6.おわりに

 本検討では、全国を対象とした確率論的地震動予測地図を作成するための評価手法、評価条件、ならびに評価結果を取りまとめた。これにより、全国を対象とした確率論的地震動予測地図は初版としての完成を見たことになる。
 ここには、これまでの検討(山梨県を中心とした地域(研究資料236号)、北日本(同246号)、西日本(同257号))を通じて明らかとなった短期的な課題のいくつかについて検討した結果が反映されている。一方で、これまでの試作版で中長期の課題として挙げられていたものについては、次回以降の大幅な更新の際に取り込むことを目指して今後も継続的に手法の検討を積み重ねていく必要がある。
 今後の技術的な検討課題としては、以下のものが挙げられる。

(1)地震活動のモデル化に関わる課題

  • 主要98断層帯の中には、評価された断層の諸元や地震発生確率の信頼度が低いものが含まれることから、継続的な調査結果に基づき、種々の不確定性の低減を図る必要がある。
  • 主要98断層帯に発生する固有地震以外の地震は、個別のモデル化の対象外とし、陸域で発生する地震のうち活断層が特定されていない場所で発生する地震に含めて評価したが、そのモデル化の可能性と具体的な手法について検討する必要がある。
  • 海溝型地震の連動については、南海〜東南海〜想定東海地震や宮城県沖とその沖合いの領域などを対象にモデル化したが、時間の経過に伴う連動確率の変化や領域間の相互作用を取り入れたモデルの高度化について検討する必要がある。
  • 近畿地方や関東周辺では、海溝型の大地震の発生前後に地震の活動度が高くなる傾向が指摘されていることから、海溝型地震と内陸の地震の活動性の相互作用について検討する必要がある。
  • 陸域で発生する地震のうち活断層が特定されていない場所で発生する地震のモデル化に際して、活断層の分布を考慮したモデルをはじめとする新たなモデル化の可能性について検討する必要がある。
  • 地震カタログに含まれる前震・余震の適切な除去方法、あるいは前震・余震系列を考慮したモデル化について検討する必要がある。

(2)地震動の評価に関わる課題

  • 距離減衰式を用いた地震動評価を行う場合に用いるべきばらつきの値とその表現方法について、検討する必要がある。
  • 詳細法を用いた地震動評価結果を取り入れるための方法について検討する必要がある。
  • 工学分野からは、現在用いられている最大速度や計測震度以外の地震動指標(例えば最大加速度や応答スペクトル)による地震動予測地図の作成に対する要望がある。そのためには、これらの地震動指標の予測モデル(距離減衰式)の作成が必要である。
  • 表層地盤による地震動の増幅率は、国土数値情報の表層地質に基づいて設定しており、地震動の強さによらず一定値としているが、堆積地盤等における強震時の非線形化の影響の考慮の方法について検討する必要がある。さらに、国土に占める面積の割合が大きい山地部など硬質地盤地域における増幅率についても再検討が必要である。
  • 表層地盤および深部地下構造の影響をより詳細に反映させた地震動の増幅特性の評価方法を検討する必要がある。このためには、1995年兵庫県南部地震以後に構築されたK-NET, KiK-netをはじめとする密な強震観測網のデータの活用も不可欠である。

(3)地震動予測地図の融合に関わる課題

  • シナリオ地震に対する詳細法による強震動予測の結果を確率論的地震動予測地図に取り込む方法論について検討する必要がある。
  • 現在は影響度を用いて特定地点の地震ハザードとシナリオ地震とを関連付けているが、更なる実用化に向けて、確率論的地震ハザード評価に基づくシナリオ地震の設定方法の体系化について検討する必要がある。また、確率論的地震動予測地図の工学利用を発展・高度化させるためには、地震ハザード評価に基づく地震動波形の作成方法の体系化について検討する必要がある。
  • これまでに作成された確率論的地震動予測地図とシナリオ地震地図の結果を集積・格納し、これらのインタラクティブな利用を可能とするのみならず、地震動評価や地震ハザード評価を支援する機能を有する「地震ハザードステーション」の構想の実現に向けて取り組む必要がある。

(4)その他の課題

  • これまでは「最もありえると考えられるケース」を採用することで対応しているモデル化不確定性(認識論的不確定性)の取り扱いと、それを考慮した場合の結果の表現方法について検討する必要がある。

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