2.4 地震活動のモデル(2) −海溝型地震−

 海溝型地震の長期評価では、複数の領域ごとに評価結果が示されているため、次の順序でモデル化の概要について記す。

  1. 南海トラフの地震(地震調査委員会,2001b)
  2. 宮城県沖地震(地震調査委員会,2000)および三陸沖から房総沖にかけての地震(地震調査委員会,2002)
  3. 千島海溝沿いの地震(地震調査委員会,2003a、同,2004d)
  4. 日本海東縁部の地震(地震調査委員会,2003c)
  5. 日向灘および南西諸島海溝周辺の地震(地震調査委員会,2004a)
  6. 相模トラフ沿いの地震(地震調査委員会,2004c)

 表2.4-1にモデル化した各地震のマグニチュードと地震発生確率(2005年1月から30年および50年)をまとめて示す。
 地震発生確率の算定において、平均発生間隔あるいは発生間隔のばらつきαが幅をもって示されている場合には、各パラメータの中央の値を用いる。平均発生間隔が片側の幅(○○年以上)で与えられている場合には、○○年を用いて地震の発生確率を算定する。
 マグニチュードが○○前後あるいは○○程度と記されている場合には、すべてそのマグニチュードの地震であると仮定する。また、マグニチュードが幅をもって示されている場合には、0.1刻みで =0.9のグーテンベルク・リヒター式にフィッティングするように発生確率を付与する。
 地震動強さの評価では、特別の注記がないものについてはいずれの地震も = と仮定する。

2.4.1 南海トラフの地震

 南海トラフの地震としては、南海地震、東南海地震、想定東海地震についてモデル化する。そのモデル化にあたっては、「南海トラフの地震の長期評価」(地震調査委員会,2001b)ならびに「中央防災会議・東海地震に関する専門調査会報告」(中央防災会議・東海地震に関する専門調査会,2001)を参照した。
 ここでは、図2.4-1に示した各領域を震源域とする地震を次のように呼ぶ。また、過去の地震と震源域との対応を表2.4-2に示す。

・南海地震 : 足摺岬の沖合〜潮岬の沖合(領域X)
・東南海地震 : 潮岬の沖合〜浜名湖の沖合(領域Y)
・想定東海地震 : 浜名湖の沖合〜駿河湾(領域Z)

 南海〜東南海〜想定東海地震の地震活動のモデル化に際しては、表2.4-2に示した過去の地震活動ならびに想定東海地震が安政東海地震の震源域の割れ残りと考えられていることを踏まえて、次の仮定をおく。

南海地震、東南海地震、想定東海地震は経時的にそれぞれ独立に別個の更新過程に従って発生すると仮定する。ただし、対象とする期間に複数の地震がともに発生する場合には、予め定められた確率でそれらの地震が連動(同時発生)する。

 各地震の発生確率を算定するためのパラメータは長期評価に基づき表2.4-3のように設定する。なお、想定東海地震の前回の活動は1854年安政東海地震と仮定している。

 以上の条件で、西暦2005年1月から30年間、50年間の各地震の発生確率は表2.4-4のようになる。(注:各地震ともに50年以内に2回発生する確率は考慮しない。)

 一方、震源域については各地震が単独に発生するか、あるいは複数の地震が連動して発生すると仮定する。各地震の震源域はそれぞれの領域内で予め設定されたモデルとし、モデルの一部が震源域となる場合は想定しない。
 図2.4-2にモデル化された各地震の震源域を示す。南海地震と東南海地震の震源域は長期評価、また想定東海地震の震源域は中央防災会議の東海地震に関する専門調査会の報告に基づいている。

