全国地形分類図による表層地盤特性のデータベース化、
および、面的な早期地震動推定への適用

工学院大学 久保智弘・久田嘉章・柴山明寛
防災科学技術研究所 大井昌弘・石田瑞穂・藤原広行
ジオ・システム・ソリューション 中山圭子

Development of Digital Maps of Site Amplification Factors in Japan,
and Their Applications to Early Strong Motion Estimations

Tomohiro Kubo, Yoshiaki Hisada, Akihiro Shibayama
Kogakuin University, Dept. of Architecture
Nishi-Shinjuku 1-24-2, Tokyo 163-8677, Japan

Masahiro Ooi, Mizuho Ishida, Hiroyuki Fujiwara
National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention
Tennodai 3-1, Tsukuba, Ibaraki 305, Japan

Keiko Nakayama
Geo System Solution, Inc.
Hikarigaoka 6-1-1-214, Nerima, Tokyo 179-0072, Japan

 We developed digital maps of the geomorphological land classifications and the site amplification factors in Japan, and applied them to strong motion estimations immediately after earthquakes. For making the maps, we first digitized the geomorphological land classification maps of Japan (1:200,000 or 1:100,000 scale) and constructed 500 m mesh data. Then, we made up the maps of site amplification factors using the empirical relation by Midorikawa and Matsuoka (1995). We evaluated their accuracies by comparing the estimated strong ground motions with the records of K-Net for recent earthquakes in the Kanto area. We estimated the strong motions using the site amplification factors and the two methods: the attenuation relation (Si and Midorikawa, 1999), and an interpolation method using the records. We found that the second method gave more reliable results than the first method, because the first method strongly depended on accuracies of the source and path effects. However, since we may not be able to obtain quickly the strong motion records near highly damaged areas, it would be efficient to evaluate the strong motions using the first method immediately after an earthquake, then to replace them by the second method after getting the records. Finally, we compared the site amplification factors using the two methods. The first is based on the average of shear wave velocities from the free surface to the 30m depths using boring data. The second is the above-mentioned method based on the geomorphological land classifications. The comparisons showed that the first method was more accurate and reliable. Therefore, it is necessary to replace the digital maps of the site amplifications by those using the first method, when we obtain boring data.

Key Words:
geomorphological land classification, digital map, site amplification factor,  early strong motion estimation, attenuation relation, K-Net

