2.3 地震活動のモデル(1) −主要98断層帯に発生する固有地震−

2.3.1 モデル化の基本方針

(1)基本方針

 主要98断層帯に発生する固有地震の地震活動として、長期評価の結果に基づいて地震発生確率、マグニチュード、断層面の諸元をモデル化する。特に、強震動評価(震源断層を特定した地震動予測地図)が実施されている活断層については、そこで検討された震源断層の情報も考慮する。
 なお、長期評価において複数案が併記されている布田川・日奈久断層帯(中部・南西部)に関しては、複数案を重み付き平均したハザードカーブを算定する。
 これらの方針は昨年度までの試作版(地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2002)、同(2003)、同(2004))で用いられたものを踏襲している。

(2)地震発生確率の設定

 主要98断層帯における地震発生確率は、地震調査委員会より公表された「長期的な地震発生確率の評価手法について」(地震調査委員会,2001)の方法に従い、活動間隔の確率分布としてBPT分布を用い、ばらつきαは0.24を用いて算定する。ただし、最新活動時期等が不明な一部の活断層についてはポアソン過程に基づいて発生確率を算定する。
 確率算定のための平均活動間隔と最新活動時期は長期評価結果に基づく(地震調査委員会,2005a)。長期評価では平均活動間隔あるいは最新活動時期が不明なため、地震発生確率が明示されていない活断層がある。その場合には断層長さや平均変位速度などの個別の情報に基づいて平均活動間隔を仮定し、ポアソン過程に基づき地震発生確率を設定する。平均変位速度が不明な場合には、活動度がB級の活断層については平均的な平均変位速度として0.25mm/yを仮定し(奥村・石川,1998)、A-B級、B-C級の活断層についてはそれぞれ平均的な平均変位速度としてクラスの境界値である1mm/y、0.1mm/yを仮定する(松田,1975)。なお、活動度が不明な場合にはB級を仮定する。
 長期評価では地震発生確率に幅をもって示されている場合がある。ここでは、活動間隔および最新活動時期のそれぞれの幅の両端の中央の値に基づく地震発生確率を基本としてモデル化する(「平均ケース」と呼ぶ)。
 主要98断層帯の長期評価の公表においては、今後30年間の地震発生確率の値によって、相対的に「発生の可能性が高いグループ」、「発生の可能性がやや高いグループ」というグループ分けを行っている。そのグループ分けでは地震発生確率の最大値が用いられており、上記の「平均ケース」での確率値と異なる場合があることに注意が必要である。そこで、結果の違いを比較するために地震発生確率の最大値を用いた場合(「最大ケース」と呼ぶ)についても検討する。
 平均活動間隔が片側の幅(○○年以上)で評価されている場合には「平均ケース」、「最大ケース」ともに「○○年」とする。
 最新活動時期が片側の幅(○○年以降)で与えられている場合には、原則として最近確実に活動していない時期を考慮して最新活動時期の中央の値を定める(「平均ケース」)。
 断層区間が複数提示されているために平均活動間隔が幅を有する場合には、原則として断層長さが最も長くなる(地震規模が最も大きくなる)断層区間をモデル化し、それに整合するように平均活動間隔を定める。

(3)マグニチュードの設定

 活断層で発生する地震のマグニチュードは基本的には長期評価結果に基づく(地震調査委員会,2005a)。マグニチュードに幅をもって示されている場合にはその両端の中央の値を用いる。なお、断層区間が複数提示されているためにマグニチュードが幅を有する場合には、設定した断層区間に整合するようにマグニチュードを定める。

(4)断層面の諸元の設定

 個々の活断層の断層面は1枚もしくは複数枚の矩形面でモデル化する。モデルを規定するパラメータは、端部の位置、長さ、幅、走向、傾斜角、上端深さである。
 長期評価に加えて強震動評価(震源断層を特定した地震動予測地図)が行われている活断層については、その断層モデルに基づいて断層面の諸元を定める(地震調査委員会,2002b、2003a〜2003d、2004a〜2004d、2005b)。
 長期評価で定量化されていないパラメータがある場合には、次の方法により諸元を設定する。傾斜角が不明な場合には横ずれ断層では90度(鉛直面)、縦ずれ断層(正断層と逆断層)では60度と設定する。縦ずれ断層の場合での60度の根拠は豊富ではないが、過去の内陸の地震の断層パラメータの分析(佐藤編,1989)によれば、50〜60度程度の傾斜角とされているものが多いことから、ここでは暫定的に60度を仮定した。また、傾斜角が「高角」と評価されている場合には、横ずれ断層の場合は90度、縦ずれ断層の場合は60度とした。断層幅が不明な場合には、地震発生層の厚さと傾斜角より幅を定める。ただし、断層幅は断層長さを上回らないものとする。なお、断層上端深さに関しては長期評価では0kmとされている場合が多いが、地震動評価の観点からの研究(伊藤,1997)を参考に3kmと設定する。