 複数の地震が連動して発生する確率は、可能性がある事象がすべて等確率で発生するという前提条件の下に定める。具体的には次のようになる。

  • 南海地震と東南海地震がともに発生し、想定東海地震が発生しない場合
     南海、東南海がそれぞれ単独で発生する確率 : 1/2(50%)
     南海〜東南海の連動の確率 : 1/2(50%)
  • 東南海地震と想定東海地震がともに発生し、南海地震が発生しない場合
     東南海、想定東海がそれぞれ単独で発生する確率: 1/2(50%)
     東南海〜想定東海の連動の確率 : 1/2(50%)
  • 3つの地震がすべて発生する場合
    各地震がそれぞれ単独で発生する確率 : 1/4(25%)
     南海〜東南海の連動の確率 : 1/4(25%)
     東南海〜想定東海の連動の確率 : 1/4(25%)
     南海〜東南海〜想定東海の連動の確率 : 1/4(25%)

 また、各地震および複数の地震が連動した場合のマグニチュードは表2.4-5のように仮定する。

 以上の条件の下で、南海〜東南海〜想定東海地震の発生パターンは表2.4-6に示す13ケースとなる。また、2005年より30年あるいは50年間に各ケースが生起する確率も同表のようになる。
 表2.4-6の各ケースは排反かつすべての場合を尽くしているので、地震ハザードの計算は各ケースの生起確率と当該ケースに対する地震動強さの超過確率を下記13ケースについて積和することにより求められる。

 駿河トラフから南海トラフに沿った海域では、1944年東南海地震、1946年南海地震で破壊されずに残った領域として、想定東海地震がいつ起きてもおかしくないとされている。この海域では過去100〜150年間隔で繰り返し大地震が発生しているが、想定東海地震の領域が単独で破壊したケースは今回のモデル化で考慮した歴史地震の発生パターンには見られない。その意味では過去の事例に基づいて長期的な地震発生の確率評価を行うことに困難があることは否めない。
 本来、将来発生する地震に関して、近接した領域との相互作用等も考慮した上で、発生事象の時系列をモデル化して発生確率を評価するのが望ましい。しかしながら、地震発生領域間の連動や発生時系列等のメカニズムは未解明な部分が多く、これらの物理を考慮して地震発生確率を定量的に評価することは、現状では困難である。
 現在、想定東海地震に関しては、昭和53年(1978年)に施行された「大規模地震対策特別措置法」に基づいて長期にわたって観測研究が続けられている。また、東南海・南海地震についても、「東南海・南海地震を対象とした調査観測の強化に関する計画(第一次報告)」(政策委員会調査観測計画部会,2003)に基づいて、長期的な地震発生時期や連動のメカニズム等に関する調査観測が計画されている。これらの調査・観測研究の成果および割れ残りや連動あるいは時間差発生に関する理論の発展によって、より適切な地震活動のモデル化が可能になれば、それに基づいて当該領域の地震発生確率を再検討する必要がある。
 また、仮に想定東海地震が発生せずに推移した場合には、当該地震の領域は次の東南海地震発生の際に同時に破壊する可能性も出てくるが、この点については、適当な時期(10年程度後)に地震発生確率や発生パターン等を再検討する必要がある。

2.4.2 宮城県沖地震および三陸沖から房総沖にかけての地震

 宮城県沖地震(地震調査委員会,2000)および三陸沖から房総沖にかけての地震(地震調査委員会,2002)の評価対象領域を図2.4-3に示す。
 以下、これらの領域で発生する海溝型地震のモデル化の概要について示す。