1.はじめに

 1995年阪神・淡路大震災を契機に、多くの自治体で地震被害想定が行われた[例えば、損害保険料率算定会(1998)]。また全国を対象とした地震被害想定の支援ツールが開発され、公開されている〔例えば、内閣府(1999)、座間・細川(1996)、座間・他(2000)〕。地震被害想定で基本となる地震動推定には、まず表層地盤のデータベース化と増幅特性の評価が重要となる。現在、全国を網羅する表層地盤のデータベースとして国土数値情報[日本地図センター(1992)]があり、上記の支援ツールでも使用されている。しかしながら、国土数値情報のメッシュ単位は1 kmの基準地域(第3次地域区画)であり、地盤増幅特性の評価も地形分類による経験的手法 [松岡・翠川(1994)]を用いているため、精度や解像度に改善の余地がある。一方、自治体による地震被害想定では一般に500mメッシュを用いており、またボーリングデータやPS検層データを用いた地盤増幅特性を考慮しているため、より解像度と精度に優れていると考えられる[例えば、損害保険料率算定会(1998)]。しかしながら地盤増幅の評価は、各自治体ごとに独自の手法を用いて実施されており、広い地域を対象とした地震動推定を行う場合、想定結果に隣県同士で不整合なども起こりうる。
 一方、阪神・淡路大震災以降、早期の地震情報の収集や被害予測を行うため、国・自治体や企業などで大規模な地震計ネットワークが構築され、それぞれ独自のシステムが起動するようになった〔例えば、翠川(1996、2002)〕。例えば気象庁では全国で約600点の震度計ネットワークを整備し、震度情報を地震発生から約2分後にはテレビなどで一般に公表している[例えば、横田(2002)]。一方、内閣府では緊急災害対策本部等の応急対策実施を支援するための地震防災情報システム(DIS)の整備を進めている[例えば、桐山(2000)]。DISには気象庁の震度情報から被害推定を行うEES(地震被害早期推計システム)が含まれているが、推定手法には国土数値情報による地震被害想定支援マニュアル〔内閣府(2001)〕を用いており、解像度は1kmメッシュである。一方、自治体や企業でも独自の高密度な地震計ネットワークを用いた早期地震被害推定システムを開発している。例えば、横浜市では約2km間隔で市内150箇所に強震計を配置しており、これを利用した早期地震防災システム(READY)を開発した[例えば、Midorikawa et al.(2000)]。また東京ガスのSUPREME[清水・他(2002)]ではSIセンサーを首都圏の約3700箇所という高密度で設置し、それぞれ早期地震防災システムを構築している。また、海外でも同様な試みが行われており、例えば米国・南カルフォルニアではCalifornia Institute of Technology (Caltech)、U.S. Geological Survey (USGS)、及びCalifornia Division of Mines and Geology (CDMG)が共同して強震観測ネットワーク (TriNet)を運営している。そしてこのシステムを用いた即時的な地表加速度・速度・震度マップ(Shake Map)をWeb上で公開している〔Wald et al.(1998)〕。
 ところで、独立行政法人・防災科学技術研究所では、高感度地震観測網(Hi-net)、広帯域地震観測網(FREESIA network、2002年4月よりF-net)、強震観測網(K-NET、KiK-net)を整備してきており、それを活用したリアルタイム地震情報伝達システム(ROSE; Real-time Operation System for Earthquake)を構築している [大井(2001)、石田・大井(2002)]。このシステムでは地震発生後、数分以内に震源決定を行い、距離減衰式を用いた面的な地震動推定を行う。さらに強震観測記録が得られ次第、推定地震動の精度を向上させ、結果をWeb上にて公開している[防災科学技術研究所(2002)]。
 本研究の目的は、ROSEでの地震動推定の基礎となる全国の地盤増幅特性マップを整備し、さらに距離減衰式及び強震記録を元にした地震動推定の精度のチェックを行うことにある。1kmメッシュの国土数値情報の精度を改善する試みとして、若松・他(2002)は土地分類基本調査の地形分類図(縮尺5万分の1)を基に、地形分類データを作成中である。それに対して本研究では全国土地分類図の地形分類図(縮尺20万分の1、又は10万分の1)を独自にデジタル化し、500mメッシュ単位で地形分類図のデータベースを作成する。次に内閣府の地震被害想定支援ツールをもとに、全国を網羅する500mメッシュの地盤増幅度マップを構築する。さらに関東平野を対象として、地震被害想定支援マニュアルをもとに、距離減衰式とK-NETによる強震動記録を用いた面的な地震動推定を行い、実際に観測された強震記録の結果との比較からの精度の検討を行う。その際、地盤増幅特性の評価は地形分類と標高データをもとにした手法[松岡・翠川(1994)、翠川・松岡(1995)]と、PS検層データをもとにした手法[Midorikawa et al.(1994)]の比較検討も行う。最後に、面的に推定した震度と気象庁による震度との比較を行い、推定結果の検討も行う。

2. 表層地盤特性のデータベース化

 全国を対象に面的な地震動推定を行うため、本研究では地形分類図をもとに500mメッシュ単位での表層地盤特性のデータベースを作成する。データの作成は県別の土地分類図の地形分類図[例えば、国土庁土地局国土調査課(1976)]を使用する。これは1/10万または1/20万の地図であり、分解能は400mから1kmとされている。従って、地域によっては500mメッシュの解像度が無い場合もあると考えられるが、下に示す東京都の例のように十分に高い精度を示す地域もある。さらに地方自治体では一般に500mメッシュデータが整備されており、今後それらのデータを活用することも考慮し、ここでは全国を一律に500mメッシュでデータを作成する。同時に国土数値情報の1kmメッシュ単位の地形分類図との比較を行い、解像度を検討する。
 まず、本研究で用いる地震被害想定支援マニュアルによる速度の増幅度マップの作成法を説明する。増幅度は(1)式による経験式[Midorikawa et al. (1994)]を用いる。

(1)

 ここでRは工学的基盤に対する表層地盤による速度の増幅度、AVS30は地表から深さ30mまでの平均S波速度(m/s)である。AVS30は地形分類と標高より以下の経験式[松岡・翠川(1994)、翠川・松岡(1995)]で評価する。

(2)

