2.地震動予測地図作成の概略

 地震調査委員会では、高山・大原(たかやま・おっぱら)断層帯について、その位置および形態、過去や将来の活動等に関する評価結果を「高山・大原断層帯の評価」(地震調査委員会,2003a;以下「長期評価」という)としてまとめ、公表している。今回、この報告を踏まえ、強震動評価を行った。なお、以下の市町村名等は2004年9月時点のものを用いている。

2.1 想定する震源断層

 高山・大原断層帯は、岐阜県北部の高山市、およびその周辺市町村に分布する断層帯で、ほぼ北東−南西方向に並走する多数の断層からなる。これらの断層のうち、高山市から郡上(ぐじょう)市に至る長さ約48kmの高山断層帯、吉城(よしき)郡国府(こくふ)町から大野郡荘川(しょうかわ)村に至る長さ約27kmの国府断層帯、および大野郡高根村から下呂市に至る長さ約24kmの猪之鼻(いのはな)断層帯について長期評価がなされている。これらの断層帯はいずれも右横ずれが卓越する複数の断層からなっており、それぞれの断層帯が1つの区間として活動する可能性がある。今後30年以内の地震発生確率は、高山断層帯で0.7%、国府断層帯でほぼ0−5%であり、国府断層帯は、その最大値をとると、今後30年間に地震が発生する可能性が我が国の主な活断層の中では高いグループに属することになる。猪之鼻断層帯については、将来の地震発生の可能性は不明とされている。
 本検討では、「長期評価」に基づき、3つの断層帯を個別に扱うこととし、各断層帯の震源断層位置を図2.1のように設定した。そして、震源断層の面積が最も大きい高山断層帯について3ケース、国府断層帯と猪之鼻断層帯について、それぞれ1ケースの合計5ケースの震源断層モデルを想定した。各ケースにおける震源断層の形状、アスペリティおよび破壊開始点の位置を図2.2に示す。高山断層帯については、震源断層の面積が比較的大きいため、アスペリティを2つとし、「長期評価」により平均的なずれの速度が比較的大きいと推測された断層帯北東端部に大きいアスペリティを、断層帯中央部に小さいアスペリティを配置した。破壊開始点は、断層帯北東端部のアスペリティの北東下端と中央部のアスペリティの南西下端の2ケース(CASE1、CASE2)とした。さらに、同断層帯については、断層帯の近傍にあり「詳細法」による強震動評価範囲内で人口が最も多い高山市に対する影響が大きくなる可能性があるケースとして、断層帯南西端部に大きいアスペリティを、中央部に小さいアスペリティを配置し、破壊開始点を南西端部のアスペリティの南西下端としたケース(CASE3)も想定した。国府断層帯については、震源断層の面積が比較的小さいため、アスペリティを1つとし、「長期評価」による平均的なずれの速度が比較的大きいと推測された断層帯中央部に配置した。破壊開始点はアスペリティの中央下端とした。猪之鼻断層帯については、震源断層の面積が比較的小さく、平均的なずれの速度等の情報に乏しいことから、平均的なケースとして、1つのアスペリティを断層帯中央部に配置し、破壊開始点をアスペリティの中央下端とした。震源断層パラメータの一覧を表2.1に示す。
 まず、簡便法による地震動予測地図作成領域は3つの断層帯のほぼ中心部に位置する高山断層帯を中心に、北緯35.58度〜36.66度まで、東経136.5度〜138.1度の領域である。図2.3に巨視的モデルの設定位置と簡便法による地震動予測地図作成領域を示す。
 この領域における簡便法による地震動評価を行う計算地点は国土数値情報の3次メッシュに対応している。
 一方、詳細法による地震動予測地図作成領域は、3つの断層帯を包括する矩形領域である。領域の4隅の座標値は、

北西端: 北緯37.100° 東経138.056°
北東端: 北緯37.100° 東経136.500°
南東端: 北緯36.083° 東経136.500°
南西端: 北緯36.083° 東経138.056°

となっている(本検討では改正測量法以降の日本測地系2000を用いている)。この領域は簡便法による地震動の事前評価を行った後に、概ね震度5強よりも強い地震動が予測される領域を想定して設定されたものである。
 この領域における詳細法による地震動評価を行う計算地点は矩形の計算領域を1km間隔にグリッド分割した点である。具体的には、縦X方向(南北方向)120グリッド、横(東西方向)140グリッドに分割した各点において地震動評価を行った。上述のように詳細法では、工学的基盤で時刻歴波形が1kmグリッド、120×140=16800点で得られるが、本検討でそれらの波形を全て表示することは出来ない。6章では、「詳細法工学的基盤」上において計算された波形のうち、高山市役所(岐阜県)・白川村役場(岐阜県)・上宝村役場(岐阜県)・郡上市役所(岐阜県)・下呂市役所(岐阜県)・安曇村役場(長野県)のそれぞれに最も近い6評価地点について、時刻歴波形、および減衰定数5%の擬似速度応答スペクトルを例として示すこととした。
 これら6地点の位置を図2.4に示す。これらの観測点は高山・大原断層帯を取り巻くように配置している。

2.2 強震動評価の流れ

 高山・大原断層帯の地震を想定した強震動評価全体の流れを以下に示す。図2.5には作業内容をフローチャートにして示す。

  1. 「高山・大原断層帯の評価」(地震調査委員会,2003a;以下、「長期評価」という)で示されたそれぞれの断層帯(高山断層帯、国府断層帯、猪之鼻断層帯)の位置図を参考にして、想定する震源断層モデルの位置・規模(長さ・幅)を設定した。高山断層帯については、震源断層の面積が大きいことより、大小2つのアスペリティを想定し、アスペリティの配置や破壊開始点を変えた3通りの震源断層モデルを設定した。
  2. 1. の巨視的震源特性等から微視的震源特性を評価して特性化震源モデルを設定した。
  3. 高山・大原断層帯周辺の「深い地盤構造」に対する三次元地下構造モデルを既存の物理探査結果、ボーリング調査の結果等より評価した。「浅い地盤構造」は国土数値情報(国土地理院,1987)を基に作成した。
  4. 2. で作成された特性化震源モデル、3. で作成された三次元地下構造モデルを基に震源断層周辺の領域において、約1 のメッシュごとに「詳細法」(ハイブリッド合成法:6.3章参照)を用いて強震動評価を行った。
  5. 平均的な地震動分布を評価するため、「簡便法」(6.1章参照)による強震動評価も行った。

 次章以降、上記の評価作業内容について説明するが、強震動評価の構成要素である「震源特性」、「地下構造モデル」、「強震動計算方法」、「予測結果の検証」の考え方については、「活断層で発生する地震の強震動評価のレシピ」(以下、「レシピ」という)に基づいたものであり、その内容と重複する事項についてはここでは簡単に記述した。


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