 モデル化に際しては次の方針を設定した。

  • 宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震(図2.4-3のアとオ)については、両地震が連動して発生する可能性を考慮してモデル化する。
  • 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震:図2.4-3のウ)のマグニチュードについては、1896年の明治三陸地震の宇佐美(1996, 新編日本被害地震総覧)によるマグニチュードを参照してMw6.8とする。
  • 三陸沖中部の地震(図2.4-3のエ)についてはマグニチュードが7クラス以上の地震は想定されていないため、海溝型地震としてはモデル化しない(震源が予め特定しにくい地震としてはモデル化する)。
  • 福島県沖の地震(図2.4-3のカ)に関しては、短期間に複数の地震が続発することが想定されているが、地震発生時系列としては平均発生間隔が400年のポアソン過程とし、続発の影響は地震動強さの超過確率の評価において、同じ断層面で3回地震が発生すると仮定することにより考慮する。
  • 震源域の場所に関して、宮城県沖地震(図2.4-3のア)、三陸沖南部海溝寄りの地震(図2.4-3のオ)、三陸沖北部のプレート間大地震(図2.4-3のイ)については固有の断層面を設定するが、それ以外の地震に関しては提案されている領域内にプレート境界に沿って複数の断層面を置き、それぞれが等確率で起こると仮定する。ただし、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)については傾斜角45°、上端深さ0kmの正断層としてモデル化する。なお、図2.4-3の領域イ、カ、キの西端はUmino, et al. (1990)に基づいて設定する。

 以下、各地震の活動モデルの諸元について示す。

(1)宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震

 「宮城県沖地震の長期評価」(地震調査委員会,2000)ならびに「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(地震調査委員会,2002)によれば、宮城県沖地震ならびに三陸沖南部海溝寄りの地震の過去の活動として図2.4-4のものが示されている。

 宮城県沖地震に関しては、過去6回の活動のうち1回三陸沖南部海溝寄りの地震と連動して発生している。また、三陸沖南部海溝寄りの地震に関しては、過去2回の活動のうち1回が宮城県沖地震と連動して発生している。
 このようなデータに基づいて、上記の長期評価の報告書では両地震の活動間隔に関する諸元として表2.4-7の値が示されている。

 この諸元に基づいて、活動間隔がBPT分布の更新過程を適用して2005年1月より将来30年および50年間での地震発生確率を求めると表2.4-8のようになる。なお、宮城県沖地震に関しては平均発生間隔が短いために、将来の30年および50年間を対象とした確率論的地震ハザード評価では地震が2回発生する確率も無視できないので、それを考慮した評価(石川・他,2002)を行っている。

 一方、両地震の長期評価では、次の宮城県沖地震と三陸沖南部海溝寄りの地震が、それぞれ単独で発生するのか、両者が連動して発生するのかについては現状では判断できないとしている。

 また、「次の宮城県沖地震の震源断層の形状評価について」(地震調査委員会長期評価部会,2002)および「宮城県沖地震を想定した強震動評価について」(地震調査委員会,2003b)では、宮城県沖地震の発生が「単独の場合」の震源域として図2.4-5に示す領域A1とA2を、「連動した場合」としてA1、A2の領域およびBの領域が震源域となるケースを想定している。

 以上のデータを踏まえて、連動を考慮した宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震のモデル化を行う。

 ここでは、三陸沖南部海溝寄りの地震が過去に発生した2回のうちの1回宮城県沖地震と連動したという事実に基づき、両地震が連動して発生する条件として次の仮定を設けた。

 対象とする将来の期間(30年または50年)に宮城県沖地震と三陸沖南部海溝寄りの地震がともに発生する場合に50%の確率(2回に1回)で両地震が連動する。

 各地震の震源域とマグニチュードは、「次の宮城県沖地震の震源断層の形状評価について」(地震調査委員会長期評価部会,2002)および「宮城県沖地震を想定した強震動評価について」(地震調査委員会,2003b)に従い、それぞれ次のようにモデル化する。
 宮城県沖地震の発生が「単独の場合」には、図2.4-5のA1とA2のいずれかの震源域で発生するとし、それぞれの震源域で発生する確率は等しい(ともに50%)と仮定する。マグニチュードはA1単独の場合には =7.6、A2単独の場合には =7.4とする。
 三陸沖南部海溝寄りの地震が単独で発生する場合には、図2.4-5のBの震源域で発生すると仮定する。マグニチュードは設定された断層面の面積から、断層面積とマグニチュードの関係式を介して =7.8とする。
 また、宮城県沖地震と三陸沖南部海溝寄りの地震が連動して発生する場合の震源域は、図2.4-5のA1+B、A2+B、A1+A2+Bの3つのケースを想定する。これらのケースはそれぞれ等確率(確率1/3)で生じると仮定する。マグニチュードはそれぞれの断層面積を参考にA1+Bの場合は =7.9、A2+Bの場合は =7.9、A1+A2+Bの場合は =8.0とする。