 ここでHは標高(m)、a、bはTable.1により地形分類により決まる係数である。本研究では500mメッシュの標高データとして、数値地図250mメッシュ[国土地理院(1997)]をもとに、該当する500mメッシュ内での平均値を使用した。一方、K-NETの観測点ではPS検層による速度データが使用できるため、AVS30の評価に用いた。但し、K-NETの観測点では深さ20mまでのデータしか使用できないため、司・翠川(1999)の基準に従い最下層の値を深さ30mまで外挿して使用した。
 500mメッシュ単位での地形分類図の作成は以下のように行う(Fig.1)。まず県別の地形分類図をスキャナーによりパソコンに取り込む(Fig.1a)。次に地理情報システム(GIS)を用いて地形分類図を緯度経度系に合わせ、2分の1地域メッシュ(500mメッシュ)と重ねる(Fig.1b)。さらに各メッシュの代表点(中心点)から地形分類を読み取り(Fig.1c)、500mメッシュの地形分類図を作成する(Fig.1d)。但し、ここでは地形分類図において自然堤防・砂州となっている場合は自然堤防としている。Fig.1eには比較のため国土数値情報の1kmメッシュの地形分類図を示しているが、Fig.1aの地形分類図やFig.1d の500mメッシュ地図に見られる沖積谷や埋立地などの微細な地形が表現できていないことが分かる。但し、ここで作成した500mメッシュの地形分類図では、代表点としてメッシュ中心点を用いているため、Fig.1dに見られるように例えば中心点が河川である場合、メッシュ全体を河川として評価してしまう。従ってメッシュ内での地形分類図の面積比を考慮して代表点を決定するなどの改善の余地がある。
 同様な作業を全国の地形分類図に対して行い、500mメッシュの地形分類図、さらにはFig.2に示すように式(1)、(2)を用い500mメッシュの速度増幅度マップを作成した。さらに地震動評価の例として、次章で説明する2000年6月の千葉県北東部の地震を対象とし、Fig.3aには距離減衰式を用いた工学的基盤における最大速度分布を、Fig.3bには地表における最大速度分布を示す。表層地盤の増幅特性により基盤上の単純な最大速度分布が複雑な分布へと変わり、表層地盤特性の評価の重要性が分かる。
 次に、得られた全国の500mメッシュの表層地盤データベースと、国土数値情報との比較を広い地域を対象として行う。Fig.4には例として関東地方を含む地域メッシュコード5339[日本地図センター(1992)] (80km×80km、 Fig.3を参照)を対象として、国土数値情報の地形分類コード(Table.1)から、該当する1kmメッシュ内での500mメッシュ地形分類コードを引いた値を図示する(Fig.4、各図の地形分類は1kmメッシュによる)。図より、「山地」、「台地」、「河川・その他」など、地形が比較的単純な地域では、コード差がほぼ0に集中しているが、「扇状地」、「自然堤防」、「谷底平野」、「三角州」などの地形が入り組んでいると考えられる地域ではコードの差異が目立っている。また「埋立地」ではコード差が0の次に8の値が目立っているが、これは1kmメッシュで埋立地(コード8)と与えられている地域が、500mメッシュでは海や河川(コード0)と評価されているためである。
 以上のことから既存の国土数値情報と比較し、本研究で作成した500mメッシュの地形分類図データベースはより微細な地形分類を表現しており、全国を対象とした面的な地震動推定に用いるのに有効であるといえる。次章では、実際に観測された強震記録を用いて、ここで作成した表層地盤による増幅度のデータベースと、地震動推定手法の妥当性を検討する。

3. 地震動推定法

 地震動推定には地震被害想定支援マニュアルをもとに2つの推定方法を用いる。はじめの手法は震源データから距離減衰式を用いて地震動推定を行う方法である。Fig.3及びFig.5aに示すように、まず工学的基盤上の最大速度を求め、(1)式による表層地盤による増幅度を乗じて地表面における最大速度を求める。距離減衰式として、ここでは司・翠川(1999)を用いる。




(3)

 ここで、Vは最大速度値(cm/s)、Xは断層面からの最短距離(km)、kは粘性減衰係数、Mwはモーメントマグニチュード、Dは震源深さ(km)、a,h,di,eTable.2より求まる係数である。Siはダミー変数で、断層タイプから決まる係数であり、断層のタイプは、地殻内地震、プレート間地震、プレート内地震と分類されている。(3)式は同じ距離にある場合、プレート間地震、地殻内地震、プレート内地震の順番で最大速度値が大きくなる特徴がある。
 もう一つの地震動推定法は、強震観測データを補間して任意点における地震動を求める方法である。Fig.5bに示すように、この方法では、まず観測された各点における強震観測データの最大速度値を、それぞれの地盤増幅度で除して工学的基盤上での最大速度値を求める。次に、求めたい任意点から最大50km以内かつ最大5点の観測点における工学的基盤上の最大速度値を用いて、(4)式による距離の重み付けを行い、任意点における最大速度値を算出する。最後にその任意点における増幅度を乗じて地表面における最大速度の推定値を求める。

