2.5 地震活動のモデル(3) −主要98断層帯以外の活断層に発生する地震*

(1)基本方針

 松田・他(2000)の起震断層の基準に当てはまる断層のうち、主要98断層帯以外のものを対象として抽出する。主要98断層帯の長期評価において考慮した断層で基盤的調査観測の基準に達しないため評価が行われなかった断層についても、起震断層の基準に当てはまるものはこの地震分類の中でモデル化を行う。

(2)起震断層の抽出プロセス

  • 「新編日本の活断層」(活断層研究会編, 1991)および「活断層詳細デジタルマップ」(中田・今泉編, 2002)をデータベースとして、そこから以下の松田・他(2000)の基準で全長10km以上の起震断層を抽出する。断層の端点と断層長は両データベースにおいて改めて読み直した。
    • - 周辺5km以内に他の活断層線のない孤立した長さ10km以上の断層
    • - 互いの相互間隔が5km以内であるほぼ同じ走向の断層群
    • - 断層線の中点の位置が主断層線から5km以上離れている走向を異にする断層
  • 「新編日本の活断層」における確実度Vの断層は以下のように取り扱う。
    • - 起震断層の端に、確実度Vの断層が5km以短で続く場合には、これを起震断層の長さに含める。
    • - 起震断層の途中に、確実度Vの断層が5km以短で含まれて確実度U以上の断層線をつなぐ場合には、これを起震断層の長さに含める。
    • - 5kmより長い確実度Vの断層線は除外する。
  • 「活断層詳細デジタルマップ」における推定活断層は、起震断層の抽出対象に取り入れる。デジタルマップにおいては起震断層の抽出対象とされていないが、主要98断層帯の長期評価では推定活断層も対象として抽出されていることから、整合性を図るために起震断層の抽出対象とする。
  • 両データベースに共通な起震断層については、断層長が長い方を採用する。片方のデータベースにしか記載されていない起震断層については、そのパラメータをそのまま採用する。

(3)地震発生確率の設定

 「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査委員会, 2001a)の方法に従い、平均的な活動間隔からポアソン過程に基づいて発生確率を算定する。
 確率算定のための平均活動間隔 (年)は、平均変位速度 (mm/年)と1回の活動に伴う断層の変位量 (m)から

(2.5-1)

で求められるが、 (マグニチュード)と 、及び と断層長さ (km)との以下の関係(松田, 1975)

(2.5-2)
(2.5-3)

を用いて以下のように長さと平均変位速度から推定した。

(2.5-4)

平均変位速度が不明の活断層については「新編日本の活断層」における活動度に応じた平均変位速度を仮定する。なお、長さが短く活動度が高い活断層では、今回の方法で算定される平均活動間隔が数100年から1,000年未満となる。このような活断層に対する活動間隔の評価方法は今後の検討課題であるが、ここでは、非現実的な活動間隔になることを避けるために、平均変位速度の数値の記載がなく活動度がA級、A-B級とされる活断層については、それぞれ下記の平均変位速度を与えることにした。これらの数値は主要98断層帯で用いたものとは異なることに注意が必要である。

A級 :1 mm/y (A級の下限値)
A-B級 :0.5 mm/y (A級の半値)
B級 :0.25 mm/y (奥村・石川, 1998)
B-C級 :0.1 mm/y (B級とC級の境界値)
C級 :0.047 mm/y   (奥村・石川, 1998)

なお、活動度が不明の場合にはC級未満と考え、上記C級の平均変位速度の半分として、0.024 mm/yを仮定する。また、活動度がB級未満、C級未満と表記されている場合には、それぞれB-C級およびC級未満の平均変位速度として、0.1mm/yおよび0.024mm/yを仮定する。

(4)マグニチュードの設定

 活断層で発生する地震のマグニチュードは、(2.5-2)式に従い、断層長から求める。

(5)断層面の諸元の設定

 個々の活断層の断層面は、1枚もしくは複数枚の矩形面でモデル化する。モデルを規定するパラメータは、端部の位置、長さ、幅、走向、傾斜角、上端深さである。このうち、傾斜角は全ての断層について90度(鉛直面)と設定する。上端深さは地震動評価の観点からの研究(伊藤, 1997)を参考に3kmと設定する。幅については、断層長さ15kmまでは長さに同じとしている。それ以上の長さの活断層に対しては、地震発生層を深さ3〜18kmと想定して、幅15kmとした。

(6)活動区間

 個々の活断層の全区間が同時に活動すると考える。

(7)モデル化した活断層の諸元

 確率論的地震動予測地図の作成に用いる主要98断層帯以外の活断層の諸元を表2.5-1、活断層の位置を主要98断層帯に重ねた地図を図2.5-1に示す。断層数は178である。


* 主要98断層帯以外の活断層に発生する地震のモデル化の作業は、地震調査研究推進本部の事務局で実施されたものである。防災科学技術研究所はその成果の提供を受けて、確率論的地震動予測地図の作成に用いた。

2.5の参考文献

  • 地震調査委員会(2001):長期的な地震発生確率の評価手法について,平成13年6月8日.
  • 活断層研究会編(1991):[新編] 日本の活断層?分布図と資料, 東京大学出版会.
  • 松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について, 地震第2 輯, 第28 巻, pp.269-283.
  • 松田時彦・塚崎朋美・萩谷まり(2000):日本陸域の主な起震断層と地震の表−断層と地震の地方別分布関係−, 活断層研究, Vol.19, pp.33-54.
  • 中田高・今泉俊文編(2002):活断層詳細デジタルマップ, 東京大学出版会.
  • 奥村俊彦・石川裕(1998):活断層の活動度から推定される平均変位速度に関する検討,土木学会第53回年次学術講演会講演概要集,第I部(B),pp.554-555.

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