 以上の条件下で、宮城県沖地震および三陸沖南部海溝寄りの地震の発生パターンは、宮城県沖地震の発生回数、連動の有無、各地震の震源域の違い、を組合せて表2.4-9に示す21ケースとなる。将来30年あるいは50年間での各ケースの生起確率は、各地震の発生確率(表2.4-8)と上記の仮定に基づく連動確率および震源域の生起確率を用いて、表2.4-9のようになる。
 なお、表2.4-9のケースはそれぞれ排反かつすべての場合を尽くしているので、地震ハザードの計算は各ケースの生起確率と当該ケースに対する地震動強さの超過確率を上記全ケースについて積和することにより求められる。
 また、地震ハザード評価結果に及ぼす各地震の影響度(貢献度)は両地震を併せた値として示されることになる。

(2)三陸沖北部のプレート間大地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-10に示す。また、断層面の位置を図2.4-6に示す。断層面は強震動評価(地震調査委員会,2004b)で用いられたものを踏襲している。

(3)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)

 地震活動モデルの諸元を表2.4-11に示す。マグニチュードについては1896年の明治三陸地震の宇佐美 (1996) によるマグニチュードを参照して =6.8とした。

 震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内にプレート境界に沿って長さ200km、幅50kmの矩形の断層面を南北7列×東西2列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.4-7に示す。

(4)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)

 地震活動モデルの諸元を表2.4-12に示す。

 震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内に長さ200km、幅100km、傾斜角45°、上端深さ0kmの矩形の断層面を南北に7列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.4-8に示す。

(5)三陸沖北部の固有地震以外のプレート間地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-13に示す。マグニチュードに関して、 =7.1〜7.6とされているが、ここでは =7.1〜7.6(0.1刻み)の地震が =0.9のグーテンベルク・リヒター式にフィッティングするようにそれぞれ次の割合(相対確率)で発生すると仮定した。

7.1:26.3%、 7.2:21.4%、 7.3:17.4%、
7.4:14.1%、 7.5:11.5%、 7.6:9.3%

 震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは が7.1〜7.3の地震に関しては領域内にプレート境界に沿って長さ40km、幅40kmの矩形の断層面を南北9×東西6列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。また、 が7.4〜7.6の地震に関しては領域内にプレート境界に沿って長さ60km、幅60kmの矩形の断層面を南北7×東西4列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。各断層面の位置を図2.4-9に示す。

(6)福島県沖のプレート間地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-14に示す。長期評価では、平均発生間隔が400年以上とされているが、ここでは400年と仮定した。また、複数の大地震が2日程度の間に続発した例があり、次の地震についても短期間に複数の地震が続発することが想定されているが、時系列としては一つのイベントとして扱う。続発の影響は地震動強さの超過確率の評価において、同じ断層面で3回地震が発生すると仮定することにより考慮する。

  震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内にプレート境界に沿って長さ50km、幅50kmの矩形の断層面を南北3×東西5列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.4-10に示す。

(7)茨城県沖のプレート間地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-15に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内にプレート境界に沿って長さ25km、幅25kmの矩形の断層面を南北9×東西7列並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。その位置を図2.4-11に示す。

2.4.3 千島海溝沿いの地震

 千島海溝沿いの海溝型地震の地震活動に関しては、2003年3月に「千島海溝沿いの地震活動の長期評価について」(地震調査委員会,2003a)が公表された。その後、2003年9月26日に十勝沖地震(M8.0)、また2004年11月29日に釧路沖の地震( 7.1)が発生したことを踏まえて、その後の調査研究成果も含めて、2004年12月に「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第二版)について」(地震調査委員会,2004d)が公表されている。
 千島海溝沿いの海溝型地震の評価対象領域を図2.4-12に示す。ここでは上記の長期評価結果に基づき、地震を次のように分類した。