(4)

 ここで、VbVbiは任意点とi観測点における工学基盤面での最大速度値、diは任意点とi観測点間の距離を表す。この補間推定法は、観測値の抽出が機械的に行えるため、即時的な地震動推定に適している。
 地震動推定に必要な表層地盤による増幅度は2.で述べたPS検層データの平均S波速度から計算したものと、地形分類と標高から算出したものの2つの方法を用い、比較検討する。
 震度Iは、地震被害想定支援マニュアル[内閣府(2001)]に従い、最大速度値Vから次式を用いて推定する。

(5)

 一方、K-NETの強震記録から計測震度を計算し、面的な震度推定を行う場合は、(5)式を用いて各観測点の最大速度に変換し、上記の補間法を用いて行う。

4. 表層地盤特性と地震動推定法の検討

1) 対象とする地震と強震観測データ

 上記に示した表層地盤特性のデータと地震動評価法を用いた推定値と、実際に観測された強震記録を比較することによって手法の妥当性を検討する。近年、関東地方で観測された地震記録のうち広範囲な地域でデータが得られたTable.3に示す3つの地震を選んだ。表の震源パラメータは、千葉県東方沖地震では東京大学地震研究所 (1996)より,東京湾の地震及び千葉県北東部地震では防災科学技術研究所のF-netによる値[防災科学技術研究所(1998),(2000)]を用いた。Fig.6にそれぞれの地震で使用するK-NETの観測点および震源位置を示す。
 本研究での地震動の比較は、最も簡便な強震動の尺度の一つである観測震度と推定震度で行う。すなわち、観測震度はK-NETにより観測された加速度波形から定義通り[気象庁(1996)]に計算した計測震度を用い、推定震度は推定した地表最大速度から(5)式により算出した震度を用いる。

2)距離減衰式による推定結果

 距離減衰式は司・翠川(1999)による(3)式を用いるが、Table.2のパラメータdを決定するための断層タイプは、対象とした地震の震源の深さが50kmから59kmと深いため、ここでは地震直後における早期の地震動推定を目的とすることから、推定値が安全側に(大きめに)評価されるようにすべてプレート内地震とした。
 Fig.7は、横軸に距離減衰式と(5)式により求めた推定震度をとり、縦軸に観測された計測震度をとった時の散布図である。図中、地形分類図による増幅度を使用した結果(Method Aとする)を黒印で、それらの最小二乗法による近似線を太い線で示した。また、PS検層データによる増幅度を使用した結果(Method Bとする)を白印で、散布図の最小二乗法による近似線を細い線で示している。正解値である対角線(破線)と比較すると、千葉県東方沖地震や東京湾の地震では、どちらの増幅度を用いても推定結果にはそれほど違いが見られないが、千葉県北東部の地震では、推定結果が過大評価となっている。従って距離減衰式による地震動推定は不安定な結果を示すことがわかる。
 Fig.8は推定震度から観測震度の値を引いた誤差のばらつきの分布図を示したものである。図中、地形分類図による増幅度を使用した結果を実線で、PS検層データによる増幅度を使用した結果を破線で示す。また、Table.4は、Fig.7の散布図から求めた相関係数と、Fig.8の分布図から求めた誤差の平均値及び標準偏差を示す。Fig.8では、千葉県東方沖地震や東京湾の地震ではほぼ誤差が0軸に近いところにデータが集中しているが、千葉県北東部の地震では推定値が過大に評価されているため、+1付近にデータが集中している。また地形分類図(Method A)とPS検層データ(Method B)による結果を比較すると後者の方が誤差は0に近いことがわかる。またTable.4より、いずれの地震でもPS検層データによる結果が地形分類図による結果よりも高い相関係数を示し、誤差の平均値と分散も小さな値となっている。また千葉県北東部の地震では誤差の値が大きく、推定値が過大に評価されていることが分かる。
 以上のことから、距離減衰式と表層地盤特性を考慮した地震動推定法を用いると、簡便に面的な地震動推定が行え、かつ比較的良好な推定結果が得られるものの、場合によっては結果が大きな誤差を与えるなど不安定な結果を示すことが分かった。ここで使用した距離減衰式はあくまでも全国の平均的なものであるため、地域ごとの震源・伝播・地盤特性を考慮して、より精度の高いものに改善していくことが望ましい。一方、PS検層データによる増幅度を用いた場合の地震動推定の精度は、地形分類図による増幅度を用いた場合よりも精度が高いことも確認できた。

