2.3.7 震源を予め特定しにくい地震等のうち浦河沖で発生する地震

A. モデル化の基本方針

 1982年浦河沖地震(M7.1、h=40km)の周辺では、中規模の地震が多く発生している。震源深さは、太平洋プレートの上面より浅いが、他地域における上部地殻の地震発生層下面より深く、上下にはがれた千島弧の下部地殻との関連も指摘されている(村井・ほか, 2002)。ここでは、1982年浦河沖地震の震源域周辺で発生する地震を、震源を予め特定しにくい地震等のうちグループ3、4、5の地震とは別に、独立して発生する地震としてモデル化する。
 モデル化にあたっては、震源を予め特定しにくい地震と同様の方法によることとし、その方針は、「確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定)」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会, 2002)、および「震源を予め特定しにくい地震等の評価手法について(中間報告)」(地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会, 2002)に基づくことを基本とする。

B. 評価手法と条件

(1) 地域区分の有無
地域区分する方法と地域区分しない方法の2種類を併用する。
(2) 地震の発生場所
地域区分する方法を用いる場合には、区分された地域内で一様ランダムとする。地域区分しない方法では、smoothed seismicity の考え方に基づき、微小な領域ごとの地震発生頻度を評価する。
(3) 地域区分
過去に発生した地震の震源分布を参考に、深さが概ね25kmから45kmの地震が発生する領域として地域区分を設定する。
(4) 地震カタログ
中地震のカタログと小地震のカタログとを併用する。ただし、この領域は、上部地殻内の地震と太平洋プレートの地震の中間に位置することから、1925年以前の宇津カタログでは地震を分離抽出することができない。そこで、中地震カタログとして気象庁カタログのうち1926年以降のマグニチュード5.0以上の地震のデータのみを用いることとし、宇津カタログとの組み合わせは行わない。小地震のカタログは気象庁カタログのうち1983年以降のマグニチュード3.0以上の地震のデータとする。余震は、暫定的に昨年度と同じ方法で除去する。
(5) 地震規模の確率分布
b値モデルでモデル化する。b値は0.9に固定する。
(6) 深さ
領域の中間程度の深さとして、断層の中心を深さ35kmに固定する。
(7) 断層面
日本の地震断層パラメター・ハンドブック(佐藤編著, 1989)には、1982年浦河沖地震の断層モデルが4つ示されている。これによれば、走向はN30W〜N60W、傾斜角は30°〜60°の範囲となっている。ただし、傾斜方向は北東傾斜と南西傾斜が2つずつとなっている。これらを参考に、走向N45W、傾斜角45°で北東傾斜の円形断層面とし、その中心を上述のとおり35kmに固定する。断層の面積は、規模に応じて宇津の式を満足するように定める。断層面の平面的な場所は、地域区分した領域内でどこでも発生するものとする。
(8) 最大マグニチュード
1982年浦河沖地震のM7.1を最大とする。
(9) 地震の発生時系列
ポアソン過程とする。
(10) モーメントマグニチュードMWへの変換
MW= MJとする。

C. 浦河沖で発生する地震の地震活動モデル

(1) 地域区分と過去に発生した地震の震央分布
 図2.3.7-1に、浦河沖の地震としてモデル化する地域区分(地震活動域)を、図2.3.7-2にはその概念図を示す。地域区分は、1982年浦河沖地震と1927年から1931年に発生したM6クラスの3地震を含み、かつ南東側の境界はプレート上面深度がほぼ45km程度となるように設定している。この地域区分は、平面的にはグループ5の地震(陸域の地殻内で発生する震源を予め特定しにくい地震)の地域区分と重複しているため、地震活動度の評価に用いる地震は、図2.3.7-2に示すように、震源深さが25km以深で45kmより浅いものとする。
 図2.3.7-3には1926年から2000年の気象庁カタログのうちマグニチュード5.0以上の地震の震央分布を、図2.3.7-4には1983年から2000年の気象庁カタログのうちマグニチュード3.0以上の地震の震央分布を示す。
(2) 区分された各地域内の地震の規模別発生頻度
図2.3.7-1に示した各領域について、中地震カタログ(図2.3.7-3)に基づいて算定された地震の規模別累積発生頻度と小地震カタログ(図2.3.7-4)に基づいて算定された地震の規模別累積発生頻度を図2.3.7-5に示す。
(3) 最大マグニチュード
1982年浦河沖地震のマグニチュード(M7.1)を最大マグニチュードとする。
(4) 浦河沖の地震の発生頻度の分布
図2.3.7-6に、浦河沖の地震の発生頻度(0.1度×0.1度の領域で1年間にマグニチュード5.0以上の地震が発生する頻度)の分布を示す。これは、1)中地震カタログで地域区分する方法、2)中地震カタログで地域区分しない方法、3)小地震カタログで地域区分する方法、4)小地震カタログで地域区分しない方法、の4ケースの頻度を平均したものである。

参考文献

  • 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会(2002):震源を予め特定しにくい地震等の評価手法について(中間報告),平成14年5月29日.
  • 地震調査研究推進本部地震調査委員会長期評価部会・強震動評価部会(2002):確率論的地震動予測地図の試作版(地域限定),平成14年5月29日.
  • 佐藤良輔編著(1989):日本の地震断層パラメター・ハンドブック,鹿島出版会.
  • 村井芳夫・ほか(2002):海底および陸上稠密地震観測から明らかになった日高衝突帯の地下構造,月刊地球,Vol. 24, No. 7, pp. 495-498.