(1)プレート間地震( 8クラスと 7クラス)

  • 8クラスのプレート間地震:
    十勝沖の地震、根室沖の地震、色丹島沖の地震、択捉島沖の地震(十勝沖の地震と根室沖の地震については連動して発生する場合を含む)
  • ひとまわり小さいプレート間地震:
    十勝沖・根室沖と色丹島沖・択捉島沖

(2)プレート内地震

  • 沈みこんだプレート内のやや浅い地震(深さ50km程度、 8程度)
  • 沈みこんだプレート内のやや深い地震(深さ100km程度、 7.5程度)

 モデル化に際しては次の方針を設定した。

  • 8クラスのプレート間地震」は、図2.4-12の4つの領域においてそれぞれ固有の断層面で固有規模の地震が発生すると仮定する。ただし、十勝沖の地震と根室沖の地震は、それぞれ単独で発生する場合に加えて、これら2つの地震が連動して発生する場合も考慮する。連動する確率は「対象とする期間(30年または50年)に両地震がともに発生する場合に16.7%の確率(6回に1回)で連動する」と仮定する。なお、この確率(6回に1回)は、「 8クラスのプレート間地震」の平均発生間隔(72.2年)と両地震が連動する場合のおおよその平均発生間隔(400〜500年程度)から定めた。
  • 震源域の場所に関して、「 8クラスのプレート間地震」については固有の断層面を設定するが、「ひとまわり小さいプレート間地震」と「沈みこんだプレート内のやや浅い地震」、「沈みこんだプレート内のやや深い地震」に関しては提案されている領域内に複数の断層面を置き、それぞれが等確率で起こると仮定する。なお、「ひとまわり小さいプレート間地震」が発生する領域はいずれもプレート上面の深さが20〜60kmの範囲とする。また、「沈みこんだプレート内のやや浅い地震」については1994年北海道東方沖地震の断層面を、「沈みこんだプレート内のやや深い地震」については1993年釧路沖地震の断層面を参考とする。

 以下、各地震の活動モデルの諸元について示す。

(1)十勝沖の地震・根室沖の地震

  8クラスのプレート間地震のうち、十勝沖の地震と根室沖の地震については、それぞれが単独で発生する場合と、両地震が連動して発生する場合の両方を考える。その際、両地震が連動する確率は次のように仮定する。

対象とする期間(30年または50年)に両地震がともに発生する場合に16.7%の確率(6回に1回)で連動する。

 ここで、この連動の確率(6回に1回)は、 8クラスのプレート間地震の平均発生間隔(72.2年)と両地震が連動する場合のおおよその平均発生間隔(400〜500年程度)から定めた。
 表2.4-16に両地震の発生確率について示す。根室沖の地震については期間50年の場合には2回発生する確率はほぼ0%とはならない。上記を仮定した場合のこれら3つの地震(十勝沖の地震単独、根室沖の地震単独、両者連動)の発生パターンは表2.4-17に示す8ケースとなる。各ケースの生起確率を併せて表2.4-17に示す。
 断層面の位置については、それぞれ単独で発生する場合、および連動して発生する場合のそれぞれにおいて、固有の断層面を設定する。連動して発生する場合のマグニチュードについては、十勝沖・根室沖の地震の長期評価における連動の場合の地震規模( 8.3)をそのまま用いる。
 これらの地震のマグニチュードを表2.4-18に、断層面の位置を図2.4-13および図2.4-14に示す。

(2)色丹島沖の地震・択捉島沖の地震

  8クラスのプレート間地震のうち、色丹島沖の地震と択捉島沖の地震に関しては、長期評価の結果にしたがってモデル化する。その地震活動モデルの諸元を表2.4-19および表2.4-20に示す。また、断層面の位置を図2.4-15に示す。