3) 強震動データによる推定結果

 Fig.9Fig.7と同様に、対象とする観測点の周辺の強震動データから(4)式による補間法を用いて推定した震度を横軸にとり、対象とする観測点の観測された計測震度を縦軸にとった時の散布図を示す。地形分類図による結果(Method A)を黒印で、それらの最小二乗法による近似線を太い線で示し、一方、PS検層データによる結果(Method B)を白印、それらの最小二乗法による近似線を細い線で示している。Fig.7と比べると、ややばらついているものの、正解値である対角線上に近く、どの地震でも安定した結果を示している。
 Fig.10は観測値と推定値の誤差の分布図を、Table.5は相関係数、誤差の平均値、及び標準偏差を示す。Fig.10から、いずれの地震でも誤差が0軸に集中していることがわかる。また地形分類図とPS検層データによる結果を比較すると、Table.5に見られるように後者の方が相関係数の高さや、標準偏差の小ささなどから良好な結果を示している。一方、距離減衰式を用いた結果(Fig.8Table.4)と比較すると、強震動データによる推定結果はばらつき(標準偏差)がやや大きくなっている。これは距離減衰式では、対象とするサイトの増幅度を一度だけ用いるのに対し、補間法では対象とするサイトの増幅度に加え、周辺の観測点(最大5点)における増幅度も用いるため、経験式である(1)式の誤差がより大きく評価されてしまうためだと考えられる。従って観測点ごとの増幅度の精度を向上させることが今後の重要な課題である。
 以上のことから強震動データを用いた推定結果は、距離減衰式のように震源データや伝播特性の精度に依存しないため、安定した結果を示すことが確認された。また距離減衰式による場合と同様に、PS検層データによる増幅度の方が地形分類図による増幅度より精度が高いことも確認できた。

4) 気象庁震度との比較

 最後に、推定した面的な震度と気象庁発表の計測震度と比較検討する。推定する面的震度分布として、上で説明した距離減衰式を用いた方法と、K-NETの最大速度から補間法を用いて推定した方法とに加え、K-NETから計測震度を計算し、それを補間して推定した方法、の3ケースを比較する。K-NETにおける計測震度の補間法は、(5)式を用いて最大速度に変換してから行う。参考としてFig.11に1996年東京湾の地震と2000年千葉県北東部地震に対して、観測した最大速度値と、計測震度から速度値に変換した値とを比較する。また、ここでは表層地盤の増幅度はすべて地形分類によるものを使用する。この地震の場合、図より計測震度から変換した速度値は、実際の最大速度値よりやや大きめに評価される傾向が見られる。
 次にFig.12Fig.13には、それぞれ1996年東京湾の地震、及び2000年千葉県北東部地震について、距離減衰式を用いた震度分布とK-NETの最大速度を用いた震度分布、及びK-NETの計測震度を用いた震度分布を示す。図には気象庁発表による計測震度の値も同じスケールで示している[地震予知総合研究振興会(1998)、(2000)]。Fig.12では3手法による違いは明瞭ではないが、Fig.13では距離減衰式による推定結果は関東平野全域で過大な評価となっている。一方、他の2手法では明瞭な差は見られない。さらに2つの地震についてFig.14Fig.15に、横軸に気象庁の計測震度をとり、縦軸には3手法で推定した震度をとった比較を示す。気象庁の計測震度は5弱を4.7とし、その他は1〜4の整数値としている。各計測震度に対する推定震度の平均値を四角、標準偏差を横棒、及び最小・最大値を丸印とし、それぞれ図中に示している。各図にある数値は、気象庁の計測震度に対する推定震度の誤差の平均値を示している。これらの図から、全体的に低い震度では、推定震度はやや大きめに評価されている。また、Fig.15で顕著に見られるように、K-NETの最大速度値と計測震度を用いた推定結果は、距離減衰式から推定した結果より安定しており、正解値である対角線上に近い値を示している。また、計測震度から推定した結果は、最大速度による推定結果よりも誤差はやや大きくなっている。これは使用した表層地盤の増幅度が最大速度値の増幅度に対応しており、より広い周期帯域を持つ計測震度には対応できていないことが一因と考えられる。従って、計測震度を用いて面的な地震動推定を行う場合、計測震度に関する地盤の増幅特性を適切に評価する必要がある。

