)、これに沿って野幌(のっぽろ)丘陵や樺戸山地の隆起帯がみられる。後期中新世以降の圧縮テクトニクスでも活動的な構造と推定される。
 古第三紀漸新世の南長沼(みなみながぬま)層は、下位の地層を不整合におおう。不整合は三陸沖から日高沖、馬追(うまおい)丘陵にかけて広範囲に認められ、漸新世不整合と呼ばれる(栗田ほか,2000大澤ほか,2002)。

(3)前期〜中期中新世

 東北日本弧の内陸盆地〜日本海沿岸では、前期〜中期中新世にグリーンタフ変動と呼ばれる火山活動があった。渡島帯にもグリーンタフ変動が認められる。本地域には後期白亜紀〜古第三紀の堆積岩類はほとんど分布していない。

(4)後期中新世以降

 太平洋プレートの斜め沈み込みにより、千島弧が西進し、東北日本弧と千島弧が衝突し、北海道は圧縮テクトニクスの応力場におかれる。この島弧―島弧衝突により、日高山脈が隆起し、十勝平野、石狩低地、中央低地帯、黒松内―函館低地帯などの構造盆地が形成され、ほぼ現在に近い地形が形成された。構造盆地には、後期中新世〜前期更新世の地層が堆積した(図3.2-4)。また、日高山脈西部では、前縁褶曲帯や衝上断層帯が形成された。日高変成岩類はデラミネーションにより、下部地殻が上昇したものと考えられている(図3.2-5)。このテクトニクスは現在も継続しており、馬追丘陵西縁の石狩低地東縁断層帯や十勝平野の十勝中央部断層などの活断層が形成された。
 北海道は後期白亜紀以降、様々なテクトニクスによる地質構造運動を受けており、後期白亜紀以降の堆積岩類が厚く分布している。その厚さは最大7,000〜8,000m以上に達する。また、石狩低地では、古第三紀末期〜前期中新世の基盤岩類の隆起(リッジあるいはホルスト構造)と後期中新世以降の圧縮テクトニクスによる前縁褶曲・衝上断層帯の形成など、時代の異なるテクトニクスが重複してみられる(図3.2-6)。

 3.2.2 後期新生代以降の構造盆地

 北海道には、図3.2-4に示すように、西から東へ黒松内―函館低地帯、石狩―天塩(てしお)帯、日高舟状海盆、中央低地帯、十勝平野、十勝沖堆積盆、根釧(こんせん)原野などの構造盆地が発達している(岡,1994)。

(1)黒松内―函館低地帯

 黒松内から函館平野を経て、東北地方の内陸盆地列につづく狭長な構造盆地である。低地帯には鮮新世以降の地層が厚く分布する。

(2)札幌東部〜当別沈降部

 苫小牧リッジは隆起体をなし、野幌丘陵、樺戸山地東部につづく。野幌丘陵から西方の石狩湾にかけての地域は、南北方向の褶曲軸をもつ波長の短い背斜・向斜の活構造が発達している。野幌丘陵西側の札幌東部〜当別地域は向斜が推定され、顕著な低重力異常を示し、沈降域になっている(岡,2004など)。本地域では鮮新―更新世の地層が1,500m以上の厚さで堆積している。

(3)石狩―天塩帯

 馬追丘陵付近から樺戸山地の東側をとおり、留萌(るもい)、天塩平野、稚内(わっかない)とその沿岸海域に発達する構造盆地である。南方海域は日高舟状海盆につづく。
 本地域に分布する中期中新世の地層は、タービダイト相の堆積岩類であり、南北方向に狭長なトラフ状堆積盆に堆積した地層である(保柳ほか,1986)。後期中新世以降は、千島弧の西進による圧縮テクトニクス場にあり、構造盆地を埋積する地層が堆積した。
 鮮新―前期更新世の地層は、馬追丘陵から西側にのみ分布することから、馬追丘陵西縁に分布する石狩低地東縁断層帯の活動により、鮮新世以降、馬追丘陵から東側は陸域に転化したと考えられている(岡,1994)。日高山脈西部では、後期白亜紀〜古第三紀の堆積岩類が分布しており、西側ほど新しい地層が分布している。

(4)中央低地帯

 北見山地の西部には、富良野(ふらの)、上川、剣淵、頓別などの小規模な盆地がつらなる。これらは後期中新世以降の圧縮テクトニクスにより形成された構造盆地である。

(5)十勝平野

 日高山脈と白糠(しらぬか)丘陵に挟まれた地域であり、十勝沖堆積盆につづく。十勝平野は十勝中央部断層により、東西に2分される(岡,1994)。十勝中央部断層は豊(とよ)頃(ころ)丘陵西縁から十勝川温泉西方、芽登(めと)温泉付近をとおり、その西側は沈降部、東側は隆起部になっている。西側により新期の地層が分布し、東急西緩の構造を示す。豊頃丘陵はドーム構造を示し、隆起部になっている。

(6)根釧原野

 千島弧外帯と内帯の境界付近に東北東―西南西にのびる構造盆地が発達している。その南縁は釧路―根室先新第三系隆起帯をなす。

(7)その他

 斜里平野や網走に構造盆地が発達する。

 3.2.3 石狩低地の地質

 表3.2-1に石狩低地周辺地域の地質構成を示す。
 石狩低地は苫小牧と野幌丘陵、樺戸山地東部を結ぶ隆起帯(北上―石狩―礼文隆起帯、図3.2-4)を境として、西側の札幌〜胆振(いぶり)地域と石狩低地東部〜日高地域に区分される。
 札幌〜胆振地域は東北日本弧の特徴を示す。基盤岩類は隈根尻層群と花崗岩類からなり、定山渓層のグリーンタフが分布している。古第三系と上部白亜系はほとんど分布していない。石油公団(1996)の基礎物理探査「胆振沖浅海域」によると、苫小牧リッジの西方にも古第三系の分布が推定されているが、これは局地的なものであり、苫小牧リッジから西方には上部白亜系と古第三系はほとんど分布していない。
 石狩低地東部〜日高地域の基盤岩類は、空知層群、神居古潭帯変成岩類、日高帯の変成岩類などからなる。日高山脈西部の神居古潭帯はクリッペと考えられている(図3.2-5)。本地域は蝦夷層群、函淵層群、石狩層群などの上部白亜系〜古第三系が分布することで特徴づけられる。古第三系の南長沼層と幌内層・石狩層群には広域に及ぶ不整合が認められる(栗田ほか,2000大澤ほか,2002)。また、新第三紀〜前期更新世の地層が厚く堆積している。前期〜中期中新世の滝の上層とされていた地層は、基礎試錐「馬追」(石油公団,1998)の成果により、その中・下部が古第三紀漸新世の南長沼層であることが明らかになった(栗田ほか,2000)。基礎試錐「馬追」より以前に行われた基礎試錐は、新しい見解で層序を修正した。


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