(3)ひとまわり小さいプレート間地震

 ひとまわり小さいプレート間地震に関しては、長期評価結果に従い、十勝沖・根室沖と色丹島沖・択捉島沖に分けてモデル化する。十勝沖・根室沖のひとまわり小さいプレート間地震の活動モデルの諸元を表2.4-21に、色丹島沖・択捉島沖のひとまわり小さいプレート間地震の活動モデルの諸元を表2.4-22に示す。

 震源域の位置について、長期評価では各領域の「どこかで発生する」とされているが、ここではそれぞれの領域内でプレート上面の深さが20〜60kmの範囲にプレート境界に沿って長さ35km、幅35kmの矩形の断層面( 7.1相当)を十勝沖・根室沖については149(18〜22×7〜9列)、色丹島沖・択捉島沖については156(29×5〜7列)並べて、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定した。それぞれの地震の断層面の位置を図2.4-16および図2.4-17に示す。

(4)プレート内地震

 プレート内地震( 8クラス)に関しては、長期評価の結果に従い、沈みこんだプレート内のやや浅い地震(深さ50km程度)と沈みこんだプレート内のやや深い地震(深さ100km程度)に分類してモデル化する。それぞれの地震の活動モデルの諸元を表2.4-23および表2.4-24に示す。

 断層面の設定に関して、やや浅い地震については、1994年北海道東方沖地震の菊池・金森(1995)のモデルを参照し、長さ120km、幅60km、傾斜角75°の断層面をその上端がプレート境界の深度が20kmの等深線に一致するように置き、それを十勝沖から択捉島沖までの4領域内で等深線に沿ってランダム(半ずらし)に配置する。一方、やや深い地震については、1993年釧路沖地震のIde and Takeo(1996)のモデルを参照し、長さ60km、幅40kmで水平の断層面をプレート上面の深さが60kmの等深線の直下100kmのラインが断層面の中央となるように置き、それを十勝沖から択捉島沖までの4領域内で等深線に沿ってランダム(半ずらし)に配置する。断層面の配置の模式図を図2.4-18に示す。また、このようにして設定した断層面のモデルを図2.4-19および図2.4-20に示す。

2.4.4 日本海東縁部の地震

 日本海東縁部で発生する海溝型地震に関しては、日本海東縁部の地震活動の長期評価(地震調査委員会,2003c)に基づいて地震活動のモデル化を行う。図2.4-21に日本海東縁部で発生する海溝型地震の評価対象領域を過去の地震の断層面とともに示す。

 モデル化に際しては次の方針を設定した。

  • 評価対象領域は、北から北海道北西沖(図2.4-21のシ)、北海道西方沖(図2.4-21のス:1940年積丹半島沖地震)、北海道南西沖(図2.4-21のセ:1993年北海道南西沖地震)、青森県西方沖(図2.4-21のソ:1983年日本海中部地震)、秋田県沖(図2.4-21のタ)、山形県沖(図2.4-21のチ:1833年庄内沖地震)、新潟県北部沖(図2.4-21のツ:1964年新潟地震)、佐渡島北方沖(図2.4-21のテ)である。このうち、( )に地震名を示した北海道西方沖、北海道南西沖、青森県西方沖、山形県沖、新潟県北部沖では過去に 7.5以上の地震が発生したことが知られているが、北海道北西沖、秋田県沖、佐渡島北方沖では過去に 7.5以上の地震は知られていない。
  • 地震発生確率の算定において、平均発生間隔あるいは発生間隔のばらつきαが幅をもって示されている場合には、各パラメータの中央値を用いるが、平均発生間隔が1000年程度以上とされている秋田県沖、山形県沖、新潟県北部沖、については、平均発生間隔を1,000年と仮定して地震の発生確率を算定する。
  • 震源域の場所に関して、過去の地震が知られている領域については、その断層モデルを踏襲して断層面を設定する。過去に地震が知られていない領域については、北海道北西沖は長さ140km、幅24km、傾斜角45°、秋田県沖は長さ90km、幅24km、傾斜角45°、佐渡島北方沖は長さ140km、幅34km、傾斜角30°、の矩形の断層面をそれぞれ上端深さ3kmとして設定する。いずれも傾斜の方向については東傾斜、西傾斜が等確率で発生すると仮定する。なお、北海道北西沖、佐渡島北方沖については平面的に領域内でどこでも起こり得るとしてそれぞれ3つの断層を置き、そのいずれかで等確率で地震が発生すると仮定する。