5. 議論及びまとめ

 本研究では全国を対象に、地震直後において地震動推定を早期に行うことを前提として、表層地盤特性を考慮した地震動推定を行い、関東平野を対象に実際に観測された強震記録との比較からその精度を検討した。まず全国の表層地盤特性のデータベースを作成するため、地形分類図をデジタル化し、全国の500mメッシュの地形分類図と、地震被害想定支援ツール[内閣府(1999)]を用いた表層地盤による速度の増幅度マップを作成した。国土数値情報の1kmメッシュによる地形分類図と比べると、ここで作成した地形分類図は谷底平野など微細に入り組んだ地形も評価でき、より解像度の高いデータベースとなっていることを確認した。
 次にデジタル化した増幅度マップを用いて、距離減衰式及び強震動データによる補間法を使用した地震動(震度)の推定を行い、実際に観測された強震記録による計測震度との比較から精度を検討した。その結果、強震観測データによる推定結果は、距離減衰式のように震源データや伝播特性の精度に依存しないため、より安定した結果を示すことが確認された。一方、計測震度を用いて面的な地震動推定を行う場合、計測震度に対応した地盤の増幅特性を評価する必要があることも明らかとなった。
 以上より地震直後の即時的地震動推定を行う場合、まず震源情報が得られた段階で、距離減衰式による暫定的な地震動推定を行い、その後、強震動データが得られた段階で逐次強震動データによる推定結果に置き換えて行くことが有効であると考えられる。特に地震発生後しばらくは、被害の甚大な地域からは強震動データが入手できない可能性があるため、強震動データが利用できるまで距離減衰式による推定結果を有効に活用すべきである。今後、距離減衰式を用いてより安定した結果を得るためには、高精度の震源パラメータに加えて、地下構造などの地域特性を適切に評価する必要がある。従って地域ごとの補正項を距離減衰に導入するなどの検討が必要になると考えられる。
 一方、地形分類図による地盤増幅度と、K-NET観測点におけるPS検層データによる増幅度を比較すると、後者の方が高い精度を示すことも確認した。最近ではK-NETなどの強震動データを利用し、地域特性を考慮した地盤特性データも作成されている[例えば、伊藤・川瀬(2001)、加藤(2001)、福和・他(1999)など]。さらに計測震度に対応した地盤の増幅特性の評価も行われている[例えば大西・他(1999)]。従って、様々な地域でPS検層データや強震動記録を用いて、より精度の高い地盤増幅特性のデータベースを作成し、順次データベースのバージョンアップを図る必要がある。また自治体でも地震被害想定の実施の際、PS検層データ等が整理されているため、それらのデータも有効に活用すべきである。
 なお本研究でデジタル化したデータベースは一般に公開されているため、使用を希望する場合、著者まで連絡されたい。

6. 謝辞

 本研究で地形分類のデジタル化を行うにあたり、工学院大学の今北統夫氏、佐久間景子氏、近藤 寿氏をはじめ、多くの学生に手伝って頂きました。また本論文は東京工業大学の翠川三郎氏、査読委員である座間信作氏、柿下毅氏、及び、編集担当である高橋道夫氏によるご指摘・ご議論により大きく改善されました。本研究は防災科学技術研究所との共同研究「地震素過程と地球内部構造の解明に関する総合研究(平成10〜12年度)」、及び「強震動・震災被害予測システムに関する研究(平成13年度)」、大成建設との共同研究「GISを用いた地震被害予測システムの構築(平成11年度)」、文部科学省による「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」、科学技術振興事業団・計算科学技術活用型特定研究開発推進事業による「地震災害予測のための大都市圏強震動シミュレータの開発(平成13年度)」、及び、学術フロンティア事業である「工学院大学 地震防災・環境研究センター」による研究助成によって行われました。地形分類図のデジタル化に際し、日本地図センターによる土地分類図を使用させて頂きました。又、強震記録としてK-NETのデータを使用させて頂きました。記して感謝させて頂きます。

参考文献