(5)活動区間

 基本的には個々の活断層の全区間が同時に活動すると考える。ただし、長期評価結果で、1つの断層帯について、地震を起こす断層の組み合わせとして複数示されている場合には、最も地震が起こりそうな断層の組み合わせを活動区間として設定する。

2.3.2 主要98断層帯のうち作成に用いる活断層の諸元

 確率論的地震動予測地図の作成に用いる主要98断層帯を表2.3-1ならびに図2.3-1に示す。断層数は153である。これらの地震発生確率(2005年1月から30年および50年)を表2.3-2に、マグニチュードと断層面の諸元を表2.3-3に示す。地震発生確率ならびに断層面の諸元のモデル化における活断層ごとの特記事項については各表の末尾に示している。
 なお、表2.3-1の左欄は基盤的調査観測の対象活断層としてリストアップされた際の断層名称を記載している。長期評価の公表時には、複数の活断層が一緒に公表されるなど、異なる断層名称となっている場合があるので注意が必要である。

2.3.3 布田川・日奈久断層帯(中部・南西部)のモデル化

 布田川・日奈久断層帯の長期評価(地震調査委員会,2002a)では、同断層帯の中部・南西部の評価において、活動履歴の解釈から、平均活動間隔ならびに最新活動時期に関して二つのケースが併記されている。そこで、ここでは両ケースを考慮した表2.3-4の3つのケースの重み付き平均として布田川・日奈久断層帯(中部・南西部)の活動によるハザードカーブを算定する。各ケースの地震発生確率とマグニチュードを表2.3-5に示す。なお、布田川・日奈久断層帯(中部・南西部)以外の地震との積和については、下記の個々のケースごとではなく、重み付き平均として求められたハザードカーブを用いて行う。

2.3の参考文献

  • 伊藤 潔(1997):地殻内地震の深さの上限,日本地震学会1997年度秋季大会講演予稿集,p69.
  • 地震調査委員会(2001):長期的な地震発生確率の評価手法について,平成13年6月8日.
  • 地震調査委員会(2002a):布田川・日奈久断層帯の評価,平成14年5月8日
  • 地震調査委員会(2002b):糸魚川−静岡構造線断層帯(北部、中部)の地震を想定した強震動評価について,平成14年10月31日.
  • 地震調査委員会(2003a):森本・富樫断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成15年3月12日.
  • 地震調査委員会(2003b):布田川・日奈久断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成15年7月31日.
  • 地震調査委員会(2003c):三浦半島断層群の地震を想定した強震動評価について,平成15年10月28日.
  • 地震調査委員会(2003d):山形盆地断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成15年11月25日.
  • 地震調査委員会(2004a):砺波平野断層帯・呉羽山断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成16年3月22日.
  • 地震調査委員会(2004b):琵琶湖西岸断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成16年6月21日.
  • 地震調査委員会(2004c):高山・大原断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成16年9月27日.
  • 地震調査委員会(2004d):石狩低地東縁断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成16年11月29日.
  • 地震調査委員会(2005a):長期評価における確率値の更新と活断層の地震規模の表記について,平成17年1月12日.
  • 地震調査委員会(2005b):山崎断層帯の地震を想定した強震動評価について,平成17年1月31日.
  • 地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2002):確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定)について,平成14年5月29日.
  • 地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2003):確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定−北日本),平成15年3月25日.
  • 地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2004):確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定−西日本),平成16年3月25日.
  • 松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について, 地震, 第2輯, 第28巻, pp.269-283.
  • 奥村俊彦・石川 裕(1998):活断層の活動度から推定される平均変位速度に関する検討,土木学会第53回年次学術講演会講演概要集,第I部(B),pp.554-555.
  • 佐藤良輔編著(1989):日本の地震断層パラメター・ハンドブック, 鹿島出版会.

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