 以下、各地震の活動モデルの諸元について示す。

(1)北海道北西沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-25に、断層面の位置を図2.4-22に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内に長さ140km、幅24km、傾斜角45°、上端深さ3kmの矩形の断層面を南北に3列並べて(それぞれ東傾斜あるいは西傾斜)、そのいずれかで等確率(1/6)で地震が発生すると仮定した。

(2)北海道西方沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-26に示す。断層面の諸元については、1940年積丹半島沖地震の断層モデル(Satake (1986))を踏襲した(図2.4-21)。

(3)北海道南西沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-27に示す。断層面の諸元については、1993年北海道南西沖地震の断層モデル(Tanioka et al. (1995))を踏襲した(図2.4-21)。

(4)青森県西方沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-28に示す。断層面の諸元については、1983年日本海中部地震の断層モデル(本震:Sato (1985) , 余震:阿部 (1987))を踏襲した(図2.4-21)。

(5)秋田県沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-29に、断層面の位置を図2.4-23に示す。震源域の位置について、ここでは領域内に長さ90km、幅24km、傾斜角45°、上端深さ3kmの矩形の断層面(東傾斜あるいは西傾斜)を置いて、そのいずれかで等確率(1/2)で地震が発生すると仮定した。

(6)山形県沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-30に示す。断層面の諸元については、1833年庄内沖地震の断層モデル(相田 (1989))を踏襲した(図2.4-21)。

(7)新潟県北部沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-31に示す。断層面の諸元については、1964年新潟地震の断層モデル(Abe (1975))を踏襲した(図2.4-21)。

(8)佐渡島北方沖の地震

 地震活動モデルの諸元を表2.4-32に、断層面の位置を図2.4-24に示す。震源域の位置について、「領域内でどこでも発生する可能性がある」とされているが、ここでは領域内に長さ140km、幅34km、傾斜角30°、上端深さ3kmの矩形の断層面を南北に3列並べて(それぞれ東傾斜あるいは西傾斜)、そのいずれかで等確率(1/6)で地震が発生すると仮定した。

2.4.5 日向灘および南西諸島海溝周辺の地震

 「日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価」(地震調査委員会,2004a)に基づいて、安芸灘〜伊予灘〜豊後水道のプレート内地震、日向灘のプレート間地震、日向灘のひとまわり小さいプレート間地震、与那国島周辺の地震、をモデル化する。

 これらの地震のモデル化において、震源域の場所はいずれの地震に関しても提案されている領域内に複数の断層面を置き、それぞれが等確率で起こると仮定する。断層の大きさが明示されていない場合にはマグニチュード に応じた断層面積 (log = -4)を目安に一辺の長さを定めた正方形の断層を仮定する。

(1)安芸灘〜伊予灘〜豊後水道のプレート内地震

 安芸灘〜伊予灘〜豊後水道のプレート内地震のモデルの諸元を表2.4-33に示す。また、設定した断層面の位置を図2.4-25に示す。
 各地震のマグニチュードは =0.9のグーテンベルク・リヒター式を前提として、それぞれ次の相対確率(割合)で発生すると仮定する。

6.7:23.1%  6.8:18.8%  6.9:15.3%  7.0:12.4%
7.1:10.1%  7.2:8.2%  7.3:6.7%  7.4:5.4%

(2)日向灘のプレート間地震

 日向灘のプレート間地震のモデルの諸元を表2.4-34に示す。また、設定した断層面の位置を図2.4-26に示す。

(3)日向灘のひとまわり小さいプレート間地震

 日向灘のひとまわり小さいプレート間地震のモデルの諸元を表2.4-35に示す。また、設定した断層面の位置を図2.4-27に示す。

(4)与那国島周辺の地震

 与那国島周辺の地震のモデルの諸元を表2.4-36に示す。また、設定した断層面の位置を図2.4-28に示す。

2.4.6 相模トラフ沿いの地震

 「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価」(地震調査委員会,2004c)に基づき、「大正型関東地震」と「その他の南関東で発生する 7程度の地震」をモデル化した。なお、「元禄型関東地震」については近い将来(30年あるいは50年)に発生する可能性はきわめて低いことからモデル化の対象外とした。

 これらの地震のモデル化においては次の方針を設定した。

  • 大正型関東地震の平均発生間隔は元禄地震(1703.12)と関東地震(1923.9)の間隔に基づいて219.7年とした。
  • 震源域の場所に関して、大正型関東地震については固有の断層面を設定する。その他の南関東で発生する 7程度の地震はフィリピン海プレート上面、フィリピン海プレート内、太平洋プレート上面の3つのタイプの地震に分類した上で、それぞれ提案されている領域内に複数の断層面を置き、すべての断層面で等確率で地震が発生すると仮定した。断層の大きさが明示されていない場合にはマグニチュード に応じた断層面積 (log = -4)を目安に一辺の長さを定めた正方形の断層を仮定した。

(1)大正型関東地震

 大正型関東地震のモデルの諸元を表2.4-37に示す。また、設定した断層面の位置を図2.4-29に示す。大正型関東地震の平均発生間隔は長期評価では200〜400年と示されているが、ここでは元禄地震(1703.12)と関東地震(1923.9)の間隔に基づいて219.7年とした。

(2)その他の南関東で発生する 7程度の地震

 その他の南関東で発生する 7程度の地震は、

  1. フィリピン海プレート上面、
  2. フィリピン海プレート内、
  3. 太平洋プレート上面、

の3つのタイプの地震をモデル化した。太平洋プレート内の地震は評価対象領域では80km以深となるためにモデル化していない。ただし、震源を予め特定しにくい地震としては考慮される。
 断層面を配置する領域を図2.4-30に示す。

  1. フィリピン海プレート上面の地震は深さ30km以深、
  2. フィリピン海プレート内の地震は評価対象領域の全域、
  3. 太平洋プレート上面の地震は深さ80km以浅、

に断層面を配置した。フィリピン海プレート上面の地震と太平洋プレート上面の地震はプレート境界に沿うように断層面を配置した。また、フィリピン海プレート内の地震はプレート上面から10km下にプレート上面に平行な断層面を配置した。ただし、深さが30km以浅となる場合には深さ30kmに配置した。配置した断層面で等確率で地震が発生すると仮定した。
 断層面の長さと幅は が6.7〜6.9の地震に関しては長さ25km×幅25km、 が7.0〜7.2の地震に関しては長さ35km×幅35kmと仮定した。
 各地震のマグニチュードは = 0.9のグーテンベルク・リヒター式にフィッティングするようにそれぞれ次の割合(相対確率)で発生すると仮定した。

6.7:26.3%  6.8:21.4%  6.9:17.4%
7.0:14.1%  7.1:11.5%  7.2:9.3%

 その他の南関東で発生する 7程度の地震のモデルの諸元を表2.4-38に示す。また、設定した断層面の位置を図2.4-31に示す。

2.4の参考文献

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  • 地震調査委員会(2003b):宮城県沖地震を想定した強震動評価について,平成15年6月18日.
  • 地震調査委員会(2003c):日本海東縁部の地震活動の長期評価について,平成15年6月20日.
  • 地震調査委員会(2004a):日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価について,平成16年2月27日.
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